第2話 プロローグ (王子誕生その2)

 …金色の蝶に誘われるまま、フワフワとお花畑の上を進んで行くと、やがて花々は途切れ、その先には大きな川が流れていました。

 …立ち止まって流れの向こうを見ると、いったいどれだけの川幅があるのか、対岸は白いモヤの中に霞んで消えていました。

 蝶はキラキラと光の尾を散らして、そのまま川の上を舞いながら向こうへ飛んで行きました。

 …川の中を見ると、澄みきった水がサラサラサラサラと穏やかに流れています。

 川底には大小の丸い石が並び、白や淡い青やピンクなど宝石のような色を水の中で揺らめかせていました。

 フミはそのあまりにも清らかな世界に嬉しくなり、足を水に入れてみました。

 川の流れは、冷たいような温かくもあるような不思議な優しさでフミの足を濡らして行きました。

 …心まで洗われていくような気持ち良さに、フミはいつまでも水に浸っていたいと思いましたが、やがてどこからか人の声が聞こえて来たのです。

 …周りを見渡し、耳をすますと、どうやら声は川の向こう側から聞こえて来るようでした。

 フミが川の向こうのモヤをじっと見つめていると、だんだんとモヤの中に白い服を着た人影が現れてきました。

 …顔までははっきり分かりませんが、フミはとても懐かしい気持ちがして、その人たちが自分のことをよく知っている方々だという感じを覚えたのです。

「…ぉ~ぃ!! 」

 遠くかすかに聞こえる声は、確かにフミを呼んでいます。

 …フミはゆっくりと川の中を向こう側へ歩き始めました。

「…お~い!」

 だんだんと呼び声ははっきり大きく聞こえてきます。

 …気が付くとフミは川の水面上をするすると滑るように歩いていました。

「早く川を渡らなきゃ…!」

 …フミがそう思ったまさにその時!

 突然誰かに後ろからガッと腕を掴まれたのです!

 フミがそれを振りほどいて強引に進もうとすると、背中から別の声がかすかに聞こえてきました。

「…ォネェチャーン !! 」

 誰かと思って後ろを振り向いたとたん、フミは頬に激しい痛みを感じました。

「お姉ちゃん!」

 …ハッと気が付くと、すぐ目の前に妹ナカの泣き顔がありました。

「お姉ちゃん!」

 ナカは泣きながらフミの頬をバシバシ叩いていたのです。

「痛いよ!…あんた何泣いてんの?…ここは何処?」

 …フミはようやく戻って来た意識の中で言いました。

 しかし返ってきたナカの言葉を聞いて再び気を失いそうになったのです。

「…ここは、霊安室だよ!お姉ちゃん…」

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