どうして?

「好きな人のことを全部知りたいのって女の子として当たり前でしょ?」


 屈託のない笑みでそう言うあかりの瞳は真剣そのもので、本心からそう思っているのだろう。


 夜は男だ。だから、女性の誰しもがあかりと同じような考えを持っているのか、それともあかりだけしか思っていないのかどうかはわからない。わかるはずもない。


 だが、これだけは言える。


「だからって……」


 知らないことはひどく怖いことだ。不安なことだ。だから、その恐怖や不安を和らげるために、自分が安心したいがために知らないことを知りたい、知っていたいと思うのは何らおかしなことではないだろう。


 それは、性別とか個人とか関係なく、誰しもが思っていることだろう。


 だけど、知りたいからといって、盗聴器や発信器を仕掛けるのは常軌を逸しているとしか思えない。狂っている、といっても過言ではないだろう。


「ねぇ、おにいちゃん。今度はおにいちゃんが答える番だよ?」


 呆然とする夜などお構いなしと、あかりは一歩詰め寄る。


「どうして部長と付き合うことにしたの?」


 一歩。


「どうして部長を選んだの?」


 一歩。


「どうしてわたしじゃないの?」


 一歩詰め寄り。


「ねぇ、どうして?」


 夜の顔を覗き込み、瞳を見据えて問い質す。


「どうして?」


 あかりが何に不満を抱いているのか、何に怒りを抱いているのか、それがわからないほど夜は鈍感ではない。少なくとも、世の中のラブコメ主人公なんかよりは敏感……なはずだ。


 あかりは、好きな人を瑠璃に取られたことに怒っているのだ。好きな人が瑠璃を選んだことを怒っているのだ。


 何よりも、好きな人あかり自分を選ばなかったことを怒っているのだ。


 あかりの“好き”という気持ちが本心なのはわかっている。


 けれど、あくまでその感情は家族として、兄妹としてのものであって、決して一人の男と女としての好きではないのだと、そう思っていた。いや、正確に言えば考えないようにしていた、そんなわけがないと決めつけていたのだ。


 けれど、はっきりとわかった。


 あかりが、病的なまでに、狂気的なまでに、自分を愛しているのだということを。


 だからこそ、愛しい人を奪った瑠璃が。何よりも、あかり自分を選んでくれなかった夜が許せないのだろう。


 大切なものを失った時の絶望を、夜は知っている。あかりが許せないと思うのも仕方がないのかもしれない。


 だけど、一つだけ、どうしても気になることがある。


「な、なぁ、あかり。なんか勘違いしてないか……?」

「勘違い? 何を?」


 何を言っているの? と小首を傾げるあかり。


 その反応が、夜に確信を持たせる。やはり、勘違いしているとしか思えない。


 だって……。


「俺、瑠璃先輩と正確には付き合ってないんだけど……?」


 夜は瑠璃と恋人同士ではないのだから。




~あとがき~

 ども、詩和です。いつもお読みいただきありがとうございます。

 毎日投稿二十日目。そろそろ数えなくてもいいかもしれないですね。

 さて、今回はいかがでしたでしょう。楽しんでいただけましたか?

 少しばかしヤンデレの片鱗が見えたかなと思います。『ヤンデレ可愛い』、これは全世界の常識にしてもいいかもしれません。

 そして、最後の一文ですが……まぁ、ね。三章のタイトルで既にネタバレしてますからねなにも言いません。

 そんなわけで今回はこの辺で。

 それでは次回お会いしましょう。ではまた。

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