第3話 プロローグ (王子誕生その3)
「霊安室 !? …私、死んだの?」
フミは驚いてナカに訊くと、
「何バカなこと言ってるのよ!…子供産んだとたんにお姉ちゃんがふわ~って気絶しちゃったから、アタシはとにかくどこか病室で休ませてくれって病院にお願いしたの!…そしたら、今どの病室も満杯でベッドの空きが無いっていうのよ!冗談じゃないわよ!お姉ちゃん気絶しちゃったのに待ち合い室にでも出てろっていうの?どこでもいいからとにかく静かなところで休ませてちょうだい!って訴えたのよ、アタシ !! 」
ナカは一気に言いました。
「…それで、霊安室 !? 」
フミは何だか可笑しくなって言いました。
「…うん」
ナカは肩をすぼめて答えたのでした。
「確かに静かよね、寒いけど…」
フミが呟くと、
「もうっ、子供が生まれたっていうのに縁起でもない!…よりによって霊安室だよ!」
ナカはそう言って嘆きました。
「…どおりで…さっきまで私、変な夢を見てたから…」
フミがそう言って目覚めるまで見ていた夢の内容をナカに話すと、
「何よそれ !! …アタシが必死に呼び戻さなかったら、お姉ちゃんもう少しであの世に行っちゃうところだったんじゃない!…あ~イヤだ!お姉ちゃんのバカっ !! 」
ナカは驚いて泣いて怒ったのでした。
「…ところで子供は?」
フミは何よりも大事なことをナカに訊きました。
「ハラハラしたけど、ちゃんと生まれたよ!男の子だって!…今は新生児室で寝てる。お姉ちゃんお疲れ様!大仕事だったね」
ナカはそう言って、ようやく姉妹は笑顔を見せあったのでした。
…大仕事を終えた姉妹が霊安室で泣き笑いしていた時、上階の新生児室には会社勤めを切り上げ急いで駆けつけて来たサダジの姿がありました。
室内には小さなベッドが並び、たくさんの赤ん坊が寝ていました。
それぞれの赤ちゃんの足には小さな名札が付けられ、サダジは自分の子供を探します。
「あったぞ !! 」
森緒姓と、母=フミと書かれた名札を付けられたベビーは、他の子よりずいぶん小さく儚げな男の子でしたが、時々その手足の指先をピクッと震わせながらスヤスヤと眠っていました。
…生まれたばかりの自分の息子を確認すると、サダジは気分を高揚させてナースステーションに行きました。
しかし妻の所在を看護婦に聞いて驚きました。
「あ~!霊安室でお休みになっていらっしゃいますよ」
「えっ !? 」
サダジが青ざめた顔をひきつらせているのを見た看護婦は、慌てて訂正を入れました。
「いやあの…!今は空きベッドが無くて仕方なくそこに…まもなく普通のお部屋に移っていただきますから…」
…という訳でどうにかこうにかサダジとフミの待望の子供は無事誕生し、ここから長い長い物語が始まることになったのです。…
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