第3話 国是
話し終えた僕は、賢人委員会の方々にお辞儀をして、エルさんの隣へ戻りました。言いたい事は言えました。後は――統領様が机を叩かれました。
「では、決を取る。柚子森殿の案に賛成な者は起立願う!」
僕と視線が交錯。すると、ニヤリ、と笑って下さいました。
少し会釈をします。
「ただ、最後に一点だけ。エル・アルトリア殿」
「何かしら?」
「コーラルにおける戦果、『剣星』として見た際、どの程度? また、帝国軍の実力はどうか?」
「ゴブリン衝撃軍はもう軍として体を成してない、と断言出来る。帝国軍の方は、かなり手強いわよ? 本気で倒したいのなら――『剣星』が何人か欠ける事も想定しておきなさい。ただ、少なくともユズが共和国の味方である限り、絶対に裏切らないわ」
会議場がざわつきます。
ちょっと言いすぎかな、と思いますけど……ん~でも、小絵ちゃんとあかりがいるし、油断してればそうなるかもしれません。もう一度、見ていますし。
統領様が、咳払いをし動揺を治められました。
「と、いう訳だ。では、もう何もないな?」
質問は――すっと、ゴズさんが挙手され僕ではなく、キャロルさんを見られました。
「キャロル・デレイヤ殿下にお尋ねしたい」
「はい、何なりと」
「今回の案――たとえ、帝国が再建されても、事実上、我が国の属国になるに等しい案だ。それを呑まれる事に不満はないのか?」
「ありません」
「……何故だ? 確かに柚子森は優秀だ。また、信頼出来る小僧でもあるだろう。だが、俺達は別な筈だ。本当に、そうなってしまって良いと思っているのか?」
「大変失礼を申しますが、愚問でございます」
「ほぉ」
キャロルさんが、数歩前へ踏み出されました。。ぼ、僕も――エルさんに手を握られました。
見ると、首を振られています。……分かりました。
「コーラルへ向かう途中、私は共和国最新鋭飛空艇に搭乗する機会を得ました。正直申しまして……帝国とは比較することすら出来ません。先程、属国化、と申されましたが、それは遅いか、早いか、の違いと理解しております。仮に魔王軍との戦争に勝利したとしても、共和国が本気を出せば、疲弊した帝国経済を牛耳る事は容易い事でございましょう? ならば――柚樹様が、いらっしゃるこの時代に共和国と誼を繋ぎ、国土を保持し、技術を得る利の方が遥かに大きいのは自明。何しろ、少なくとも柚樹様が御健在である限り、決して悪いようにならないからです。後の事は後の世代に任せて、私は、今、自分に出来る最善を選択した、と確信しております」
「…………がははははっ! いいなぁ、いいなぁ、おいっ! おぅ、どうだ姫さん。うちの息子を婿にしねぇか? イイ男だぞ?」
「それは――柚樹様よりもですか?」
「おっと、そいつは無理な相談だ。統領! 俺は――反対だ!」
会議場が再び大きくざわめきました。
そこに、また女性の声。
「私も反対ね」
「ゴズ、ヘラは反対か。他の者は?」
すると、次々に「反対だ」「反対せざるをえない」「これは賛成など出来ないのぉ」……うぅ。僕、どうやら失敗してしまったみたいです。
それじゃ、この後は小絵ちゃん達と合流して独力で――あぅ。エ、エルさん? どうして、笑っておられるんですか?
結局、十二名いる賢人委員会の方々の内、十一名が反対を表明されました。
未だ、答えを発していない統領様は大きく溜め息を吐かれ、理解出来ない、といった表情をされながら、円卓を見渡されました。
「……まったく、何を考えているんだ? ここで、反対意見を言えば、我が国は、新帝国の中枢に座れば、間違いなく数年後には我々が頭を下げている可能性が高い子を向こうへ走らせ、『剣星』二人とアルトリア家をも失うかもしれない、というのに……嘆かわしい事だ」
「何だ? まさか、統領は賛成だってのか?」
「勿論――――反対に決まっている。こんな案、飲める筈がなかろう。キャロル・デレイヤ殿下」
「……はい」
「我が共和国には幾つか国是がありましてね、その内の一つにこのようなものがある。『投資の決断は慎重にも慎重に。けれど――決断した後は迅速かつ最大の利を取れ。如何なる手段を取ろうとも』とね。柚子森殿、貴殿の案では、おそらくアルトリア家からの支援のみを基本は考えているのでは?」
「はい。それでも、相当踏み込んでいると思いますが……」
「では第一から第三までの各航空艦隊を、貴殿の直接指揮下に回そう。好きに運用してくれたまえ。それと、物資支援だが――共和国の総力を当てにしてもらって構わない」
「!?」
思わず絶句してしまいました。
三個航空艦隊って……しかも、第一航空艦隊って、共和国空軍最強部隊じゃないですか。確か『ゾディアック』級が集中配備されてた筈です。
これに加えて、共和国の総力――えーっと。
「もしかして……魔王領まで奪取しないと、僕、捕まっちゃいますか?」
「大丈夫よ、ユズ。こいつらがそんな事、言うようなら……ねぇ?」
「グルルッ!」
「全て君に任せる。金は出そう。物資も好きなだけ供給する。三個飛行艦隊で足りなければ、何でも言ってくれて構わない。その代わり、我が国をしこたま儲けさせてくれ。私達十二人が、可愛い子や孫から、罵らずともすむように。それさえ、守ってくれれば――帝国諸問題について、我が国は柚子森柚樹殿に全権を委任する。これは、共和国賢人委員会としての正式決定だ。ああ、勿論、カッコいい役職もこれから考えておく」
「…………分かりました。では、その権利を早速使います。エルさん」
「何、ユズ」
「えっと、こんな事になっちゃました。一緒に来て――あぅあぅあぅ」
言い終わる前に、思いっきり抱きしめられました。く、苦しいですよぉ。
サ、サイカさんも、く、くすぐったいですぅぅ。
「馬鹿ね。役職なんか関係ないわ。ユズはユズじゃない。大丈夫よ。私とサイカで全部、ぜ~んぶ、蹴散らしてあげるっ!」
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