第6話 従者

「――人材については、今の段階でこんな所でございましょうか。五日も時間をいただいておりながら、この程度……嗚呼、ダメなニーナを御許し下さい、ユズ様。よよよ」

「えっと、えっと……ごめんなさい。僕じゃ知らない人ばかりなので。エルさんとヨルさんはどう思いますか?」

「問題はない、と思うわ。だけど、ニーナ、貴女……昔のコネを使ったわね?」

「正直、あり得ない陣容ね。空軍だけでなく、陸海軍からも……しかも、各省庁や民間からもなんて。これだけの人材が招集されるなら、いっそ大陸制覇でも狙ってみる? やれなくはないわよ。あんたと小絵達がいるなら、『剣星』が敵になってもどうにか出来るだろうし」

「え、えーっと……」


 首府に帰還してから、五日間が経ちました。

 その間、色々な人達に会って、色んな話をして……途中でヨルさん達も帰って来られたので、また話をして……とにかく、いっぱいいっぱいお話をしました。

 小絵ちゃん達の撤退も無事完了して、今は休養しつつ陣地構築と、兵を募っている状態です。

 キャロルさんは、僕達よりも早く帝国へ戻られました。危険です、と説得したんですけど……「小絵達と兵達だけに苦労をかけさせるわけにはまいりません。後の事は全て、ユズ様の御心のままに」。やっぱり、あの方は凄い人だと思います。僕も頑張らなきゃ!

 

 ――勝つだけなら、そう難しくはありません。


 エルさんとニーナさんとサイカさんがいて、小絵ちゃん達もいます。しかも、これに共和国の全面支援がつくんです。負けようがありません。

 ……けれど、ただ勝つだけじゃ駄目なんです。

 賢人委員会の人達が、僕を信任してくれたのはあくまでも『儲ける』為。戦争に勝つことじゃありません。

 それを成し遂げる為には、色んな人の力を借りる必要があります。

 最初は、エルさんとヨルさんに頼もうかな、と思っていたんですけど……ラルさんはさっきから呆然とされていましたが、呻くように呟かれました。


「――ニーナ……そうか、貴女があの『謀聖』殿かっ! ほ、北方戦役で十倍にもなろうかという敵兵を、兵を歩かせただけで遊兵化させた、という伝説の……退役されたと聞いていたが……」

「ふふふ。昔の話です。今の私は、ユズ様の忠実なる副官っ!! ……まぁ、昔の使えなかった子達が、今回は多少役に立ってくれましたが」

「へぇ。貴女が。丁度いいわ。折角だし、うちの愚弟も鍛えなおしてくれないかしら? 甘ったれで困ってるのよ」

「!?」

「と言うか……ヨル・グリームニル。あんた、何時までいんのよ。もう任は解かれたんでしょ? とっとと帰れっ! しっ、しっ」

「ええ、任は解かれたわよ。だけど――」

「なっ!」


 あぅあぅ、ヨルさんが僕の手を握ってきました。

 そして、上目遣いな視線を向けられつつ、尋ねてこられます。


「ねぇ……私は、あんたを助けたいわ。助けさせてくれない?」 

「え、で、でも……危ない、ですよ?」

「ふふ、私は『剣星』よ? そんな私に危ないって、言ってくれるのは、きっとあんただけね。大丈夫――私があんたを守ってあげるわ」

「でもでも」

「はーいっ! お仕舞っ!! ……まぁいいわ。歓迎はしないけど。精々、ユズの為に、馬車馬の如く働くといいわっ」

「……エル・アルトリア、心が狭い女は嫌われるわよ?」

「残念でした。私のユズはそんな子じゃないんですぅ。あれぇ? もしかして、あんたの中のユズはそんな子なのかしらぁ」

「……上等っ」

「エ、エルさん、ヨ、ヨルさん、け、喧嘩は、わぷっ」


 突然、ニーナさんに後ろから口を塞がれました。

 上を見るとまるで悪戯っ子のような笑顔です。


「ニーナさん?」

「そろそろでございます」


 何のこと――廊下を駆ける音。

 ノックもなく、扉が乱暴に開け放たれました。

 息を切らし、少し涙目になりながら入ってきたのは、とっても可愛い猫族のメイドさんでした。


「ク、クーさん!? ど、どうしてここに」 

「っ」


 僕の顔を見ると、つかつか、と寄って来て優しく抱きしめられました。

 胸に温かいモノが流れていきます。


「…………良かったぁ。あんたが、帝国へ行ったってニーナ様から聞いて私、私……無事で良かったぁぁぁ。ほんと、ほんとに良かったぁぁぁ」

「えっと、えっと――ごめんなさい。ありがとうございます」


 優しく背中をさすります。

 だけど、本当にどうして――あ。ニーナさんを見ると、ウィンク。もう。

 エルさんとヨルさんが、ジト目で睨んできます。これは仕方ないですよぉ。

 御二人は矛先をニーナさんへ向けましたが、どこ吹く風です。

 

「よろしいですか? エル御嬢様とヨル御嬢様は、ユズ様の『剣』でございます。そして、私はふ・く・か・ん! そうしますと、身の回りの御世話をする者がおりません。私が兼任しても構わないのですが……栄えあるふ・く・か・ん! となった以上、完璧を超える完璧を目指すのは最低ライン。なので、絶対にユズ様を裏切らないクーさんを御呼びした、というわけでございます。御本人に確認したところ、是非に、とのことでございましたので」

「で、でも、クーさんは学校が」

「……そんなの、後からでもいいわよ。あたしに黙って、あんたが戦場なんかに行くなんて、ダメなんだからねっ」

「えっとえっと」


 エルさんとヨルさんに助けを求めますが――拗ねられていますが、どうやら容認されるようです。あうぅ、味方がいません。



「ユズ様、異人様達の使者も明日には到着するとのこと。間髪入れず、具体的な作戦会議をそろそろ開きたいと思っています。賢人委員会を紛糾させている、役職名も決定した、とのことですので――細かい話はこの副官ニーナに万事御任せを。ユズ様は大きな大きな絵を御描き下さいね♪」 

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