第4話 二人目
「これで良し――嗚呼、とっても凛々しいわ! さ、レオン撮ってちょうだい」
「ははは。勿論だとも! エル、私も入りたいから撮影宝珠を頼むよ」
「……お母様、お父様……少し、お話があります……」
「えっと、えっと……あ、あはは……」
今、僕は普段着たことがない黒の礼服を着ています。僕等の世界でいう所のスーツと同じ物? でしょうか。向こうの世界にいた時も着たことはなかったので、ちょっとだけ恥ずかしいです。姿見に映る自分の姿に慣れません。しかも、今日は髪も整えているのでますます違和感があります。
これ……変じゃないんでしょうか?
「いいですか? ユズは私のユズなんですよ? 勿論、アルトリア家にとっても大切な存在に思っていただいてるのは有難いです。けれど、あくまでも、アルトリア家<私、という構図を忘れてもらっては困りますっ!」
「エルさん」
「何です?」
「ふと思ったのだけれど――ユズさんの映像宝珠を売り出したら、アルトリア家の繁栄は、今後1000年、約束されるんじゃないかしら?」
「!!?」
「え、えっと……別に僕を見たい人はそんなにいないと思うんですけど……」
「た、確かに……今日みたいに、『可愛い男の子が精一杯背伸びしました!』+『普段の天使な姿』を合わせれば大陸の覇権を握ることすら容易に……で、ですが、そ、それはいけませんっ! そ、それは悪魔の囁き……ユズはあくまでも私のユズなんですからっ!!」
「ははは。二人共、ユズ君が恥ずかしがっているじゃないか。さ、そろそろ出かけるとしよう」
「レオンさん」
「どうかしたかね?」
「その……僕も元老院に行って良いんでしょうか? 幾ら観覧席とはいえ、僕は帝国から来た異人です」
そうです。僕達は、これから共和国の中枢、元老院へと向かいます。
議員であるレオンさんとカトレアさんは当然ですけど、今回はエルさんにも出席要請が急遽届きました。要請書のサインは賢人委員会のものでしたし、共和国は帝国の状態を注視しているのは間違いありません。
……でも、僕はある意味で部外者です。行けば、エルさん達にご迷惑をかけてしまうかもしれません。
共和国は異人にも寛容ですが、それとこれとは話が別です。何しろ、僕は1年前まで帝国にいて、しかも軍事訓練を受けていたんですから。警戒するのは普通だと思います。
だから――わぷっ。
「お、お母様!!」
「大丈夫ですよ、ユズさん。貴方の事で文句を言う有象無象の輩がいたら――私が全て潰しますから。アルトリア家の総力を駆使してでも……ええ、この共和国で生きてはいけないようにしてあげます!」
「うむ。ユズ君はもう我が家族だ。そして、私達は家族を決して見捨てないし、謂れのない中傷には断固として抗議する。安心してほしい」
「カ、カトレアさん、レ、レオンさん……ぐすっ……あ、ありがとうございます……」
「ああ、もう泣かないでいいのよ。ふふ、私はエルさんしか子供に恵まれなかったけれど、男の子も可愛いわね」
「……お母様、ユズをこちらへ」
「だーめ♪」
「う~!!」
ゆっくりと背中を撫でられます。
……お母さん、ってこんな感じなんでしょうか? 凄く落ち着きます。
ゆっくりと、手が離れていき、今度はエルさんに強く抱きしめられます。
「まったくっ。いい? ユズ。泣きたい時は私に抱き着きなさい。それと……ユズを否定する輩は私が全部斬るわ。安心して」
「そ、そんなに泣かないです。そ、それと斬っちゃ駄目ですよっ!」
「ええ!?」
エルさんが本気で驚いています。
……斬るつもりんだったんですね?
僕達を楽しそうに見ていたレオンさんが、手を叩き声を出されます。
「良し。では行くとしよう!」
※※※
共和国元老院議場は、半円型になっています。
定員は300名の一院制。ここで決議された内容は、ここから更に賢人委員会で協議され、国家の意思となります。
加えて、戦争や竜や悪魔相手の大規模討伐といった国家の危機とされた場合、今、共和国内にいる八名の『剣星』様達も、その協議に参加することになっているそうです。
今回、エルさんが出席を求められたのはその前段階に当たる措置で、そこからも共和国にとって帝国問題が重要であることが分かります。ただし、まだ発言は求められていないので、僕と同じ二階の観覧席で待機とのことでした。
あ、カトレアさん達がいました。更に下を覗き込もうとすると、腰を掴まれ、席へと戻されます。
「ユズ、危ないわよ。座ってなさい」
「はい、ごめんなさい」
「そんなに面白いの?」
「こういう所に来た事ありませんから」
「そ、まぁいいわ。私はユズとここで二人きりになれ」
「ああ~! なななな、何で、あんたがここにいるのよっ!?」
「おや、少年。また会ったな」
振り向くと観覧席入り口に見知った人達――昨日の女の子とカッコいい男性が立っていました。
あ、またお会い出来ました。微笑みながら、声をかけます。
「はい、昨日ぶりです。貴方達も観覧を?」
「ああ。面倒だが、これも責務。姉上を此処に連れてくるのは苦労したぞ。何せ、朝から君のことを探し歩いて、ごふっ……あ、姉上……この至近距離で、肝臓打ちは死ねるのだが……」
「うううう嘘、言ってんじゃないわよっ! で、どうしてここにいんのよ?」
「あ、僕は」
「へぇ……」
エルさんが立ち上がり、僕の手を握りました。それを見た女の子の視線が細くなります。
そして、階段を上っていき止まりました。
「久しぶりね、ちびっ子。『私』のユズに、何か御用かしら?」
「エル・アルトリアっ……! そう……あんたの下僕だったのね」
「違うわ。殺すわよ? ユズは私の全てなんだからっ!」
「す、全てですって!? はんっ! 『剣星』の名を戴く者が、異人に入れ込むなんて……同じ『剣星』として恥ずかしいわ」
「――『剣星』? 貴女みたいな可愛い子がですか?」
「か、かわい……こほん。そ、そうよ!」
顔を赤らめた女の子が咳払いをして、両手を腰にやり、胸を張ります。
そして、視線を真っ直ぐ僕に向けて名乗りました。
「私の名前は、ヨル・グリームニル。『剣星』よっ! ……えっと、それで、その……あ、あんたの名前を教えてくれない……?」
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