第10話 急報
朝の日課を終えて、汗を流して屋敷に戻り、食堂へ向かうと朝食の準備が出来ていました。
いい匂いがして、く~、とお腹鳴ります。
「うふふ♪ ユズは、お腹の音まで可愛いわね! はいっ、ここよ。ユズはこーこ」
「エルさん、その、あの……膝の上は……」
「エル・アルトリア、はしたないわよ? ……あんた、私の隣に座りなさい」
「ねぇ、ちびっ子。一つはっきりさせておきたいんだけど」
「な、何よ?」
「あんた、ユズをどう思ってるわけ?」
「なっ!? そ、それは、その……」
「はーい、失格~! 即答出来ない子が、私のユズに手を出そうなんて……1000年早いのよっ!」
「うぐっ……わ、私はっ!」
あぅあぅ。ヨルさんが、ちょっと涙ぐんでいます。
えっと、えっと、こういう時は……近くに寄っていき、ゆっくりと頭を撫でます。
「! にゃ、にゃにを、して?」
「あ、ごめんなさい。これ、僕も泣いちゃうそうになった時、よく、幼馴染にやってもらったんです。『優しさが伝わる』って。落ち着きましたか?」
「……こんな事で落ち着く筈ないでしょ。で、でも、ありが」
「ユズ! 私の目の前で他の女に優しくするなんて……お仕置きが必要かしら?」
エルさんが怖い目で見てきます。
でも、ヨルさんが泣いちゃいそうになった時、『言い過ぎたっ!』っていう顔をされてましたよね? エルさんは本当に優しい方ですから。
嬉しくなって笑顔になってしまいます。えへへ。
「そ、そんな顔したって誤魔化せれないんだからねっ! ……ほら、座って。食事にしましょう」
「はい」
「あ……」
ヨルさんの頭から手を離して、エルさんの隣の席に座ります。
「……姉上。昨晩あれ程、言ったでしょう? 少しは素直になられれば、うぐっ」ヨルさんの隣に座られていた、ラルさんが呻き声と共に突然、テーブルへ突っ伏しました。だ、大丈夫でしょうか。
「気にしないでいいわ。愚弟は時折、こういう発作を発症するのよ」
「は、はぁ……」
「それじゃ、いただきましょう――『月と星と光に感謝』を」
「「月と星と光に感謝を」」
僕はその後で、小さな声で「いただきます」と呟きました。こうしないと、何となく落ち着かないんです。
――上座の席が二つ空いています。
レオンさん達はどうやらあのままだったみたい、むぐっ。
「ユズ、美味しい?」
「――美味しいです」
「ふふ、良かった。今日のスープは私が作ったのよ。即席だけどね」
「本当に美味しいです。ありがとうございます」
「いいのよ。はい、あ~ん」
「……エル・アルトリア、今は食事中よ。『剣星』として恥じない行動をすべきだわ」
「あら~? 羨ましいのかしら~?」
「ち、違っ」
「あのね? 無理矢理、うちに泊まったのは、ちびっ子、あんたなんだからね? 黙って、私とユズがイチャイチャするのを見てればいいのよ」
「ぐぐぐ……だ、だったら、今日はうちへ泊りに来なさいよ」
「い~や♪」
「……上等よ。やっぱり、あんたとはここで決着をっ!」
「馬鹿ね。ユズが傍にいる限りあんたは絶対、私には勝てないわ。ええ、他の『剣星』だろうが異人の『勇者』だろうが、『魔王』だろうが、ね!」
エルさん、それ何の根拠もないと思うのです……。
勿論、一生懸命応援はしますけど、戦闘じゃ僕は足手まといですし。
うぅ、僕がもう少し強ければ、エルさんと一緒に――頬っぺたを突然舐められました。
「サ、サイカさん、くすぐったいですよぉ――そうですね。僕には僕の役割がある筈ですよね。えへへ。ありがとうございます。大好きです♪」
「くわぁ♪」
サイカさんを、ぎゅーっと抱きしめます。
何時もならすぐに帰還されてしまうのに、昨日からずっと留まってくれているのは、きっと僕の為です。感謝の気持ちをたくさん込めます。
「……サイカ、貴女とも一度、決着をつけないといけないのかしら?」
「グルルっ!」
「エル・アルトリア、貴女、自分の騎竜にすら背かれて――スズシロっ! あ、貴女、にゃにをしてるのっ!」
スズシロさんが「ずるい、私も」と言わんばかりに、僕の頭に乗っかってきました。えっと、えっと……あはは。
エ、エルさん、だからそうやってすぐに『聖剣』を抜こうとしちゃ駄目――その時でした、息をきらしながら、アルトリア家の若い執事さんが駆けこんできました。ただならぬ様子です。
「失礼しますっ! エル御嬢様、賢人委員会から急報が入りましたっ!」
「何ですって……内容は?」
「この場で読む事は……『剣星』様と、その従者殿以外に御報せするわけには、ひっ」
「…………貴方、まだうちに来て日が浅いのかしら? 見ない顔ね。覚えておいて。ユズは、私にとって誰よりも大切な子です。この子に聞かせられない事なんか何もない。……次はないわよ?」
「は、はっ! 申し訳ありませんでした」
「で、内容は?」
「『帝国東部戦線の戦況、急転した模様。至急、参集されたし』で、あります!」
「そ、分かったわ。ユズ」
「……思ったよりも、ずっと、ずっと早いですね」
急速に事態が動いているのを感じます。
……僕の予想以上に、情勢は悪化しているのかもしれません。
でもその場合、打てる手は、あぅ。
エルさんにおでこをこづかれます。
「……痛いです」
「ユズ、色々と考え過ぎよ。大丈夫、何があろうと、どんな相手であっても、私が全てを薙ぎ払ってあげるわ! だから、何も心配しないでいいの、分かった?」
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