第11話 甲板上にて

 『カストル』はその船足を活かし、首府から帝国領内へ。

 既に雲の下は、小絵ちゃん達が守りを固めている都市グ・オンです。


「それじゃ、僕達は先行します。艦長さん、連絡あり次第、物資搬入作業をお願いします」

「はっ! お任せを」

「ゆーくん、私は物資と一緒に降りるから。クーさん、手伝ってくださいますか?」

「あ、う、うん」


 あかりが僕の手を放して、艦長さんのもとへ歩み寄りました。クーさんもしっかりされているので、安心です。

 さ、僕は――空いた右手をすぐさま、ヨルさんが握ってきました。あぅあぅ。


「……何よ? 握っちゃいけないわけ?」

「むっふっふっ~ヨルっち、ツンデレは今時、流行らないよ~。公平なくじ引きの結果だったんだからね? エルっちーそろそろ、後ろどいてよー。ずるいよー」

「だーめ。はぁ……ユズはほんと、抱き心地がいいわね。そうだわ、今晩から一緒に寝ましょう。そうしましょう」

「「「駄目っ!」」」


 ……あれ? 今、ヨルさんと新見さん以外の声がしたような。

 気のせいでしょうか?

 エルさん達には聞こえていないみたいです。う~ん、疲れて――後ろから、エルさんにぎゅーとされました。


「あぅあぅあぅ、エ、エルさん」 

「はぁぁぁ……ちょっと待って。今、体力とか精神とか諸々全部回復してるから」「エル・アルトリア! ずるいわよっ!」

「エルっち、交代制ねー」

「……分かってるわよ。サイカ!」 

「グルル」


 甲板上で、サイカさんが本来の姿に戻られていきます。わっ。くすぐったいですよぉ。

 エルさんが後ろから離れて、すぐさま新見さんがぎゅー。


「新見さんまでぇ」

「うわ、うわ、うわぁぁぁ。これ……すっごいよぉ……柚子っち、もしかして、合法麻薬だったり?」

「ニイミトワ!! は、早くどきなさいよっ」

「えー。ヨルっちはいいんでしぉ?」

「うぐっ……あ、あんたねぇ……」

「おっと! 怖い怖い。にしし、はい、どーぞ」

 

 新見さんが、笑いながら離れられ、サイカさんの背に飛び乗りました。「ち、ちょっと、そこはユズの」「いいからーいいからー……お話ししたいんだよね」「……そうね、私もよ」。エルさんと新見さんが笑いあっています。何か楽しい事があったんでしょうか?

 ふわり、と後ろから優しく抱かれました。


「ヨルさん?」

「…………何も言わないで。今、充電中だから」

「は、はぁ。えっと、あの」

「! ち、ちょっと、に、にゃにを」

「えへへ、いい子、いい子です」

「~~~~っ!!!!」


 わーわー。だ、駄目ですよぉ。そんなに、甲板に足を叩きつけちゃ。

 ス、スズシロさん、助けてくださいっ!

 僕が困った視線を送ると、甲板上で待たれている、スズシロさんが風魔法を使われました。

 

「わっ」

「ス、スズシロ?」 


 すとん、と背中に着地。

 隣から、エルさんが声をかけてきます。


「ユズ、準備はいい? ちびっ子、地上まで、ちゃんとユズを守るのよ? 傷一つでもついてたら……殺す」

「はぁ!? 誰に言ってるのよ。私の名前はヨル・グリームニル。大陸最強の『剣聖』。あんたが守るより、安全だわ」

「……まぁいいわ。後でね」

「え? ええ……」


 サイカさんが飛び上がりました。ヨルさんは、不思議そうにエルさんを見られています。


「……悪い物でも食べたのかしら? 言い返してこないなんて気味が悪いわね」 「えっと、えっと、エルさんは悪い人じゃないんですよ? ちょっと、過保護ですけど」

「分かってるわ。折角の機会だし。帝国全土でも見て回る? スズシロなら、そんなに時間はかからないわよ?」

「そうですね。平和になったらお願い出来ますか?」

「ふぇ」


 ヨルさんの顔が、見る見るうちに赤くなっていきます。林檎みたいです。僕、変な事を言ったでしょうか?

 俯かれて、ぷるぷる、と震えています。


「ヨ、ヨルさん?」


 恐る恐る声をかけると、がばっ、と顔を上げられました。

 え、えっと……。


「今の」

「はい?」

「……今の言葉、嘘じゃないわよね?」

「はい。あ、帝国だけじゃなくて、共和国も案内してほしいです」

「!?!」

「? ヨルさん??」


 また、沈黙されてしまいました。んー……取り合えず、僕等も出発しないとですね。スズシロさん、お願いします。

 ふわり、と浮かびあがりました。後ろを振り返ります。


「艦長さん、では」

「はっ! お気をつけて」

「ゆーくん……」

「…………」

「あかり、クーさん、すぐ連絡します。搬入作業の指示、よろしくお願いします」


 三人へ敬礼します。

 窓からこちらを覗かれている乗組員の皆さんが、僕を見て微笑まれています。エルさん達がいるので安全ですけど、一応敵地へ行くんですが……。

 スズシロさんが、降下を開始しました。前方には、サイカさんが見えています。二人は、何か話されているような――あぅあぅ、ヨルさん、フードの耳を引っ張らないでくださいぃぃ。


「今回の件が終わったら……うちの実家へ来て。こういうのが好きな子がいるし、私も着てほしい服があるから」

「……か、可愛い系じゃないですよね?」

「勿論――エル・アルトリアなんかに負けない可愛いやつ」

「えーっと……辞退」

「へぇ。さっきは人に案内してくれっていいながら、もう言葉を翻すんだぁ」

「うぅ……わ、分かりました。い、行きます」

「そ、なら、とっとと終わらせないとね。私が斬ってもいいけど、何か策があるの?」

「あ、はい」


 ヨルさんに向き直りました。

 何となく嬉しくなって、笑顔になっちゃいます。

 

「な、何よ。早く言いなさい」

「今回、エルさんとヨルさんに手伝ってもらうのは、最終局面だけだと思います。大半は――ですね」

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