第2話 降下

 『カストル』の甲板には、サイカさんとスズシロさんが待機されています。相変わらずカッコいいです。綺麗です!


「さ、ユズ、行くわよ!」

「はい! サイカさん、よろしくお願いします」

「グルル♪」

「えへへ、くすぐったいですよぉ」

「くわぁ」

「スズシロさんも、ありがとうございます」


 サイカさんとスズシロさんが、頭をこすりつけてくれます。

 くすぐったいけど、嬉しいです。


「……姉上、これは現実の光景なのだろうか? 何度も同じ事を言っている記憶がある、ということは、そうか夢か。夢に違いない。しかし、何故スズシロ殿の上にいるのだ??」

「スズシロ、ずるいわよ。代わり――こほん。あら、愚弟、起きたのね。良かったじゃない。これから降下」


 ラルさんが、凄い速さで艦内へ引き返そうとされて――直後、鈍い音。

 飛び乗ったヨルさんがお腹に三発もパンチをされました。あれは、痛いです……。


「ごふっ…………」

「さ、行きましょう。愚弟は、竜に乗るの苦手なのよ。それにこの高度から、しかも飛空艇から降下って」

「世界初でしょうね。良かったじゃない。歴史書に名前が残るわよ? 『二番手』としてね」

「……はぁ? 別に代わってもいいのよ?」

「ふ~ん。それをユズに言ってみたら?」

「き、汚いわよっ! エル・アルトリア。それでも『剣星』なの!?」

「……馬鹿ね。私を倒す前に、敵はいるでしょう?」

「敵? ……あ」

「そうよ。ちびっ子、分かってるわね? ここでいい所見せないと……」

「ええ、分かったわ。あんたと組むなんて本当ならあり得ないけど、仕方ないわ……」


「サイカさんも、スズシロさんも気を付けてくださいね? 怪我しそうだったらすぐに逃げ――わっ、ど、どうしたんですか?? え? 『竜の本気を見せる!』ですか? えっとえっと、やり過ぎは駄目、ですよ?」


 頭を撫でていたら、急に凄くやる気を出されています。

 お願いします。でも本当に気を付けてください――わっ。


「ああーあー!!」

「エ、エルさん、一人で乗れますって、何度言ったら」

「だーめ」


 エルさんにお姫様抱っこをされて、サイカさんの背中へ。

 瞬間、一気に魔力が高まり、ふわり、と浮きあがりました。

 飛空艇内からは大勢の軍人さん達が敬礼されています。行ってきます!


「サイカ」

「スズシロ」


 御二人の声に反応して甲板を飛び上がり――目の前に広がる雲海の中へ。

 今回は速度勝負なので、サイカさんには少しだけ急いでもらわないと。

 エルさんが、風魔法で全員分の交信網を形成します。


『——ちびっ子。それじゃ、手筈通りにいくわよ。会談時間まで後少し。まずは私達が先行。取引出来る相手なら良し』

『駄目なら、突破して帝国国内の情報を収集して撤収。分かってるわよ。正直、まともな確率はどれ位なの?』

『ユズ?』

『……取引相手にはならない、と考えていた方がいいです。話した通り、帝国はその国内事情から、たとえ亡国になったとしても領土割譲なんかしません。一度、滅びれば別だとは思いますけど。それを言い出した時点で信頼は……。かと言って、罠の可能性も低いです』

『この時点で、対帝国戦の火種になる行動はしない、ってこと?』

『はい。ただ……王女様御本人がいらっしゃるなら、ごたごたに巻き込まれる可能性は大いにあります。むしろ、それを狙ってるんじゃないかと』


 帝国の皇帝陛下の急死。要塞都市デナリの陥落。共和国に届いたあの書状。

 ……これらの要素は全部繋がっている筈です。

 もう少し、情報があれば必要な状況は掴めるでしょう。


『取りあえず分かったわ。ユズ』

『は、はい』

『斬るか斬らないか、その判断だけちょうだい。それ以外はぜ~んぶ、任せるわ』

『エ、エルさんが一応特使なんですよ……?』

『グルル!』

『サ、サイカさんまで……『最初から全部吹き飛ばす?』じゃないですよぉ。も、燃やしちゃ駄目ですっ!』

『グル?』

『だ、駄目です。そ、そんな可愛く言っても、許しませんっ』

『くわぁ!』

『スズシロさんも悪乗りしないでくださいっ。全部、凍らしませんっ。もうっ。みんなで、僕を虐めるんですから』

『あんたも大変ね……ああ、そうそう。エル・アルトリアだけじゃなくて、私にも即伝えなさいよね? 伝えなかったら、後でお仕置きするわ』

『ヨ、ヨルさんまでぇ……』

 

 ひ、酷いです、味方がいません。孤立無援です。

 どうして、皆さんそうやって僕をからかうんでしょうか。

 思わず涙が出て来ちゃいそうです……。


『ユズ♪』

『エ、エルさん!?』

『何? どうしたの??』

『うふふ♪ ユズはほんとっ可愛いわね。大丈夫。いいのよ、ユズはそのままで。障害になるものは全部私が斬るからね。気楽に考えてればいいの。とっとと終えて、美味しい物でも食べに行きましょう』

『えっと、その、あ、ありがとうございます』

『ち、ちょっとっ! エル・アルトリア、何をしたのよ!?』

『馬鹿ね。そんなの、私とユズのひ・み・つ☆ に決まってるでしょう――そろそろ、行くわ。後でまた会いましょう』

『……ちっ! 後で詳細、問い質すわよ? ――了解。後で会いましょう。あんたも、その、気を付けなさい』


 ――ヨルさんはとてもいい人です。

 今まで少しずつ降下されていたサイカさんが、一気に急降下を開始されました。 雲が切れ、眼下に見えてきたのは、明らかに戦闘の痕跡を残している都市。

 さぁ、どうなるんでしょうか? でも――エルさんの手を、ぎゅっ、と握ります。うん、大丈夫です。だって、僕は一人じゃないですから。

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