第11話 伝言
「ほぉ……」
「ユズ、何を言ってるの。ちょっと、私の腕の中に来てなさい。さぁ、早く」
「えっと、フォルクハルトさんでしたっけ? ここは帝国じゃないんです。帝国では、そういう風な本音を最後まで隠す方法は通じますけど……共和国では通じません。むしろ、信用出来ない人、と思われて終わりなんです」
「……どうやら、噂通りの子のようだな、君は」
フォルクハルトさんが、大きく息を吐かれました。
都督様とヌークさんが驚いた表情をしています。
あぅ……エルさん、痛いです。
「ユズが私を無視したからでしょ! さ、早く、こっちへ来るのっ」
「あ、後で埋め合わせはします。それで……何かあるんでしたら、今の内に話された方が良いと」
「黙れっ! この脱走異人がっ!! 自分の仲間達が戦場で戦っているというのに、逃げだした貴様に発言する権利など、ひっ」
「……あんた、まだ自分の立場ってものが分かってないみたいね? お馬鹿な貴方にも理解出来るようにお話してあげる。うちの国においては、人種差別主義者は、即死刑。存在自体が許されていないのよ? それは外国人であっても変わらない。まして、あんたは私のユズを侮辱した……それで、まだ首がついていることの方が幸運なの。分かった? 分かったんなら、少し口を閉じてなさい。ああ、それと――ユズを捨て石に使ったのは貴方達でしょう? で、生きていたら脱走? 何? 誇り高き帝国騎士ってのは死に絶えたわけ?」
「…………返す言葉もないっ」
エルさんがとっても厳しい顔です。
同時に殺気が凄いので、都督様とヌークさんはガタガタ震えていらっしゃます。ホルツマンさんは……どうやら、また気絶してしまったみたいです。
フォルクハルトさんは蒼褪めながらもエルさんと僕の顔をじっと見ています。やっぱり、この人かなり強いです。
「エルさん、僕のことはもういいんです。えっと……みんなはあの後、無事だったんですよね?」
「『勇者』殿達は無事だった。君が大橋へ、ベヒーモスを引き付けてくれたお蔭だ、と聞いている。だが……その、君は死んだことになっているし、仮に生きていることが分かれば、脱走兵扱いだろう」
「そうですか。なら、どうして今回、僕を?」
「……知っての通り我が国と共和国とは、不倶戴天の敵同士だ。ここ十数年の間、戦はないと言え、大きな交流はない。だが、それでも多少の情報は入って来る。その中に、君の情報があったのだ。『都市グリーエルに異人の子供がいる。しかも『剣星』の傍に』とね」
釈然としません。
僕は幼馴染達と違ってそこまで強くありません。たとえ、連れ戻したしても劇的な戦力増にはならないと……あ、つまり、そういうことでしょうか?
「……僕を連れ戻せれば、エルさんを動かせると思ったんですか? それは、ちょっと、酷いと思うんですけど」
「違うっ! 確かに、今や帝国騎士の誇りは地に落ちた。だが……少なくともそこまで零落れてはいないのだっ! 私がこの地に来たのは、本心から援軍を請えないか、という打診と、君の存在そのものを確認する為だ」
「僕のですか?」
「うむ。これは『賢者』殿と『魔弓』殿、そして『聖女』殿からの強い依頼だ。勿論、非公式のだがね。いや、援軍の話など到底無理な事は端から分かっていたから、君の言う通り、この件こそが本題だったのだろう。……私と部下は、彼女達に戦場で何度も救われてきた。断れなかったのだ。彼女達は君が死んだ、と信じちゃいない。今でも、よく言っているよ、『とっとと魔王なんか倒して、泣き虫柚子を迎えに行かないといけないんです』とね」
「あかり達が……そうですか。フォルクハルトさん。お願いがあります」
「何だろう?」
「あの子達に、伝言をお願い出来ますか? 『心配しないで。僕は元気です』と」
「……それだけでいいのか?」
「いいんです。伝わると思います」
そっか……みんな、頑張ってるんだ。
僕も、もっともっと――あぅ。
「……ユズ、私の存在を今忘れてたでしょ?」
「エ、エルさん、えっと、その、後ろから抱き着くのは……」
「だーめ。あ、ファルクハルト、と言ったかしら? 皇帝に伝えなさい」
「……陛下にだと?」
「当たり前じゃない。『剣星』というのは、そういう存在なのよ? 『援軍を欲するなら、自分から泥を被れ』。以上よ。出来ないなら――まぁ、後精々2年ってとこかしらね」
「……2年だと? 我等は押されつつあるとはいえそこまで一気に戦局が悪化するとは思えぬ」
「そう思ってるならいいんじゃない? だけど、帝国内部で魔王軍の奇襲を、しかも虎の子の『勇者』やらがいる場所に、ピンポイントで受けてる時点で、もう詰みに近いんじゃないかしら? まぁ、私はそのお蔭でこの子と出会えたんだから、感謝してるわ。それに、この子の力は『勇者』どころじゃ――おっと」
「エルさん? 今、僕のことを何か言いかけませんでしたか?」
「何も言ってないわよ。ユズは可愛い! 私の天使! って言っただけ」
「はぁ」
何だったんだろ?
でも、僕は御剣君みたいに強くないから……これからも一生懸命、努力をしないといけないんですっ!
フォルクハルトさんは、少しの間、僕達を見てじっと何かを考えこまれていました。そして、僕の目を見て微かに笑われました。
「……彼女達が君に会いたがっている理由が分かる気がするよ。君は、いるだけでその場を何となく明るくしてくれる不思議な子だ。伝言、確かに承った。『剣星』殿、御助言、忝く。我が名に賭けて伝えると約束しよう。それと――副使者の狼藉、平に謝する。申し訳なかった」
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