今日の代償の明日

朝凪 凜

第1話

 深々と降り続いた雪が朝には歩くのが困難になるくらい積もっていた。

 あまり雪が降る地域ではないので、当然子供達は大喜びで学校へ向かう。川の流れに逆らうかの様に。


「よう!」

 登校中の男の子、裕太ゆうたが友達を見つけ、声をかける。

「おう、はよー」

 振り向くとよろけながらも器用に挨拶を返す。

涼太りょうた! 学校行ったら校庭で遊ぼうぜ!」

「もちろん! 俺も遊ぶために今日学校行くんだからな!」

 涼太と呼ばれた男の子も雪に埋もれて重い足を足取り軽く突き進む。しかし……。


『雪のため校庭の使用を禁止します。』


 高いテンションのまま学校に着くも、校門に張られていた一枚の紙に落胆した。

「なんだよこれー。なんで駄目なんだよー」

 その声が聞こえたのか、離れたところに立っていた教師が耳ざとく聞きつけた。

「お前ら雪が積もったからって遊ぶなよ。滑ったりして危ないからな。ほらさっさと教室行ってこい」

「へーい……」

 そう促されて東昇降口で靴を履き替えて教室には行くものの、二人は遊ぶ気は満々であった。

「よっしゃ! こっそり遊ぼうぜ」

 走って教室まで行き、鞄を机に投げ捨てながら踵を返して昇降口へ走る。

 靴だけ取って、別の昇降口から出ようとしたところで――

「よう、おはよう。何だ外で遊ぶのか。俺も行く!」

 新たに二人が靴箱の隅に鞄を置いて、加わった。

「西の昇降口からなら校舎からも見えにくいし、そっちから出よう!」

 靴を片手に廊下を走り廻る四人。


「いっちばーん!」

 校庭に出て早速雪を集めている。

「それで、何するの?」

 後から来た二人が至極当然な問いかけをする。

瑛太えいた広太こうたも入れて四人で雪合戦とか」

「俺はこんだけ雪があるからかまくら作りたい」

「僕は雪だるまがいい」

 涼太と瑛太がそれぞれ別の意見を言ってまとまらない。

「なんだよ。広太は何がいい?」

「うーん、かまくらよりは雪合戦の方がいいな。雪だるまは後でやりたい」

「よし雪合戦で決まり! それが終わったら雪だるまとかかまくら作ればいいんだし」

 裕太の案が多数決で決まったところで、雪のある真ん中の方に移動していく。

「それじゃあ二対二な。俺と涼太がこっちのチームで、そっちは瑛太と広太な」

 適当に別れてた二人でそれぞれチームになって涼太に声をかける。

「すっごく硬くしてぶつけてやろうぜ」

 子供のすることはいつも危険をはらんでいる。



 そんなことをして遊んでいるのを校舎から見ていたほかの生徒達は、当然ながら自分も遊びたいと校庭に出始める。

 結果十数人が校庭に出て雪遊びを始めてしまった。

 これだけ騒げば教師にもバレるのは必至であり、しばらくして放送が流れた。

『今遊んでいる生徒は中央昇降口前の朝礼台の前に来なさい』

 やっべぇ、と言って即座に教室に戻る子供達。気にせず遊び続ける子供達。あーあ、と諦めて朝礼台の前に行く子供達。

 どう見ても起こってる教師が数人出てきた。ついでに逃げていった生徒も捕まったのか、一緒に連れられてきた。

「お前らな。遊ぶなって言っただろ。校門に書いてある文字も読めねぇのか!

 なんで駄目なのか後ろを見てみろ」

 そう言って子供達が後ろを向くと、雪と泥で水たまりが出来ていたり、土が見えて泥でベタベタになっていたり。

「分かるか。お前らが遊んだせいで校庭は凸凹になって使えなくなるんだ。この雪が溶けてから一週間は校庭を完全に使用禁止にする。休み時間や放課後も禁止。体育も教室だな」

 ざわざわ……とそこら中から不満の声が聞こえる。

「こうやって反省しないと分かんないのか。遊んでいない生徒からはブーイングとかすごいだろうけど、仕方ないよな。後でみんな教室行って謝れよ」

 裕太達は「今週の体育はサッカーの授業だったのに……」と呟いていた。楽しみにしていた明日への扉が大きな音を立てて閉じてしまったのが分かった。


 その後、それぞれ教室に戻り、朝会で遊んでた人が謝って授業が始まった。「せっかく楽しく遊んでたのに」と思っている彼ら。しかし、悪かったということも自覚しているので、しばらくつまらない日が続くと思うといつになくしょんぼりしていた。

 でも、また来年雪が降ったら同じことを繰り返すだろう。それが彼ら子供というものなのだ。

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今日の代償の明日 朝凪 凜 @rin7n

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