第2話 戦況報告➁
ここまで話終えた僕は、用意しておいた投影宝珠を使いました。
賢人委員会の方々の前に、共和国と帝国の地図が浮かびあがります。
えーっと……んしょ、んしょ。
「まずっ、帝国東部は、コーラル、デナリが既に陥落。コーエンっも、おそらくそう長くはもたない、と思いま――あぅあぅ。エ、エルさんっ」
「ん~? ユズじゃ、背が届かないでしょう? さ、説明を続けて♪」
「う~……」
一生懸命、背伸びをして説明していたらエルさんに後ろから抱きかかえられてしまいました。や、やりやすいですけど……けど、その……。
賢人委員会の方々が、楽しそうに見てるんですよぉ。
統領様が、先を促されました。
「それで?」
「は、はい――帝国東方方面軍残余と、エルさん達の活躍でコーラルを包囲していたゴブリン衝撃軍は撃破。現在、帝国南西部へ向けてこの部隊は撤退中です。なお、今回の作戦において、負傷者こそ多数出ましたが、死者はほぼなく、約8000名の帝国軍将兵が健在です」
「おいおい……相手は、魔王軍の精鋭だったんだろうが? そいつらをほぼ壊滅させておいて、ほぼ無傷だったってのか? ……とんでもねぇな」
ゴズさんが賛嘆の声を零され、他の賢人委員の方々も驚かれています。
小絵ちゃん達は勿論、それに付き従われていた国軍将兵さん達も、字義通り歴戦揃い。しかも、あかりの能力で、凄まじい底上げがされていました。作戦がはまればこれ位は可能です。相手にも、多少の油断はありましたし。
エルさんに、移動してもらって、今度は帝都グロリアスを指示棒で指差します。
「その間、魔王軍は空路、帝都を奇襲攻撃。帝都は短期間で陥落した模様です。コーラル包囲時に着陣していた魔王及び幹部達の姿が、感知出来なかったことから、本人自ら帝都へ攻め行ったものと思われます。その後、詳細情報は入っていませんが……まず間違いなく貴族軍が裏切りました。如何に魔王軍精強といえど、帝都を短期間での攻略は難しい筈です。何より、帝国中央部及び西北部に広がる貴族領内の通信量が著しく活発化。この情報は、こちらにも届いておられるのでは?」
「確かにそうだ。当初は、こちらへの奇襲攻撃かと思われたが……通信の一部を解読してみたところ、公爵領への軍移動を命じるものばかりだった」
「……やはりそうですか。帝都で、大規模戦闘が起こった痕跡は?」
「今のところはない」
少し考えます。
……やっぱり御剣君も。だけど、どうして?
こんな急展開するとは全く思っていなかったので、帝都へ送り出してしまった皇女殿下の爺やさんも脱出してくれているといいんですけど……。
「ユズ?」
「あ、はい。ここまでが、今のところ分かっている事です。東部からわざわざ南西部へ撤退させているのは、ここであればグリーエルから物資支援を受けやすいことと、大貴族がほとんどおらず、むしろ、今回の戦争で大貴族に盾とされ、憎んでいる小貴族が多いからです。また――キャロルさん」
「はい」
今まで、一言も発さず静かに話を聞かれていた、キャロル・デレイヤ皇女殿下が立ち上がられました。深々と一礼。
「デレイユ帝国正統継承者、キャロル・デレイヤと申します。レヴィーユ共和国賢人委員会の、御名声はかねがね……」
「キャロル皇女殿下。貴女の身がここにあるのは、現段階においては、あくまでも非公認。全ては柚子森殿の話を聞いた上で判断をする」
「はい。分かっております」
「こちらには、キャロルさんがいらっしゃいます。おそらく、貴族軍は、誰かしら皇帝を推挙するとは思いますが……最前線において、自ら剣を振るわれ、魔法まで紡がれた皇女殿下の名を知らない帝国軍将兵はいません。帝国南西部を拠点に、正統性を訴え、戦力を蓄えます」
「だが、魔王軍と貴族軍はどうする? 戦力を集める前に、攻めかけられたら」
筋骨隆々な鬼族の男性が質問されました。
確かにそうです。
まとまる前に叩かれれば厳しい――けど。
にっこり、と笑みを浮かべつつ答えます。
「問題ありません。当座の戦力として、コーラルから撤退出来た8000の将兵がいれば、攻め込むのはちょっと厳しいですが、防御だけならばどうとでもなります」
「理由は?」
「第一に、貴族軍です。彼等の大半は本格的戦闘を経験しておらず、その戦闘教義は、10年前から何も変化していません。コーラルを地下要塞化した東部方面軍生き残りの兵達が構築する野戦陣地は、抜けません。それでも攻めかかってくるならば、こう言います。『皇帝陛下を殺したばかりか、今度は皇女殿下すらも殺すのか? それが貴様達、貴族軍の在り方か?』と。上級貴族は割り切っているかもしれませんが、末端の兵達は違います。銃や槍を向ける事を躊躇うでしょう」
「……ふむ。では、魔王軍は?」
「今回、帝国軍がまとめていた、魔王軍の作戦行動一覧を見せてもらいました。現魔王は間違いなく名将です。また、将兵も精強無比。でも……それ故に、動きは制限されています。彼等をまとめあげているのは『強さ』と『勝利』。しかし、帝国は広く、南西部に軍の全力を投入するのは、兵站の面から恐ろしく困難です。空からの攻撃はもう一度使いました。二度目の運用には慎重を期す性格だと思います」
「――概略についてはもう良いだろう。柚子森殿。君の意見を聞かせてほしい」
統領さんが、僕に最後の意見を促されました。
エルさんを見ると、小さく頷いてくれます。えへへ。
僕は、賢人委員会の方々を見渡し、結論を述べました。
「現段階で、共和国の本格介入には反対します。ですが、このままいけば、魔王軍はいずれ、帝国全土を併呑するでしょう。その後は共和国です。彼らは先程も述べたように、自らの『強さ』を証明し、『勝利』をし続けなければならないからです。現時点では相いれない魔王軍。そもそも国を売った貴族軍。そして、キャロルさんを旗印とする軍――この三つの中で、最も共和国にとって、有意義なパートナーとなってくれるのは自明かと。条件等は、詰める必要があると思いますが……キャロルさんが皇帝になられ、魔王軍を押し戻した暁には、帝国の『空路』の過半を、共和国に委ねていただくのではどうでしょうか? 投資した以上の益が得られる話だと思います」
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