第12話 飛空艇
「共和国空軍第一航空艦隊所属、飛空巡洋艦『カストル』へようこそ! 乗艦を歓迎いたします、『剣星』エル・アルトリア様。ヨル・グリームニル様。お待ちしておりました。本官は、『カストル』副長を務めておりますルカノ少佐であります。ご不便等ございましたら、何なりとお申し出ください」
「出迎えご苦労様です――私のユズと竜達には挨拶無しなのかしら?」
「こ、これは大変御無礼を……」
「エ、エルさん、大丈夫ですよ。サイカさんと、スズシロさんも、そう言ってますし……」
「だーめ。こういうのは初めが肝心なんだからっ! ね? そう思わない、ちびっ子?」
「そうね。誤解しないでほしいのだけれど、今回の特使役、表向きは私達二人だけれど、決定するのはこの子よ」
あぅあぅ……エルさんとヨルさんの目が、ちょっと怖いです。
ラルさん、何とかしてくださいっ。
「……少年、人の命は一つしかないのだぞ? 普通は。こんな所で賭けろと?」
「そんな何かを悟った目をしても駄目ですよぉ……」
賢人委員会の話し合いから、僅か半日。
僕達は今から共和国空軍最新鋭飛空巡洋艦『カストル』へ乗艦しようとしています。レオンさんと見学する筈だった艦です。カッコいい!
……正直、余りの急展開にちょっとだけ戸惑っているんですが、こういう事になった切っ掛けを作ってしまったのは、僕自身なので何とも言えません。
本当は、エルさん達を巻き込む事なくどうにかしたかったんですけど、今の僕の力では御二人の『却下!』『却下ね』の一言で封じられてしまいました。
悔しくもあり、申し訳なくもあり……そして、嬉しくもあり、とっても複雑な気持ちです。
「ユズ? どうしたの? お腹痛い?」
「仕方ないわねぇ……はい、うち秘伝の薬を分けてあげるわ。お茶もあるから」
「えっと……エルさん、ヨルさん」
「何?」
「何かしら?」
「……ごめんなさい。こんな事になってしまって。そして、本当に有難うございます」
「もうこの子は、何を言うかと思ったら」
エルさんに優しく抱きしめられて、ゆっくりと頭を撫でられます。
恥ずかしいですけど、安心してしまいます……。
「ユズの判断は正しいと思うわ。『大規模派兵は状況不透明の為、不可能。少数精鋭部隊を派遣し状況見極め後、最終判断』という堅実案に反対する理由がないじゃない」
「そうね……エル・アルトリア、人前ではしたないわよ? 『剣星』の名を貶める気? 離れなさい」
「私が離れたら、ちびっ子、あんたが抱き着くんでしょ? そもそも、何であんた達まで付いてくるのよ? 『剣星』二人の派遣なんて……国防にも直結するんだから、あんた達は残りなさいよ」
「馬鹿ね。言ったでしょう? だからこそ意味があるんじゃない。これで、帝国が私達を軽んじたらそれまでよ――委員会の総意として決定された事に従わないのかしら? 過剰と言うなら、あんたが残りなさいっ」
「……へぇ」
「……何よ」
「あぅあぅ、喧嘩は駄目ですよぉ」
結局、賢人委員会の皆さんが出された結論は極めて妥当なものでした。
情報が錯綜し、戦況は不透明。帝都ではクーデター。
交渉を持ちかけてきた王女様がどれだけ現実的な権限を有しているのかも分からない中で、いきなり大規模派兵は無理無茶が過ぎるからです。
まして、おそらく帝都では、権力争いの真っ最中。そこに乗り込んでいけば、ロクな事にはなりません。
それらを踏まえ、僕が提案した案――『剣星』であるエルさんとその騎竜であるサイカさん、そして内部事情を多少は知っている僕と、対外的には共和国の『力』の象徴として見られている飛空艇の派遣が採用されました。
王女様との交渉役は勿論、エルさん。肩書は『共和国特使』になります
――ただ、派遣される『剣星』は直前で二人になりました。
ほぼ、この案で決定しようとしていた時でした。
ヨルさんが立ち上がって、こう宣言されたんです。
『『剣星』一人では、相手に衝撃が与えられないわ。それに――エル・アルトリアを補佐する人間が必要でしょう? 私も一緒に行くわ。仮に私達を軽く扱うのなら……それまでよ』
それを聞いた時の、エルさんの顔は……ちょっとだけ怖かったです。あと、ラルさんの顔が引き攣っていました。そうですよね……色々、説明も大変でしょうし。僕に泣きそうな表情で訴えられていたのが、とても印象的でした。
賢人様達も考え込まれていましたが、確かにヨルさんの考えにも理があり、結局、異例中の異例ですが、『剣星』二人の同時派遣が決定したんです。
……御二人共、今、目の前で起きているように、すぐ『聖剣』を抜こうとされるので、僕はちょっと困ってしまいますけど。
「ご、御歓談中のところ、真に申し訳ありませんが、そろそろ出港の時刻が迫っております。どうか、どうか乗艦を。艦長が艦橋へお上がりください、と申しております」
「は、はい、すいません。エルさん、ヨルさん! 行きますよ!」
「……ユズが言うなら仕方ないわね。命拾いしたわね。ユズ♪ 手、繋ぎましょ」「……あんたが言うなら、ここは退いてあげる。次はないわよ? わ、私も繋いでいい? いいわよね? はい、もう繋ぐから! ――えへへ」
「……少年、生きて帰れるかは君の双肩にかかっているからな?」
「あは、あはは……」
右手はエルさん。左手はヨルさん。両肩にはサイカさんと、スズシロさんが乗られて、背中をラルさんに押されながらタラップを上がります。
ちらりと、振り返るとレオンさんとカトレアさんが見えました。
――はい、大丈夫です。御心配なく、行ってきます。
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