よろしくね!おにいちゃん!
「……あれ? お母さんは?」
ようやく夜の部屋から出てきたあかりが、リビングを見回してあおいがいないことに疑問を浮かべる。
夜から言わせてもらえばなんで服が乱れているのか、なんで若干汗ばんでいるのかの方が疑問ではあるが……今は置いておく。というか考えないようにしておく。
「今さっき帰ったよ。ほんとに勝手なんだから」
もう少しゆっくりしていけばいいのにと提案もしたのだが。
『こっちに来る機会なんてほとんどないから折角だし観光でもしてくるわ。肩の荷も下りたことだしね』
とのことだった。
その肩の荷を任せられた夜としてはたまったものではないし、もしかしてそっちが本当の目的なのでは? と思ったりもしたのだが。
『それじゃあ、夜。あかりのこと頼んだわよ』
頼まれた以上、ましてや引き受けた以上、夜がすべきことは一つである。
「そういえばあかり。荷物はどうするんだ?」
「明日届くはずだよ」
「最初から拒否権ないじゃん……」
平然とそう言うあかりに、ため息交じりの苦笑が浮かぶ夜。
どうやら、最初から夜に拒否権というものはなかったらしい。
仮に、夜が断っていたとしても、明日荷物届いちゃうし仕方ないよねだからお願いねと言いくるめられるように、逃げ場をなくせるようにしていたのだろう。そんなつもりはなかったとか言われても信じられない。
まさか、あおいが知らないなんてことはないだろう。未成年が引っ越しの準備はまだしも引っ越しの手配は出来ないはずだ。
となれば、あおいも浩星もいわゆるグルというやつである。
まぁ、夜なら断るはずがないだろうという信頼があったからこその行動かもしれないが、むしろそうであってほしいが……だとしても事前に連絡はほしい。ほうれんそう大事。ほんとに大事。
「使ってない部屋が一部屋あるからそこをあかりの部屋にするとして……」
「……え? おにいちゃんといっしょに暮らしていいの?」
「仕方ないだろ……母さんにも頼まれたし」
「やったー! おにいちゃんといっしょだー!」
嬉しいが故にその場に飛び跳ねるあかり。
夜の部屋はマンションの二階部分にあたるから、ジャンプなんてすれば下の部屋の住人に迷惑がかかることだろう。
しかし、夜があかりを止めることはなかった。
あかりのこんなにうれしそうな顔を見れるなら、一緒に怒られてもいいかと、そう思えたから。
「これからよろしくね! おにいちゃん!」
「よろしくな、あかり」
そんなこんなで気付けば入学式当日、というわけだ。
その間、家具をそろえるためにあおいを呼び戻して三人でニ〇リに行ったり、届いたあかりの荷物が予想の何倍もの量で面食らったり、そういえば食器買ってなかったと二人でデパートに行ったりといろいろあった約一週間。
「なんで任せろなんて言ったんだろ、俺……」
夜は早くも音を上げていた。
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