祖父と私

kayu!

第1話 祖父と私

「おじいちゃんどこ~?」

母方の実家へ行くと、まず私は祖父を探す。最初に行くのは応接間。家の1番奥にあり、庭やバラを眺めることができるその部屋は、祖父のくつろぎの場所だ。部屋にはガラス棚があり、自分で購入したのか家族や知人からの贈り物なのかわからない置物がところ狭しと並べられ、多国籍な雰囲気がただよう。誰もいない時には、こっそり部屋に入ってはその不思議な空間のなんともいえない異国の空気を感じてはドキドキした。

ドアを開けると祖父はクラシックレコードを再生し、ソファーでくつろいでいる。

「こんにちは!おじいちゃん来ました。」

レコードの音量に負けない大声で何度か叫ぶ。祖父は耳が遠く、毎回私の声に気づくまでには時間がかかった。が、物心ついた頃からそうであるのが当たり前の私にとっては、それはしごく当たり前でむしろ今日は何回目で気づくのだろうと楽しんでいた気がする。

祖父は私の声に気がつくと、にこりともせず、こちらも見ずに

「おぉ、きたか。」という日もあれば、

私の声が突然耳に入ってきたことに驚きながら、気づかなかった自分に対して少しはにかんだ笑顔で、

「おぉ、ゆかか。」といったかと思うと自分の世界に戻っていった。

祖父にあいさつをし、来たことを伝えると、私は再びクラシックを聴いている祖父の背中や横顔をみながら、静かにドアを閉める。今思い返してみると私はこの儀式がとても好きだった気がする。

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祖父と私 kayu! @kayutch

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