エピローグ
「わぁ~凄い! 凄いですっ! 本当に空を飛んでますっ!」
「ユズ、はしゃがないの。空なら何時も飛んでるでしょう?」
「グルゥ……」
「あ、違うんですよ、サイカさん。えっと、僕、飛空艇に乗ったのって初めてで……サイカさんに文句なんてないんです。ごめんなさい」
飛空艇の艦橋へ案内される途中、大きな窓硝子から見えた空に感動したので、思わず大きな声が出てしまいました。ちょっと恥ずかしいです……。
右肩に乗られている少ししょげれてたサイカさんに謝ります。
左隣を歩かれている、ヨルさんが肩を竦められました。
「こんな事ではしゃぐなんて、子供ね」
「姉上? 以前の演習で乗られた時、ほぼ同じような反応、ごふっ」
「……何よ?」
「えっと……ヨルさんと同じ感想で僕は嬉しいですよ?」
「……ふんっ」
ラルさんが膝をつかれて喘がれています。だ、大丈夫でしょうか?
心配していると、左手を引かれます。
「ほら、行くわよ」
「あ、はいっ」
「そう言えば……ちびっ子、何、さも当然みたいにユズと手を繋いでいるのかしら? いやらしい」
「なっ! あ、貴女だって、ずっと繋いでるじゃないっ!」
「私はいいのよ。だって、ユズは私のユズだから。でも、貴女とユズは、単なる知り合いでしょう? 何時から、グリームニル家の娘は、男の手を――むぐっ」
「エルさん、言い過ぎですっ! そういう風に言うのは駄目ですっ! ヨルさん」
「……何よ」
「僕は、ヨルさんとスズシロさん、それにラルさんが一緒で嬉しいですし、とっても心強いです。巻き込んだ形になってしまって、ごめんなさい」
頭を下げると、スズシロさんから、頬っぺたを舐められました。くすぐったいですよぉ。でも、ありがとうございます。
ヨルさん? どうかされ――わっ。
左腕を抱きしめられます。あぅあぅ。
「……ねぇ、別にあんたはエル・アルトリアと付き合っているわけでも、婚約しているわけでもないんでしょう?」
「え? あ、はい、そうですよ。僕はエルさんに命を助けてもらったんです」
「ちびっ子! 離れなさい!」
「……なら、別に私とこうしていても問題はないわよね?」
「えーっと……でも、僕の幼馴染がよく言っていました。女の子がそういう事をする相手は本当に近しい人なのよ、って」
「ますます、問題ないじゃない。あんたと私は仲良し、そうでしょう? スズシロもね」
「くわぁ」
「えっと、えっと……」
「——御歓談中のところ、真に、真に申し訳ありません。そろそろ、艦橋に到着いたします」
ルカノ少佐が困った表情で話しかけてこられました。
……迷惑をかけちゃったみたいです。反省しないと。
エルさんとヨルさんも流石に僕から離れます。サイカさんとスズシロさんは、そのままです。あ、ラルさんはまだ倒れられたままでした……。
扉が開き、視界が開けました。思ったよりも、ずっと大きいです。もっと、狭いのかなって勝手に想像していました。
僕達が入って来たのをみた、軍人さん達が、一瞬、怪訝そうな表情をされた後、エルさんとヨルさんを見て硬直、慌てて立ち上がり敬礼されました。
御二人も、滑らかな動作で返礼されます。うわぁ、カッコいいです!
一番高い席に座られていた豚人さんが挨拶されます。
「飛空巡洋艦『カストル』艦長のダグイル上佐です。『剣星』様とその騎竜様の本艦への乗船、真に光栄であります」
「エル・アルトリアよ。行きは、信号ありがとう」
「ヨル・グリームニルです。今回の任務は重要です。よろしく頼みます」
「有難うございます。して――そちらの方は?」
「あ、僕は柚子森柚樹と言います。エルさんの……ん~何て言えばいいんでしょう。取りあえず、エルさんに命を救われた異人です。えっと、こちらはサイカさんとスズシロさんです!」
「くわぁ」「クルル」
「よろしくって言ってます」
「……柚子森殿は、騎竜様の言葉がお分かりになるのか?」
「分かりませんよ? でも何となく、伝わりますから。あ、そう言えば艦長さん。一つ質問してもいいですか!」
「この場で答えられるものでしたら、何なりと」
「ありがとうございます。エルさん、今伝えても?」
「当たり前でしょう。ユズの好きにしていいわ。現実ははっきり教えないと分からないものだから」
えへへ……エルさんにそういってもらえると嬉しいです。
サイカさんが感じられた事もこれで伝えられますね!
「この飛空艇、とってもカッコいいと思います! ただ……どうして、こんなに対空装備が少ないんですか? この飛空艇の装備、あくまでも対地支援用ですよね? 多分、魔王軍は航空戦力を整備しつつあります。世界初の空対空戦闘が何時起きてもおかしくないと思いますし……今の装備だと、サイカさんやスズシロさんだと、簡単に沈められるそうです。――僕達は伝えたと思うんですけど、共和国空軍はその事、認識されていますか?」
※※※
帝国東部戦線の空には無数の『蛾』が今日も舞っていた。
まったくもって忌々しい。兵数と、魔法戦力では拮抗しても『空』という観点が未だ抜け落ちている帝国軍では、あの連中をどうすることも出来ない。
何度、帝都へ進言したことだろう……こちらも航空戦力を。無理なら対空装備の充実を、と。
しかし、現実を見ていない馬鹿達の言う事はいつも同じ。
『現有戦力で敵を殲滅せよ』
頭の中に何が入ってるのかしら。
挙句の果て、『今なら敵軍は弱っている! 総反撃をっ!』って……あのね、弱ってるわけじゃないの。単に、偽装したり、移動させたりしてるだけなの。それと、どんなに貴方が強かろうが、敵の魔王軍全員を相手どれはしないでしょう? 全員倒す? そぅ……。
その結果が――床が開き、長年見慣れた少女の顔が飛び出してくる。
「
「……分かったわ」
地下に潜る前に、もう一度空を睨む。『蛾』に食べられるのは願い下げね。
第一、私はまだ死ねない。絶対に死ねない。だって、あの泣き虫を迎えに行かなきゃいけないから。
――ここは帝国東北戦線。その中心都市の名はコーラル。
今や魔王軍の重囲下にあり陥落必至の都市にして、帝国軍最強部隊が守護する地。そして、ここが陥落すれば……帝都まではぼ一直線。
そう、帝国は東部戦線を喪いつつあったのではない――今や、帝国そのものが音を立てて崩れ落ちようとしていたのだ。その事にまだ……帝都で遊ぶ者達は気付いていない。
破局は、すぐ近くまで忍び寄りつつあった。
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