刻一刻と迫りくる罪

 これから始まろうとしている待望のイベントである肝試しに一年生達が一喜一憂しているなか、あからさまに不機嫌そうな人影があった。


「はぁ、めんどくさい。どうして肝試しなんかやるために延長なんかしたのよ。理事長バカなんじゃないの?」

「そ、そうだよね……」

「う、うん……」


 肝試しだけなら兎にも角にも、理事長である慎二にまで文句を言うのは言わずもがな、夏希を泣かせてくれやがった亜希と、そんな亜希に相槌を打ちながらも、どこか表情が暗く歯切れの悪い舞と茜音である。


 しかし、仲が良さそうな三人だったが、今では軋轢が生じてしまっているように感じる。


 まぁ、それも仕方のないことなのかもしれない。何せ、今までなかった上下関係のようなものが生まれてしまったのだから。


 つまるところ、二人は亜希のご機嫌取りをしなくてはいけなくなってしまったのだ。


 それ故に、二人は亜希に同意するしかない。本当は肝試しが楽しみなのに、本音を言うことが出来ない。


 二人が選ぶことが出来る選択肢は“はい”か“yes”しかないのだ。


 しかし、そのことに文句を言う資格は二人とも持ち合わせてなどいない。


 だって、自分の保身に走ったからこその現状なのだ。文句を言うなんてお門違いにも程がある。


 だからこそ、二人とも内心ではこんなのもう嫌だと逃げ出したくても、実際に逃げ出すことが出来ないのだ。


 逃げ道を塞いだのは、誰あろう自分自身なのだから。


「なぁ、ちょっといいか」


 と、舞と茜音が愛想笑いをしていると、ふと声がかけられた。


 振り向けば、そこには夜が立っていた。


「あっれぇ~先輩。どうかしたんですか~?」


 人をおちょくるような、感情を逆撫でするような声で問いかける亜希。


 口元には笑みが、否、嘲笑が零れており、見るからに夜を小馬鹿にしていた。


 人の言葉をすんなりと信じて真実に辿り着けない馬鹿な奴、というのが亜希の夜に対して抱く印象故に。


 しかし、だからといって亜希は一年生で夜は二年生だ。たかが一歳の差しかないとはいえ、先輩後輩の関係にある。つまり、目上の人という扱いになる。


 だから、亜希の夜に対する態度は咎められてもおかしくないもので、何かしら言い返してやっても問題はないのだろうが、夜は何の反応も示さない。


 何かを言ったところで自分の非を認めるはずがないとわかりきっているが故に。


 無駄なことに時間を割くというのは最も愚かな行動なのだから。


「話がある。ただ、聞かれたらマズい話だろう、、、から場所を変えたい」


 ただ淡々とそう告げた夜は踵を返しどこかへと歩き出した。


「別にいいですけど」


 亜希は渋々承諾し、夜の後を追う。舞と茜音は夜の言葉に違和感を覚えつつも二人の背中を追った。




 亜希達が連れて来られたのは、迷いの森を少し歩いた先にある少し拓けた場所だった。


 拓けた、といっても太陽の光が差し込んで明るいというわけではなく、ただ単純にちょっとした空間があるだけ。そして、その空間を取り囲むようにして生い茂る木々と枝に括りつけられた堤燈――肝試し用に用意されたもの――がより一層不気味さを醸し出していた。


 そんな不気味な場所には、先客の姿があった。


 誰あろう、夏希である。


「待たせたな、アリス、、、

「ううん、大丈夫だよナイト」


 呼び出された要件を瞬時に理解した舞と茜音は何か後ろめたいことでもあるのか目が泳ぎに泳ぎまくっていた。


 しかし、亜希は顔色一つ変えずに、面倒だと言わんばかりにため息一つ。


「それで、話って何ですか?」

「言わなくてもわかるだろ。夏希の件だ」


 夜の言葉に、まるで怯えるかのように身体を跳ねさせる舞と茜音。


 一方で、やはり亜希の表情には何も変化がない。


「朝木さんの件って昨日話したじゃないですか。あたしたちは何も知らないって」

「夏希から全部聞いたよ。酷いことを言われたってことも、お前に突き落とされたってこともな」

「そんなのただの言いがかりじゃないですか。あたしが嫌いだから罪を擦り付けようとでもしてるんでしょ?」


 夏希の証言なんか証拠にはならないのだと、ただの言いがかりなのだと、あくまでも白を切る亜希。


 しかし、亜希の言い分も正しいのだ。


 被害者当人の証言というのはとても重要なものだ。どれだけ些細なことでも、犯人の特定に繋がるのだから。


 しかし、重要であるということと証拠となるということはイコールではない。


 当人の証言だけでは、証拠不十分なのだ。


 だって、言いがかりだと言われてしまえばそれまでなのだから。


 だから、第三者の証言や物的証拠がなければ有罪か無罪かを判決することは出来ないのだ。


「それとも、あたしだっていう証拠でもあるんですか~?」


 証拠なんてないと、あるはずがないのだと、そう確信しているからこその亜希の発言。


 夜は何も言い返せず言葉に詰まる……なんてことはなく、まるで待ってましたと言わんばかりにニヤリと笑った。


「証拠ならあるさ」

「はぁ? そんなわけないでしょ?」


 夜の発言にありえないと嗤う亜希と、青褪めている舞と茜音。


 そんな三人を横目に、夜が取り出したのは……。




~後書き~

 ども、詩和です。いつもお読みいただきありがとうございます。

 さて、いきなり私が出てきて驚かれた方もいることでしょうから、改めてご挨拶を。

 姓を詩和、名を翔太と申します。展ラブの作者です。

 はてさて、何故にいきなり後書きなんてものを書いているのかといいますとですね……基本的に「小説家になろう」の方で活動しているのですが、あちらには後書きコーナーがありまして、そこで物語の補足とかをしたりしてるわけですね?

 でも、カクヨムの方には無くて……そこで「だったら自分で作ればいいじゃん!」となったわけですね。

 ですので、これから時間があったり気が向いたりしたら後書きが付くと思うので別に興味ないという方はスルーしてください。

 さてさて、ということで今回なのですが自分自身書いてて亜希に殺意を抱いてました。マジでクズですねあのアマ。ホント夏希に何してくれてんだ。

 とまぁ、私のように亜希に対して苛立ちや殺意を覚えてもらえれば幸いです。

 そして、夜の言う証拠とは一体……!?

 てことで今回はこの辺で。

 それでは次回お会いしましょう。ではまた。

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