第26話 遠いカントリーロード
車はトンネルを抜けて、ついに新潟県に入った。
ここからは夏の朝の爽やかな高原ドライブモードに突入!…かと思ったが、快調に走れたのは僅かな間だけだった。
「国道工事中」
「仮設道路へ迂回して下さい→」
…軽トラの行く先を無情な看板が遮っていたのである。
その向こうにはガタガタとうごめく重機車輌と工事夫らの姿が見えた。
仕方なく、案内板に従い「迂回路」である薮の中の急坂をがさがさと下っ て行くと、仮設道路というのは何と崖下の渓流の河原であった。
「これが道路?…」
サダジと王子はハモって驚いたが、とにかくその丸い川原石がごろごろしている上を走って行く。
当然乗り心地は最悪である。
荷室のフミらは大丈夫だろうか?と王子が心配していると、案の定後ろから壁をバンバン叩く音がした。
…結局河原に車を停めて休憩である。
サダジは水際の石の上に強引にシートを敷き、素足を川の水に浸し、白いタオルを濡らして顔に被せてゴロリと寝そべった。
「おぉっ!こりゃ気持ち良いや!」
いつの間にか日射しが強くなった中でサダジがそう言うと、ほかのみんなも同様にしてシートに転がった。
…川の流れる音と鳥のさえずりが聞こえる。…確かに気持ちが癒される。
しかし冷静にこの状況を傍から見れば、その姿は川から引き上げられた、一家溺死体のような情景に見えなくもなかった。
現在なら誰かにスマホで撮られて変な話題になりかねない…気がする。
…それはともかく、再スタートした後も、このでこぼこ地獄のガタガタ道をしばらく走ると、ようやく車はまた普通の舗装路に戻され 、一家は苦痛から解放された。
高原地帯から山を下って越後湯沢を過ぎると、国道は田んぼの中をまっすぐ突っ切る快調な一本道になり、サダジはスピードを上げて気持ち良さそうに飛ばす。
…越後川口から先には日本一の大河、信濃川が国道に寄り添い、ゴール長岡市が近くなったことを知らせてくれる。
目指す竹之高地はもうすぐである。
ハンドルを握るサダジの顔を見れば、疲労感の中にも希望と安堵がその目もとに浮かんでいた。
王子の心も知らず知らずに高揚して来た。
…車は東京都内からずっと乗って来た国道17号線をひたすら走って小千谷市を通過すると、急に山が開けて青々とした田んぼが広がる新潟平野に出た。
国道に沿って右側には国鉄上越線のレールが走り、ちょうど「越後滝谷」の駅が過ぎ去るのが見えた。
すでに長岡市に入って来たのである。
「やっと来たな…長岡に」
ハンドルを握るサダジが独り言のように呟いた。
軽トラックは市内の宮内という街で国道を右折して、いよいよ竹之高地に向かう県道に入った。
宮内の街並みを抜けるとまたまた田んぼ平野の中を走る。
長岡市の東側に連なる東山山地に向かって車は進み、平野を突っ切って村松という集落まで来ると、そこから先はまた山間の奥地へと入って行く。
県道は、日本一の大河信濃川に注ぐ支流の一つである太田川の渓流に沿って、川をさかのぼりながら山の奥へと向かう。
山峡の集落濁沢(にごりさわ)を過ぎると道の登り勾配がぐっときつくなり、途中右に山古志村へ分岐する丁字路を曲がらずまっすぐ進んで、坂の途中の大きな赤鳥居をくぐって太田川の橋を渡ると蓬平(よもぎひら)集落である。
蓬平は温泉が湧くプチ観光地で旅館が3軒あり、長岡駅から先ほどの赤鳥居のところまでは越後交通の路線バスが通っている。
集落の中の川沿いの細道を進むと、途中には旅館や土産物屋があり、その先の左手には山の上まで長い石段を登った所に社殿が建つ高龍神社がある。
…車は高龍神社の下を過ぎて、すっかり幅が細くなった太田川の橋を渡ったところで止まった。
…車の通れる道はここまでである。
何と、この時まだ竹之高地に車で行ける道路など無かったのだ。
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