第7話 孤児院
「あら、ユズ君。いらっしゃい」
「ウィラスさん、こんにちは! これ、お土産です!」
「まぁまぁ、こんなにいっぱい。ありがとう♪」
「……ウィラス、どうして、私を無視するのかしら?」
「うふふ。なーに、エル、妬いてるの? 大丈夫、大丈夫。私は貴女も愛してるから♪」
エルさんと色々と買い食いしたり、お土産買ったり、お店を見ていたら、孤児院に着いた時は、お昼前になっていました。
もう何度も来ているので、勝手は分かっています。真っ直ぐ院長室へ向かい、孤児院院長のウィラスさんに挨拶をします。調度品は最小限。とても質素なお部屋です。
本当はもっと早く来たかったんですけど……。
あ! もしかして、エルさんがお昼時に合わせて時間を調整してくれたんでしょうか? きっとそうです! 凄いです! 流石、エルさんです。
僕もこういう風に、気を使える人間になれるといいなぁ。
「ユズ君。多分、その予想は間違ってるわよ? 残念だけど。この子にそういう風な機能は備わっていないから」
「なに、会って早々喧嘩を売ってるわけ? 買うわよ?」
「あら、本当じゃない。それにいいの?」
「な、何がよ?」
「何もしていない私に剣を向けたりしたら……えい♪」
「!? き、汚いわよっ!! ユ、ユズを人質にするなんてっ!!!」
「うふふ……さぁ、どうするの?」
「くっ……ほんとっ、昔から、あんたはぁぁぁ……」
一瞬の内に、ウィラスさんに後ろから抱きしめられていました。
さっきまで、目の前の椅子に座られていたんですけど……な、何の抵抗も出来ませんでした。
院長先生は昔、エルさんと一緒に剣を学ばれたそうです。第一線から引退した今でも、グリーエルで五指に入る剣士だそうですけど……はぁ、僕はまだまだ、駄目駄目です。
抱きしめられた僕を見て目の前ではエルさんが、目を吊り上げて、肩を震わせています。あぅあぅ。
「えっと、えっと、御二人とも、け、喧嘩は駄目ですよ?」
「うふふ。ユズ君は本当に可愛いわねぇ」
「……私のユズが可愛いなんて当たり前でしょう。そんなのは大陸の常識よ! それより、早く離しなさいよ!」
「え~ユズ君の抱き心地、凄く良いのよね。どう? エルのとこの子じゃなくて、私と一緒に」
「……ウィラス、どうやら、本当に死にたいようね? 長い付き合いだったけど、今日ここでこの因縁、絶つわ!」
――乾いたノックの音が響きました。
院長先生が、答えます。
「開いているわ。入っていいわよ」
「失礼します――失礼しました」
「ク、クーさん、これは違うんですっ!」
「…………へぇ。どう、違うの?」
部屋に入って来たのは、孤児院ではお姉さん役な猫族のクーさんでした。
僕よりも確か2歳年下なんですけど、しっかりされていて、僕もよく注意されます。一見、厳しいんですけど、とってもとっても優しい女の子です。
だけど……今、僕に向ける視線が冷たいです。極寒です。猛吹雪が吹いています。
うぅ……どうして、こういうところばかり、彼女に見られてしまうんでしょう?
僕が困っているのを察した院長先生が、離れてくれました。ありがとうございます。
「あらあら、仕方ないわねぇ、クー。はい」
「……何ですか?」
「うふふ、ユズ君を抱きしめたかったんでしょう?」
「なっ!!!? ち、ち、違いますっ! だ、誰が、こんな、なよなよしてる男なんかっ!」
「あらあら、そうなのぉ? そう、言いきっていいのぉ?」
「う……ユズ! あんたが、そうやって流されるのがいけないのっ!」
「ご、ごめんなさい」
「ちょっと、そこの猫。『私の』ユズに何を言うのかしら? まったく、躾がなってないわね」
「……貴女に言われる筋合いなんてないっ! 何時も何時も、そうやってユズを自分の所有物みたいに扱って。どうせ、飽きたら捨てるんでしょ?」
「所有物? 私がユズを捨てる? はんっ! ありえないわね。この世界が滅びるよっぽど可能性の方が高いわよ!」
「そうねぇ……むしろ、エルがユズ君に捨てられる可能性の方が高いかもねぇ。あ、そしたらうちの子になってね。子供達もユズ君のこと大好きだから♪」
「ウィラス!」
えっと、えっと、えっと……うぅ、仲良くしてください。
昔からそうなんですけど、何故か、僕の周囲にいる人達は喧嘩をするんです。勿論、本気じゃないとは思うんですけど……。
『柚子は優柔不断ね。優しいのは良いことだけれど、選択を覚えないと駄目』
そんな事言ったって僕には難しいよ、あかり――あぅ。
頭に風弾が当たります。
「……ユズ、こんな状況で違う女の事を考えるなんて、悪い子ね。お仕置きが必要だわ……」
「エ、エルさん、目が怖いです……」
「で、何しに来たの? 用事があったんでしょう?」
「……猫、あんた」
「クー、これ、二人からのお土産よ。みんなに配ってあげなさい」
「はい。……その、ありがとうございます」
クーさんが、頭を僕達に下げます。
慌てて、口を開きます。
「僕じゃないんです。エルさんが」
「ユズが持っていきたいと言ったのよ。感謝するならユズになさい。いっぱいあるから、公平に分配すること」
「……ユズ」
「はい。あの、クーさん、さっきのは、違うんです。あと、そのお金を出してくれたのは、むぐっ」
「……分かってるわよ、バカ。ありがと。院長先生、失礼します」
うぅ、また、クーさんを怒らしてしまいました……前よりは仲良くなれたと思うんですけど、はぁ……。
えっと、ウィラスさん、その笑顔はいったいなんですか?
エルさん、どうして、そんなに渋い顔なんですか??
「ユズ君は、本当にいい子ねぇ。やっぱり、うちの子にならない?」
「ユズ、そうやって見境無しなのは止めなさい? 何よ、あんなに機嫌良さそうに尻尾を振って。……やっぱり、人目に触れないよう監禁しようかしら?」
……さらっと怖い単語が聞こえました。
エルさんが、言うと冗談に聞こえないんですっ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます