第12話 恥を知る者
降下していくとあっという間に、グ・オンが見えてきました。
元々、レヴィーユ共和国との国境近くにある都市なので、地方にあるとはいえ、分厚い城壁に囲まれています。通常の攻城戦ならば威力を発揮するでしょう。
けれど、小絵ちゃんはそう思っていないみたいです。
「城壁の内外にも築城してるわね。北の方でも、とんでも地下要塞を作ったみたいだし、何? あんた達ってそういう文化なの?」
「え、えーっと……僕達の、ひいおじいちゃん達は得意だったみたいですね。スズシロさん、中央の広場へ降りていただけますか?」
減速しながら、ふわり、と僕達は広場へ降り立ちました。
一部の兵士さん達が、剣や槍を向けてきましたが、後ろから一人の将官さんが出て来て押し留めます。
「止めろ、止めろ。そいつに手を出したら、瞬時に殺されるぞ? ……よう、坊主。久方ぶりだな。で、何だ、そのけったいな恰好は?」
「少将さん、お久しぶりです。あ、やっぱりこの格好、変、むぐっ」
「変じゃないわ。そうよね? エル・アルトリア」
「ええ。そいつの目が腐ってるだけよ。何処から見ても、誰が見ても、私のユズは可愛いわっ! これは、永久不滅、たとえ神が否定しても肯定される、基本原則……あんた、とっとと、ユズから離れなさいよ。しっしっ、森へ帰れっ!」
「そうね。こいつが可愛いのには全面同意するし、否定したら皆殺しでも良いと思う。――答えは否よ。ほら、見なさい? こいつだって、私に抱き着かれた方が嬉しがってるわ。エル・アルトリア、蛮人は蛮人らしく、洞穴へお帰りなさい」
「…………ふーん」
「…………へぇ」
「ぷはっ。エ、エルさん! ヨ、ヨルさんも! だ、ダメ、ひゃぅ」
「ん~柚子っちあったかぁ、ほんわかぁ。癒されるぅぅ。さ、二人は喧嘩したいっていうから、私達は先へごー。あ、の前に~――ねぇ、少将さん」
「お、おぅ」
「…………柚子っちを否定したら、貴族や魔族に殺される前に、今度こそ私が貴方を殺しちゃうかもよぉ♪ ――私達にとっては、帝都から来た貴方達も敵とそう大して変わらないってこと、忘れちゃ嫌かも? 小絵に全てを押し付けておいて、今更、味方面するのって、どーなの? ねぇ、どういう神経なの? 第一、私、まだ謝罪も、何も聞いてないけど? よーは、北で死んだ兵士さん達のことなんか、どーでもいいんでしょ? 結局、増援は来なかったし、ねっ!! あれだけ、啖呵をきっといてさぁ……で、散々負けたからって、ここでまた将軍面するなんて。何? 何がしたいの? 次は、私達を後ろから刺すの? あーそっかぁ。目の前で死んでくれないと、安心出来ないもんねぇ」
「そ、そんなっ、閣下は職をなげうってまでっ……!」
「止めろ…………肝に、命じておく」
「別にいいよ。どーでも。貴方達の事情なんて知りたくないし、興味もない。だって、事実は一つじゃん。『異人なら出来るだろう?』って、私達に全部を押し付けて、貴方達は逃げた。怪我してる人達をぜ~んぶっ、置き去りにしてっ!!! ……私達にとって仲間は、北方で一緒に戦った人達だけ。遅れた悲劇のヒーロー気取りは止めてくれない? なんだったら、貴方達だけで」
「とわさん」
振り返って、僕から抱き着きました。
背中を優しくさすります。
「大丈夫です。大丈夫。――ごめんなさい。僕は、もういなくなったりしませんから。ね? 少将」
「……何だ」
「グロリアで何があったかは知りませんし、知ろうとも思いません。ただ、人は恥を忘れたら駄目だ、と僕は両親から教わりました。その事―—忘れないでください。絶対に、絶対に、絶対に忘れないでください。それを忘れられたのなら――貴方達は僕の、僕達の敵です」
「…………了解した」
少将へ微笑みかけます。
さて、小絵ちゃんに会わないと。腕の中で静かにしている新見さんへ声を、あれ?
目を閉じられたまま、幸せそうな笑顔で固まちゃってます。あぅあぅ。
エルさんとヨルさんが、呆れた声を出されました。
「……ユズ、少しは手加減をしなさい、いけない子ね」
「……そういうのを過剰攻撃って言うのよ? 法律違反だわ」
「そ、そんなつもりはないですよぉ」
う~で、でも――新見さんの身体が持ち上がりました。
傑君です!
「何事かと思ったら、柚子、こいつは預かった。御大将が、中で首をながーくして、お待ちだ。早く行ってやってくれ。何か他あるか」
「うん。物資を下ろすから、差配を。それと、あかりに小絵ちゃんのとこへ来るよう伝言をお願い!」
「物資? ――まーいいわ。お前の言う事だからな。あいよ」
「ありがとっ!」
嬉しくなって、その場で跳ねちゃいます。
えへへ、僕、傑君のこと大好きです――突然、エルさんとヨルさんが、間に割り込まれました。どうしたんでしょうか?
「あー柚子、行ってくれ。ここは任せとけ」
「う、うん! エルさん、ヨルさん」
「「……」」
無言で手を握りしめられました。えっと、えっと?
傑君と目が合います。片目を瞑り、肩を竦めて、少将達へ近付いていきます。
「――おっさん、俺からも話がある。覚悟は、出来てんだろうな?」「……ああ」あぅあぅ。と、止めないと。
「ユズ、あれは必要よ」
「そうね。一枚岩は望むべくもないけどガス抜き無しじゃ、どうにもならないわ。戦場で裏切られても面倒だし。ま――それ以前に血は流れない、そうよね?」
「む……あんた何よ、その顔は。ユズ?」
「だーめ。私とこいつのひ・み・つ、なの♪」
「!? う~ユ、ユズぅ」
エ、エルさん、そ、そんな顔しないでください。
ヨ、ヨルさんも、い、意地悪禁止ですっ!
――僕の案なら、血は流れないと思います。無血かどうかは、分からないですけど。小絵ちゃんとあかりに助けてもらわないといけません。
勿論、御二人にも、ですっ!
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