恋の花

「うわぁ、きれい……!」

「はい、とても美しいです……!」


 ギルドからクエストを受け、目標地点まで歩くこと十数分。


 三人の目の前には、マーガレットが辺り一面を埋め尽くすかのように咲き誇っていた。


 好き、嫌い、好き……と恋占いに使用されるイメ―ジのある花、というかよく使われていた花、それがマーガレットである。


 因みに、フランスでは、愛してる、少し愛してる、とても愛してる、全然愛してない……と占うとか占わないとか……。


 白、ピンク、黄色といった三色のマーガレットが咲き乱れる光景は、美優と志愛の言う通り、綺麗で美しくて。


 思わず見惚れてしまうほどだった。


「たった一輪とはいえ、持って行くのを躊躇ってしまいますね……」


 今回、宿泊研修に訪れたナギ高の一年生全員が一輪ずつ花を持ち出しても余りまくること間違いない程、大量に咲き誇っているマーガレットの花々。


 しかし、これだけ綺麗に咲いていると、幾らたくさん咲いているとはいえ、摘むのを躊躇ってしまうというもの。


「でも、摘まなきゃだし……端の方から持って行こうよ!」

「その方がよさそうですね」


 気休め程度ではあるだろうけど、景観を損ねることのないように、花畑の端の方に咲いているマーガレットを摘み取るあかり達。


 中心に咲いているマーガレットの方が太陽の光を十分に浴びているからかより綺麗に美しく咲いているのだが、中心に咲いている花を摘んでしまえば、折角の綺麗な花畑も台無しになってしまう。


 まぁ、たくさん咲いているのだし、景観を損ねるだなんて考え過ぎなのかもしれないし、そもそも三人だけが気を遣っても無意味ではあるのだが。


 それでも尚、三人は端の方に咲いているマーガレットを摘み取った。


「そういえば、なんでマーガレットなんだろ……」

「言われてみれば確かにそうですね……」


 美優のふとした疑問に、同意する志愛。


 世の中には幾つもの植物――花が存在する。その数、実に二十万種を超えるという。


 といっても、日本に二十万種以上もの花が咲いているわけもなく。どのくらいの種類の花が日本の大地に咲いているか定かではない。


 その中でも、一般的に知られている花なんてよくて数十種類、悪くても数種類程度だろう。


 一体、人が何を思って花を育てるのか、はたまたどんな花を育てようとするかは人の数だけ理由が存在するだろうし、それを考えるだけ時間の無駄だろう。


 だが、多くの場合は“花が好きだから”花を育てたいのだろうし、“好きな花だから”その花を育てようと思うはずだ。


 必ずしもそうとは言い切れないが、もし、一般的な理由が当てはまるのだとしたら……。


「恋に関係する花だからだと……わたしは思うな」

「あかりちゃん?」


 あかりはマーガレットに手を触れながら。


「マーガレットの花言葉は真実の愛とか心に秘めた愛とかいろいろあって、色ごとにも違うみたいなの。だから、マーガレットなんじゃないかな」


 花占いに使われる花であるマーガレットには様々な花言葉があるが、そのどれもが恋愛に関係しているものである。


 その由来は、ギリシャ神話に登場する女神アルテミスに捧げられた花がマーガレットだからとされている。


 勿論、本当にそうなのかはわからないし、一体どういう経緯で花言葉が作られたのか、付けられるのかすらわからない。


 だが、マーガレットが恋愛と結びつきのある花だということは確かである。


「でも、あかりちゃん。それだけじゃ理由にはならないんじゃ……」

「あ、もしかして……」

「志愛ちゃん何かわかったの?」

「えっと、先程の方の話ではここで摘み取ったマーガレットを花束にして先生方に渡すんですよね?」


 先程の受付嬢さんが特別と言って教えてくれたことを要約すれば志愛の言っていることになるだろう。


「理事長とあかりさんのお兄さんを除けば、引率の方は女性で、マーガレットの花言葉はあかりさんの言う通り恋愛関係ばかり……というのは考えすぎでしょうか?」


 確かに、志愛の憶測は一理あるだろう。


 柳ヶ丘高校に努める教師の比率は、少しだけ女性の方が多い。


 去年の一年生――夜達の時の担任の先生が女性だけだったかどうかはわからないが、少なくとも今年の一年生――あかり達の担任の先生はみんな女性だ。


 マーガレットは恋愛絡みの花で、その花束を贈る相手は女性。だから、ここに植えられている花はマーガレット。それが、志愛の辿り着いた憶測である。


 これはあくまでただの憶測だし、志愛の考え過ぎの可能性だって多いにある。


 マーガレットを植えようと決めた人が、ただ単純にマーガレットが好きなだけかもしれないだろう。


 でも、なるほどと納得出来る憶測だった。


 まぁ、実際は好きだから植えただけだったのだが、数年前に林間学校で訪れた男子生徒がマーガレットの花束を告白する時に贈りたいと申し出てきて、それを了承したところ見事カップルが成立したため、伝統的な感じで花束を贈ることになったのだが。


「もしかしたら志愛ちゃんの予想が本当だったりしてね」


 そんなことを言いながら、三人はそれぞれ白、黄色、ピンクのマーガレットを手に、目の前に広がる綺麗な花畑をしっかりと目に焼き付けた後、クエスト達成の報告をするべくギルドへと向かった。


 その道中。


「……ねぇ、その花畑ってまだなの?」

「も、もう少しだと思う……」

「……」


 あかり達が花畑に長居しすぎたのか、目の前には文句を垂れ流す亜希と何故か顔色の悪い舞と茜音の姿があった。

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