瑠璃の初恋
瑠璃と夜が初めて出会ったのは、瑠璃が高校二年生になったばかり――入学式の翌日だった。
校庭では体育系文化系問わず様々な部活が部員を勧誘している中、瑠璃は一人部室でその喧騒を耳にしていた。
何故、勧誘しに校庭に出向かなかったかというと、意味がないと割り切っていたからだ。
柳ヶ丘高校は、理事長――慎二の生徒の自主性を尊重するという意向で一人でも部活を設立することが出来る。部費だったり部室の場所だったりは流石に少ないし寂れた場所にあったりとするが、それでも部活を設立出来ることに変わりはない。
それ故に、瑠璃は一年生にして二次元部という部活を設立した。
柳ヶ丘高校には、残念ながらアニメ研究部や漫画研究部などのオタク心を擽るような、オタクなら誰もが知っているであろう部活はなかった。
だから、瑠璃も自分の好きなことをするために部活を設立したのだが……入部希望者は誰もいなかった。
それどころか、クラスの中では変人として扱われ、瑠璃は次第に孤立していった。
わかっていたことではある。世の中では、アニメやマンガが好きだと公言する所謂オタクという人種に冷たいということを。
だから、孤立することも、白い目で見られることも承知の上で二次元部を作った。だから、気にも留めなかった、否、そう自分に言い聞かせていた。
本当は寂しかったし辛かった。だって、周りにはいつだって人がいるのに孤独なのだ。自分の感情に嘘を吐くことなんて出来なかった。
寂しいものは寂しい。辛いものは辛い。苦しいものは苦しい。そんな思いをするのは、もう嫌だ。
だから、瑠璃は表立って部員を勧誘することをやめた。
自分の好きなものを好きと言えない、そんな世界に、否、自分自身に嫌気がさしつつも。
嫌な思いはしたくないという自分の保身に走って。
そうして一年が過ぎ、部活作った意味あったのかなと、こんなことなら家でやっても大して差はないんじゃないかと。
そう思っていた時に、部室のドアが開けられたのだ。
「すみません、二次元部ってここで合ってますか……?」
どことなく気弱そうで、陰気そうで、どこか自分と重なる部分があるようで、瑠璃は失礼ながらも同じ人種だと直感した。
「えっと、そうだけど……君は?」
「あ、すみません。一年の夜月夜です。入部希望で来ました」
入部希望、その言葉を聞いて瑠璃は目を丸くした。
瑠璃だって、何も闇雲に部員勧誘をしていたわけではない。
アニメやゲームが好きな人に、出来るだけ入部してくれそうな人を勧誘していたのだ。まぁ、それも無意味に終わったし、何ならクラスメイトの、しかも女子しか誘っていないから比較対象が少なすぎるが。
それでも、瑠璃は薄々感じていた。というよりも、気付いてしまった。
同じアニメ好きマンガ好き二次元好きでも、瑠璃と違って大っぴらにせず、あくまでこそこそとしていたことに。
それは、世間でのオタクに対する風評が悪いものだからだろう。
オタクというだけで、周りからの態度は冷たくなり、最悪の場合いじめに繋がる。
ただ他人よりも好きなだけなのに、それを咎められる。そのことに違和感を覚えるも、だからといって世間に喧嘩を売れるわけがない。
だから、自分はあくまでオタクではないと、大ぴらにしないことでそう主張しているのだ。
そんな彼女たちが、自らオタクであることを強調してしまうことになる二次元部に入るわけがない。
だから、誰も入ってくれないと、そう確信していた。
それでも、やめなかったのは、きっと、一人にはなっても独りにはなりたくなかったからだ。
部室では一人でも、学校では独りではない。そのことが、少しばかり心の救いになった。
元々、家柄が家柄なだけあって一人でいることがほとんどだった。きっと、そのおかげもあって寂しさに押しつぶされることはなかった。
けれど、それでも一人なことに変わりはなくて。やっぱり寂しいことに変わりはなくて。
この先も、きっと一人なんだろうと、そう思っていたのに。
目の前の一年生――夜は入部すると言ってくれたのだ。
そのことがただ単純に驚きで、それでいて嬉しかった。
込み上げる感情を、溢れようとしている涙をぐっと堪えて。
「私は二年生の、二次元部部長の星城瑠璃。よろしくね、夜月君」
笑みを浮かべて自己紹介をした。
それが、夜と瑠璃の、初めての出会いだった。
それから、二人は二次元部で楽しい日々を過ごした。
もらえる部費が雀の涙程度の微々たるものだから二人で慣れない短期バイトをして、お金をためてゲーム機やらマンガやらラノベやらを買い漁って。
お互いに好きな作品を語り合って、食い違った好きなキャラの話で大ゲンカして。
何度も何度も対戦ゲームで勝敗を決め合って。
自分たちで何かを作ろうと、下手なりに絵を描いたり物語を紡いだりプログラムを勉強したり。
そんな、傍から見れば普通ではない、でも、二人にとっては至って普通で。
心の底から、楽しいと思えるそんな日々が。
ずっと続けばいいのにと思うのは最早必然といえた。
そうして、バカやっているうちに、瑠璃は気付けば夜に心惹かれていたのだ。
辛く寂しいだけだった部活を楽しく騒がしい日々へと変えてくれて。
優しくしてくれて笑いかけてくれて気にかけてくれて。
一緒にいるだけで心が弾んで、ただただ楽しくて。
そんな夜がただただ愛おしくて。
気付けば、好きになっていた。
それが、忘れられない、忘れたくない、忘れもしない瑠璃の初恋だった。
~あとがき~
ども、詩和です。いつもお読みいただきありがとうございます。
毎日投稿11日目。ここまで来たら全部書き直すのがそこまで辛くないことになってきました。まぁ、その分一日の大半を改稿に費やしてる所為でなろうの続きが一向に書けないんですけど……。
とまぁ、そんなことはさておきですよ。いきなりの回想で驚いた方もいることでしょう。俺もなんでこんなところで脈絡もなく回想シーン入ったんだよ……と昔の俺に問い質したいです。
でも、寧ろ瑠璃の夜を好きになったきっかけを知らずにこの先の展開を読んだら何で瑠璃は夜を好きになったんだ? としか頭に浮かばなくなることを踏まえると、やっぱり昔の俺グッジョブと褒めてやりたいです。言ってることめちゃくちゃですね反省します。夏希の時だっていきなり過去回想ありましたしね。
今回の瑠璃の秘められし想いを忘れず、三章を読んでいただけると幸いです。
さて、今回はこの辺で。
それでは次回お会いしましょう。
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