第11話 再会

「咲森か? あいつなら本営に……その前に柚子森よ」

「うん」

「そちらの美人さんは誰だ? つーか、てめえ……またかっ!」

「?? えっとね、この人は、わぷっ」


 田口君と話していると、後ろから突然抱きしめられました。

 あぅあぅ。皆さん、見てますよぉ。

 肩越しに見えるエルさんの目には、強い警戒の色。周囲に敵兵は確認出来てないんですけど。


「私の名前は、エル・アルトリア。この子を保護した者よ――言っておくけれど、もうユズは私のだから」

「……お前、俺達を助けに来てくれたんじゃねぇのかよ。こんなの、咲森や新見の奴にどう説明すんだ、おい。つーか」

「――私の、だと?」

「あ、八重垣さん。えへへ、お久しぶりです」

「柚子森……生きて、生きてくれていたのだな……良かった……本当に、本当に良かった……」


 黒髪が綺麗な、クラス委員長さんの八重垣さんが涙ぐまれました。

 思わず駆け寄ろうとしましたが、エルさんが離してくれません。

 肩越しに見ると『めっ』という視線です。田口君も、八重垣さんも味方ですよぉ。


「えっと、心配かけてごめんなさい。今、僕は共和国にいるんです。エルさんは、アルトリア家の方で、当代の『剣星』様でもあります」

「「!?」」

「色々とお話したいんですけど……ごめんなさい、時間がないんです。小絵ちゃんと連絡は取れませんか?」

「……できっけどよ、長時間だと傍受されるぞ?」

「なら、本営へ行きます」

「――OK、分かった。少し待て。俺がまず聞くわ」

「田口! そんな事せずともすぐ、何だ?」

「いいから、ちょっと耳貸せ」


 田口君が八重垣さんを連れて、内緒話をされています。

 二人は何だかんだ仲良しさんなのです。「……この分なら、大丈夫そうかしら。いえ、油断するんじゃないわよ、エル。きっと、難敵、強敵、面倒な敵がわんさか、とこれから出てくるわ!」。エルさんが何か、ぶつぶつと呟かれてます。

 う~もう離してくださいぃ。


「(いいか、八重垣よ。このまま、柚子森を連れて行ったらどうなる?)」

「(? 小絵ととわは歓喜するだろうな。いや、他の子達もだが)」

「(そこまではいい。が……今の、咲森ととわの恰好を考えてみろ?)」

「(……戦場だ。それに、柚子森はそんな事で、人をどうこうする男ではない)」

「(んなのは分かってる。分かってるが……それを、是とする生き物達か? あいつら。ぜってぇ、逆恨みするぜ。具体的には俺を)」

「(構わんではないか。尊い犠牲だ)」

「(……いや、ほんと洒落にならねぇからな。あいつら、柚子森の事となると、常識ってもんが……)」


 二人はまだお話されています。

 ようやくエルさんが解放してくれたので、顔馴染の兵隊さん達に挨拶します。

 流石、田口君です。一人も欠けていません。とっても嬉しくなります。


『――こちら『桜』。『不幸労働者』いないの?』


 !!!

 無線機から懐かしい声がしました。ぶっきらぼうですが、これはその人を心配している時の声です。

 えへへ……兵達さんに軽く会釈をして、僕が応答します。


「『不幸労働者』は酷いと思うよ?」

『………………………………柚子?』

「うん。こんな場所だけど――ただいま、小絵ちゃん。えっとね、相談したい事があるから、今からそっちに」


 無線越しに何かをひっくり返したかのような、凄い大きな音が響きました。

 え、えっと……?


「もしもし? 小絵ちゃん??」

『柚子っちっ!!! 柚子っちっっ!!!! 柚子っちっっっ!!!!!』

「っ~~~。新見さん、声が大きいですよぉ」

『え? な、何で? どうして?? ち、ちょっと、待っててねっ! 今すぐ、そっちに――うん、待って。今の嘘。嘘だから。いいよ、って言うまでこっちに来るの禁止っ!!』

「ほぇ? えっと……ごめんなさい。小絵ちゃんと話をしないと……」


 またしても、無線越しで新見さんと誰かが言い争ってます。

 んーと……この声は、傑君かな?

 エルさん、どうされたんですか? さっきから、ほくそ笑まれてますけど。


『……あーあー。こちら、坂西傑だ。柚子か?』

「うん。久しぶり」

『久しぶりってお前なぁ……いや、後にしよう。悪い、咲森ととわは、お前には直接会えない。今から俺がそっちへ行って話を聞く』

「? ど、どうして? あ……そっか、そうだよね……。一年ぶりに、こんな戦場にやって来る奴のことなんか信用出来ないもんね……うん、分かった。待ってるね」

『!? 違うぞ、柚子』


 僕は無線機を元へ戻しました。

 失敗です。

 小絵ちゃんなら、すぐ話を聞いてくれると思ったんですけど……一年間も戦い続けて、辛酸を舐めてくれば、考え方が変わっているのは当たり前です。

 でもでも、僕は……頭の上に温かい手が置かれました。


「エルさん」

「ユズ、ほんといい子ね。大丈夫よ。事前の打ち合わせ通りいかなかったら、いかなかったで、どうにか出来るわ」

「でもその場合、エルさんとヨルさんにご迷惑、あぅあぅあぅ」


 思いっ切り撫で回されます。

 周囲にいる兵隊さん達も、僕を見てくすくす笑いをしています。

 エルさんが、屈まれて視線を合わせてきました。


「いい? ユズはしたい事をすればいいわ。そしたら、私が助けてあげる! 忌々しいけど、あの小娘も同じでしょう。勿論、この子もね」

「グルルっ」

「エルさん、サイカさん……ありがとうございます」

 

 床の一部が開き、黒髪の少年が出てきました。

 坂西傑君です


「――急いで来てみれば、どういう状況だよ、オイ。田口っ!」

「あん? お、おお。坂西。何だ、案の定、お前も巻き込まれたな?」

「……察しろ。今の咲森ととわなら、魔王軍本体すら叩き潰しかねんぞ――逆恨みでな」

「傑君!」

「柚子! お前なぁ……いや、生きてて何よりだな。怖い怖いうちの御大将と特攻隊長のおつかいだ。話を聞くぜ」 

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