10月24日 歩け、歩け、歩け

 連山影をただしうす。

 雪車町地蔵だ。


 ふと、時間ができたので、夕暮れが迫るころ、ふたり散歩に出かけた。

 延々と続く田園と、その隙間に芽生える秋の草花。


「これはなんでしょうか」


 そう問われて、刺身のつまに添えるあれですと答える。

 驚いたように、そっと掌の上にのせて見せたのは、蓼の濃い紅色の花だった。

 一輪を手折って、私は口に運ぶ。

 辛いと表現するのも違うような刺激が、舌の上で踊って消える。

 そんな蛮行がおかしかったのか、くすくすと笑い声が聞こえてきて。

 またふたり、歩き出す。


 日が暮れ始めた中で。

 遠くの山は、まだ色づくには早く。

 けれど、居住まいをただすような美しさがあって。


「蓼食う虫も好き好きと言いますが」

「ああ、違うんですよ。その蓼は、ヤナギタデといって──」

「だからご本家さんは蓼扱いなんです」

「────」


 ……一切の反論の余地もなく、無粋だと。ほほえみとともに軽やかな毒を吐かれる。

 参ったなぁと頭を掻いて。

 結局そのまま、散歩を続けた。


 まだ日は暮れてくれるなよと思ったものの、あっという間にあかね空は、藍色に侵されて。


「では、また」

「また、いつか」


 そうして、私は日常へと戻っていく。

 きっとまた明日顔を見せようと、そう思いながら。




(ポエットは悪癖!)

(しんみりさせてくださいよ! たまにはいいでしょう!?)

(さっさと夕飯を作るぞなもし)

(……はーい。それでは、アデュー!)

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