第8話 報告書

 あかりと一緒に、小絵ちゃんからの手紙を読みます。

 ん~と……これは……。


「お手紙というより、ゆー君への報告書ですね。それと、現状の問題と今後の戦況について。小絵さんらしいです」

「ニーナさん、問題については大半が物資窮乏によるものです。急ぎ、兵站状況の改善策を」

「かしこまりました――そして、出来ております。こちらを」

「うわぁ、ありがとうございます。えっと、えっと……うん、大丈夫だと思います。メインは水運で。陸路はあくまでもサブと考えて下さい。また、輸送する際は、十分な護衛を付けた上で」

「一挙に、でございますね? 抜かりなく。ユズ様発案のアルトリア家式輸送方法をそのまま採用致します」

「ユズ、飛空艇はどうするの?」 

「本当は使いたいんですけど……改装状況はどうなってますか?」

「昨日の報告だと、いち早くドック入りした『カストル』は明日にでも出渠出来るわ。他の艦は大分、抵抗したみたいだから……飛行戦力は、当面、エル・アルトリアの騎竜とスズシロ、だけと考えた方がいいわね。そこら辺の折衝はうちの愚弟にどうにかさせる。一つ提案があるんだけど、輸送用の旧式飛空艇団は、咲森小絵へ指揮権を渡した方が効率良いんじゃない? あの子なら、巧く使うでしょう」 

「へぇ……ちびっ子、見直したわ。ユズ?」

「んーと、新見さん」 

「なーに?」

「小絵ちゃんは、夜、ちゃんと寝てますか?」

「あーんーと……」

「小絵さんは、寝不足みたい。ゆー君の足を引っ張れないって」

「あかり!?」


 新見さんが慌てた様子で、あかりを止めようとします。

 ああ、やっぱり……小絵ちゃんは、頑張り屋さんなので、自分を大切にしないところがあるんです。

 僕はヨルさんに首を振りました。


「止めておきます。多分、小絵ちゃんならば、僕よりもずっとずっと、巧く使いこなすとは思いますけど……今は、お仕事を取り上げることを最優先にします!」

「了解したわ」

「ゆー君、小絵さんを助けてあげて」 

「うん!」

「柚子っち、あたしからもお願い。小絵はさ~……色々、抱え込むから。やっぱり、柚子っちがいないと、みんなみんなダメなんだよ」

「大丈夫です、新見さん。僕、頑張りますからっ! ニーナさん」 

「承りました。こちらは御任せを」

「ありがとうございます。エルさん、えっと――僕、行こうと思います」

「はぁ……総司令官自らが、前線へ進発するなんて、古今の戦でも聞いたことがないわね。ま、だけど、ユズだものね。仕方ないわ。ちびっ子、あんたはこっちへ残ってもいいのよ? 私は勿論、ユズと一緒に行くけど」 

「はぁ!? 行かないわけないでしょう? こっちは、ニーナと愚弟に任せればいいし、遠隔地でも、この子なら問題ない!」 

「あぅあぅ。えっと、エルさん、ヨルさん、ありがとうございます」

「…………」


 左袖を引っ張れました。

 視線を向けると、無言のクーさんが、じーっと僕を見てきます。

 な、何ですか? だ、駄目ですよ? これから行くのはとっても危ない所なので、クーさんを連れていくわけには……。


「ゆー君、お姉ちゃん仲間外れは駄目だと思うの」 

「!? あ、あかりまで。だ、だけど、危ないから……」

「ゆー君が連れて行かないのなら、私と一緒に来ますか? えっと」

「クーよ」

「クーさん。私が受け持っているのは、主に怪我をされた方の治療です。最前線に出ることはありませんけど……負けたら、逃げることも出来ません。それでも、よろしいですか?」

「構わないわよっ! あたしだって、こいつの……ユズの力になりたいのっ!」

「……分かりました。クーさん、一緒に来てください。僕が、前線に出る時は、あかりの所で」

「うん、分かった」

「ま、ユズが前線に出る事なんかないんだけどね。全部、私が斬るし」

「あぅあぅ……エ、エルさん、身も蓋もないですよぉ……」 


 机に突っ伏した僕を見て、皆さんが笑われます。

 ぼ、僕だって、一生懸命鍛えてますし、少しまともに――隣のあかりが抱き着いてきました。


「ゆー君は、危ない事をしないで、ね?」

「あ、あかり、そういう訳にはいかないよ。僕だって、僕だって男」

「よく言ったわ! そう、そうなのよっ!! ユズが危ない事をする必要なんか世界の何処を探しても存在しないわっ! あったとしても――私が斬る!」

「自分だけ、ええかっこしてんるんじゃないわよ――あんたの敵は私の敵。ヨル・グリームニルの名に賭けて、そんな事はさせないわ」 

「そーそー。柚子っちはそこにいてくれさえすれば良いんだよ。それだけで勝ったも同然! 怖いモノなしっ」

「う~……!」

「うふふ♪ ユズ様は大人気でございますね。ニーナも同意見でございます。物資供給は御任せあれ。兵站、それすなわち物量こそ力、という冷徹な現実を、魔王に見せつけて御覧にいれましょう。終戦後の褒賞一番手は、このニーナがいただきますっ!」

「あぅあぅあぅ」

「ね? ゆー君。皆さんもそう言って下さってるんだから。一緒に来てくれるのは嬉しいけど、あっちでは私とクーさんと一緒にいて」


 あかりが手を僕の両手を握りしめてきました。目が潤んでいます。

 ぼ、僕は……僕は……。

 ――結局、この後、皆さんの前で『最前線で戦わない』『自分の剣は持たない』と約束させられてしまいました。 

 い、いいんです。こっそりと練習は継続しますから。


「ゆー君、今日から一緒に寝ましょうね?」

「あかり! ちょっとそれは認められないわっ!」   


 

 ……取り合えず、あかりが皆さんと馴染んでくれたので良かったと思います。 

 この子、昔は凄く人見知りで、僕以外にはちょっと冷たいところがあったので。

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