11月19日 その日、オカルトと出遭う
私は、車に揺られ山あいを走っていた。
とくに天気が悪い、ということはない日だ。雲はあるが、青空も同じように見えている。
ただ、気だるい昼下がりのこと。車中にあっても、少しばかり肌が寒い。
ふぅッと息をつきながら、着ていた服を掻き抱くようにする。
運転席の友人が一言、
「暖房をつけるか」
と、言ってくれた。
私は黙って首を振り、友人もまた、運転に専念する。
どれくらい走っただろうか。
やけに日が陰ってきて、私は窓の外を見た。
……鬱蒼と茂る針葉樹の林。どういう理屈でそこにあるのかわからない、隣り合うように伸びた竹の森。
景色はそんな風に、移ろっていく。
またひとつ、ため息をついたときだった。
ブツリと、急に森が終わった。
広がったのは、段差になった畑や古い民家。そして──
「鳥居……?」
赤く細い鳥居が、ゆっくりと視界の中に現れた。
こんなところにどうして鳥居が? そんな疑問とともに注視すれば、鳥居の奥に社はない。
代わりと言わんばかりに、そこには足のついた大きな〝匣〟があって──
「おい」
友人に声をかけられて、反射的に顔を向けてしまう。しまったと視線を戻したときには、もう鳥居は木々の中に隠れ、また私たちの車は暗い森の中を進んでいるのだった。
「えっと、なんですか?」
「道に迷った、らしい」
友人が、困ったように言った。
私は首をかしぐ。
「なんども来たことがある道じゃないんですか? だから案内と運転手を頼んだんですが」
「そうなんだが……面目ない。一度引き返す」
そういうことになって、仕方なく私たちは来た道を引き返した。
戻る道すがら、もう一度あの鳥居を見ようと思って窓の外を覗いていたが、どうしてだか見つけることは叶わなかった。
そのあと、すんなり私たちは目的地に辿り着いた。
いろいろと用事を済ませて、本題も終えたところで、私は気になっていたことを切り出す。
「じつは、ここに来るまでに鳥居を見かけたのですが」
「はぁ、どのあたりですか?」
「ええ、ちょうど山間の──」
「……はて。おかしいですね、そこには何もないはずですが」
いぶかしげに首をかしげる相手に、私こそぎょっとなる。
そのひとは一帯のそういうことをよく知っているはずなので、記憶にないとは考えられない。
地図を呼び出して説明するも、やはりないと断言される。
私は友人の顔を見たが、友人は、
「なに言ってるんだおまえ?」
と、困惑したありさまだった。
友人は、私をたしなめるように、こう言った。
「そんなもの、ここに来るまで一度も目にしなかったぞ」
──と。
§§
そのあと、私は友人に頼み込んで、時間の許す限り何度もたどってきた道を調べさせてもらったが、終ぞあの鳥居を目にすることはなかった。
白昼夢か、それとも幻覚かははっきりしない。
けれど、はっきりとこの目には赤い鳥居と。
──あの、足の着いた〝匣〟が、焼き付いているのだった。
(……え? ちょっと待って、なんで怪談風?)
(怖くないのでちょっと不思議な話です。珍しく私がその場に居合わせたので、今回扱ってみました、てへぺろ)
(軟化で使えたやろうがーい! なんで無駄遣いしてるんだ……)
(まあまあ、私は満足してるので。それでは、アデュー!)
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