第6話 お散歩

「あ、ユズ、あれも美味しそうよ? 暴走猪串ですって。食べる? 食べる??」

「エ、エルさん、さっき朝食を食べたばかりですよ! あ、でも子供達のお土産に買ってもいいですか?」


 アルトリア家を出発した、僕とエルさんは孤児院へ向かっています。

 移動手段は何時も通りの徒歩です。

 お馬さんの方がいいのでは? と言う僕の意見は『馬を使ったらそれだけユズとのお散歩の時間が減るでしょう? 駄目です!』という、エルさんのこれまた何時もの一言で却下されました。

 なので……グリーエルの外れにある孤児院へ向かいつつ、色々なお店を二人で見ながら進んでいるのです。

 さっきから、エルさんは買い食いばかりしています。もうっ! そんなに食べたら、お昼ご飯が食べられなくなっちゃいますよ?

 グリーエルに来ると、何だかんだそうやって買い食いを――あむ。


「美味しい?」

「……おいひぃです」

「そ、良かった。あ、それ、100本包んでくれる?」

「おうよっ! 何時もありがとさんでさぁ。サービスしときますわ」

「ありがと。あ、保温石も入れてね」

「勿論でさぁ。『剣星』様には御贔屓にしてもらってますんで」


 手際よく、串屋さんが包んでくれます。

 えっと、鞄の中からお財布を……エルさん、その手は何ですか?


「ユズはいーの。私が勝手に買ったんだから」

「だ、駄目ですよ。『親しき仲にも礼儀あり』ってうちの幼馴染がよく言って」

「……駄目。絶対に駄ー目。その幼馴染の子が言うなら、尚更駄目! あ、決済札で大丈夫だったわよね?」

「勿論でさぁ。それにしても便利な世の中になりやしたね。一昔前までは、金貨――まぁ、俺っちみたいな店じゃ、銅貨ばっかでしたが、今じゃその札一枚で全部決済可能。自動で、銀行に預けてある金から差っ引かれる……異人ってのは、とんでもない事を考えつくもんですな。毎度どーも!」

「まぁねぇ。金属貨幣を持ち歩かずに色々買えるのは嬉しいわね。落としても、自分以外の魔力じゃ使えないしね。はい、ユズ」

「う~エルさん、僕だって、少しはお小遣いを持ってるんですよ!」

「駄目。ユズはそうやって、時々、私に意地悪をするんだから……今度、幼馴染さんの話をしたら、怒るからねっ!」

「ええ……」


 紙に包まれた串の束を受け取り、鞄の中から折り畳んでおいた丈夫な布製の袋を取り出して中に入れます。エルさんは、もう歩き出しています。もうっ。

 またしても……エルさんに支払わせてしまいました。こうやって、何時もお金を払わしてもらえません。特に。孤児院関係のお土産と、幼馴染の事を言うと駄目なんです。

 ……孤児院はともかく、どうして、幼馴染のことを言うと、不機嫌になるんでしょうか? エルさんは、会ったこともないんですけど。不思議です。

 それにしても、決済札――外見は何の変哲もない、薄く小さな金属板です。よく見ると、びっしりと魔法式が刻まれています――は凄いと思います。これって、僕等の世界で行われていたの同じシステムです!

 どうやら、僕等よりもかなり前に来た異人の方が、帝国で導入しようとしていたら、大陸では多くの人に信仰されている光翼教から『異端』扱いされて、共和国へ亡命。偉い人達に熱弁を振るって、莫大な国家予算を握って導入した、とニーナさんから教えてもらいました。20年位前? だそうです。

 今では、共和国全土に広がり、一般的な社会インフラの一つとして機能しています。

 僕は、少しの間だけ帝国にいたから分かりますけど……共和国は、帝国に比べて、とっても先へ進んでいる面があります。

 この決済札のシステムにしてもそうですし、道路、線路、空路、海路に対する考え方も、『あくまでも物資や人を円滑に動かす』という点が徹底されいるように見えます。例えば、グリーエルの近辺の道路は、全てコンクリートに近い物で舗装されています。帝国では、帝都と大都市以外では、まず考えられません。

 多分、僕等みたいな異人が持っている断片的な知識――小説みたいにいきません。何しろほとんどの人は、考えを知っていても、作り方自体は全然知らないからです――を、こちらの世界で現実の物にする事を、共和国は真面目に考えているんだと思います。

 けれど、帝国では様々な制約があるみたいで、上手く進んでいないんです。

 結果、普通の異人の人が持つ、高いステータスだけに目をつけて、魔王軍と戦わす方向にいっています。

 僕みたいな例外はいますけど、幼馴染達みたいに、圧倒的な場合も多々あるみたいなので、その考え自体はそこまで変じゃないのかもしれません。でもでも……それって凄く勿体ない気がします。

 例えば、幼馴染の一人は、魔法士としては凄い素養値が出ていましたけど……彼女の本質は、別にあると僕は――あむ。

 エルさんが、僕の口に飴を放り込んできました。


「ユズ。また、違う女の事を考えていたでしょう? 駄目よ、浮気は。甘い?」

「……甘いです。ありがとうございます」

「そ、良かった。そろそろ行くわよ。ふふふ……今日、遂に、あの生意気な猫に止めを刺せるかと思うと、胸が高鳴るわ!」

「クーさんにですか? むしろ、喜ぶと思うんですけど……」


 今回、首府にある学校へ行く孤児院の子達の中には、僕よりも2つ年下で、猫族のクーさんも含まれています。

 彼女は凄く努力家で、才能もあると思います。学校に行けば、もっと、もっと色々な可能性が広がると思います!

 きっと、喜んでくれるだろうなぁ。

 ……エルさん、その意地悪そうな顔はなんですか?



「何でもなーい。ユズは酷い子、と思っただけよ。あーユズは本当に酷い子だわぁ。でも――私はそんなユズも大好きだけど。さ、行くわよ。はぐれるから、手を握って、ね?」

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