紛れもないストーカー

「――おにいちゃん……」

「あかり……」


 視線を声が聞こえた方へと転じれば、そこには何食わぬ顔で、あかりが立っていた。


 本来なら、ここにはいないはずのあかりの突然の登場? 出現? だというのに。


「……おにいちゃん、そこまで驚いてないね?」

「……まぁ、な……」


 驚いている。驚いてはいるのだが……あかりの言う通り、そこまで驚いてはいなかった。


 それは、心のどこかで、もしかしたらあかりは付いてくるのではないだろうか……と思っていたからかもしれない。


 好きだからという理由で平然と発信機と盗聴器を仕掛けるというストーカー行為をしてしまうあかりのことだ。


 盗聴器と発信機入りのストラップを外されて会話を聞くことも居場所を特定することも出来なくなったあかりが、いっそのこと本当にストーカーすればいいのでは? と思ってもおかしくはない。


 まぁ、本当にストーカーをするとは夢にも思っていなかったが、そればっかりはあかりの行動力を舐めていた自分に非があるのかも……いや、ないな。まったくない。あるわけがない。


 そんなわけで、変な心構え……で表現があっているかどうかはさておき、驚かずに済んだのだが、気になることが一つ……。


「なぁ、あかり。もしかして、あのストラップ以外に盗聴器とか発信機とか仕込んでたりする……?」

「ううん、してないよ? でも、GPS機能でいつでもおにいちゃんの場所はわかるよ?」

「それ発信機仕掛ける必要ってあるか……?」


 GPS機能で場所を特定出来るのならば、わざわざ発信機を仕込む必要はないと思うのだが……小首を傾げるあかりを見るに、きっと無意識だったのだろう。もしくは、気付かなかっただけかもしれない。


「でも、場所はわかってもここまでの道のりはわからないんじゃ……」

「それなら大丈夫だよ? おにいちゃんの後を付けてきたから」

「何も大丈夫じゃないし聞きたくなかった……」


 さらっとストーキングしてきた宣言をするあかりに、夜はいつ学生からストーカーに転職したんだ……とため息を吐く。


 一体、何が大丈夫だというのか。一度、あかりには常識とかを一から教えなおした方が……いいとは思うが無駄な気がする。


 そんなあかりとの何気ない会話のキャッチボールに、何故だろう。


 安心感というか、安堵感というか……ほっとしている自分がいるのは。


「さてと、それじゃあ……」

「おにいちゃん、部長は?」


 帰ろうと、そう言って逃げ出したかったのに。あかりの質問に息が詰まる。


 一緒に帰ろうという約束を交わしたことを、あかりは盗聴していたから知っている。


 だから、瑠璃がいないことを疑問に思わないわけがないのだ。


 はぐらかせるわけがないのに。誤魔化せるわけがないのに。


 その方法を模索するべく思考を巡らす夜の耳に、ポケットに入れていたスマホから鳴る着信音が届いた。

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