第13話 役者、揃いて
司令部に使われている古い建物の中を進みます。
傑君、手加減してくれて――左右の頬っぺたを突かれます、あぅ。
「エルさん、ヨルさん」
「ユズ、今は目の前に集中なさい」
「そうよ。さっきも言った通りガス抜きは必要。造反するならそこまででしょ? 話を聞く限り、結局、援兵は一切なく重包囲下で見殺し同然だったみたいだし。自分達は約束を果たす為に精一杯、努力しました? まぁ、自己満足の戯言よね」
「あぅあぅ。お、御二人共ぉ」
「ユズは優し過ぎるのよ。そこがいい所なんだけど」
「あんたに同意するのは癪だけど、まぁ、そうね」
「「がぅがぅ!」」
「うぅ……」
御二人と、サイカさん、スズシロさんまで同意されます。
そんなんじゃないんですよぉ。
――扉が見えてきました。
中から声がします。小絵ちゃん以外も誰かいるみたいです。
ノックします。「……開いてるわ」と、不機嫌そうな声。えへへ。
「む……」「へぇ……」
扉を開けます。
前の椅子にはキャロルさん。優雅にお茶を飲まれています。僕達を見ると、満面の笑み。
机の上には膨大な書類の山。あー! また、自分で全部しょい込んでっ!!
「……何? 見れば分かると思うけど、私は忙し――……」
「ただいま、小絵ちゃん♪」
瞬間――書類が宙を舞い、床に押し付けられました。頭を打たないように、風魔法でクッションが生み出されています。あぅあぅ。
「………………本物、よね? 偽物、じゃないよね?」
「えっーと、うん。多分」
「多分って、何よっ、多分って!」
「――ごめんね。ただいま」
「ゆ、柚樹っ」
「はーい。お仕舞」
「『策士』、あんたって、人前で男を押し倒すはしたない女だったのね?」
エルさんとヨルさんが、小絵ちゃんの腕を掴んで引き離します。
僕も立ち上がって、にっこり微笑みます。
すると、小絵ちゃんは
「!?!!」
林檎みたいに頬を赤らめ御二人の手から逃れると、取り繕うように椅子へ座りなおしました。
「…………遅刻よ」
「ごめん。でも、二度と何処かに行かないから」
「……嘘」
「嘘じゃないよ」
「……ま、いいわ。信じてあげる」
「えへへ、ありがと」
「柚樹様、お待ちしておりました」
「キャロルさん、お待たせしました。あとは」
廊下を駆ける音。
扉が勢いよく開きます。
「ゆーくん!」
「あかり、廊下は駆けちゃ駄目だよ? クーさんは??」
「物資の搬入を監督してもらってます。小絵さん、戻りました」
「……物資、ね。柚樹」
「うん。小絵ちゃん、事情を説明するね。ヨルさん」
「スズシロ」
ヨルさんがスズシロさんに声をかけられます。
すると、空中に地図が浮かび上がりました。
……ちょっとだけ高い気がします。
背伸びしながら、手を伸ばします。
「今、僕達がいるのは、ここグ・オン。そして、後方には共和国との国境が、あります。そして」
「レヴィーユ共和国は、今回の帝国内乱に全力で介入することを決したわ。で、私のユズは、共和国遣西総軍司令。ま、全権委任ね」
「誰が、あんたのよっ!」「あら」「……私の、ねぇ」「…………」
「えっと、えっと、そうなんだけど――」
皆さんを見渡し飛び跳ねながら、表示されている飛空艇船団を指差します。
「今、共和国内で物資移動の準備を進めてもらってます。帝国軍全軍を半年以上、維持出来る量です」
「柚樹、椅子を使――ごめん、続けて」
「? あ、うん」
小絵ちゃんが僕を注意しようとして、止まりました。
あかり、どうして笑ってるのさ?
「でも、柚樹様、流石にそれだけの物資は多過ぎるのではありませんか? 将兵達は各地から集まってくれていますが、その数は……」
「将兵達用だけじゃない――そうよね?」
「うん。小絵ちゃん、相手の前衛はきっと貴族軍だよね?」
「当然。何しろ国を売った連中よ。魔王が信用する筈がない。間違いなく、先鋒」
「『策士』、数は?」
「全軍を投入する――なんてことをする筈がないから、精々十万ってとこじゃないかしら」
「現状、こっちの戦力は?」
「コーラルの生き残り達と、集まりつつある敗残兵を合わせても万には達しない。第一、敗残兵達の再編には時間がかかるし、間違いなくスパイも混じってる。信用は出来ないわ」
「――でも、勝つんでしょ? 血も殆ど流さずに」
ヨルさんが楽しそうに、僕へウィンクをしてきます。
頷きます。
「幸い共和国からの物資供給については、何一つ心配する必要はないです。受け取りと配分も――あかり?」
「ゆー君、お姉ちゃんに任せておいて♪」
「細かい部隊運営は小絵ちゃん……えっと、あの」
「やるわよ。完璧にね。あんたは、もっと大きな絵を描けばいい」
「――うん。えへへ、ありがと」
「っ……」
小絵ちゃんが、机に突っ伏してぷるぷる、と震えてます。
ぼ、僕、また怒らし――エルさんに抱き上げられました。
「あぅあぅ。エ、エルさんっ」
「ユズ、続きを早く。私にも、早く役割をちょうだいっ!」
「がぅ!」
「エル・アルトリア、落ち着きなさいよ」
「えっとえっと――」
手を伸ばして、『カストル』を指差します。
――説明を終わると、皆さんの目に理解と戦意が浮かんでいました。
「僕の案は以上です。どうでしょうか?」
「ユズは天才ねっ! 好きよっ!!」
「「「!?」」」
「柚樹様、私にそのような事が本当に出来るのでしょうか……?」
エルさんと三人が睨み合ってる間に手から抜け出し、不安そうなキャロルさんに微笑みます。
「出来るか、出来ないか、という段階はもうとっくの昔に過ぎています。やるか、やらないか、です。僕はキャロルさんなら、何も問題はないと思っています。だって、貴女は」
「私は?」
「――この国を、そこに生きている人達を愛しておられるから」
「……柚樹様……ありがとうございます」
「大丈夫です――えっと……」
裾を四方から引っ張られました。目が怖いです。
あぅあぅ。な、仲良くしましょうよぉ。
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