決戦前の休息
夜と夏希が、否、ナイトとアリスが片手間に魔物を屠り、ダンジョンを漁り、クエストを達成してかれこれ三十分ほどが経過し、部活動紹介が始まっていた。
今は、実際に目で確認していないから何処でかはわからないが、理事長である慎二が挨拶をしているところだ。まぁ、いつも通りならば壇上での挨拶だとは思うが。
確か、理事長挨拶が終われば生徒会長の挨拶があって、吹奏楽部から部活動紹介が始まるはずである。
どんな部活があるのか楽しみなのか、新入生たちの楽しそうな声が体育館内に響いている。まぁ、高校生活の楽しみの一つである部活動だから、どの部活に入ろうかしっかり決めようとしているのだろう。
因みに、ナギ高は絶対に部活動に入らなくてはいけないという決まりはないので帰宅部という選択肢もある。確か、梨花と柊也も帰宅部だったはずだ。
「始まったなぁ……。ほんとに見なくていいのか?」
「……だって、興味ないもん……」
夜の同じ質問に、同様に答える夏希。どうやら、何度聞いても答えは変わらないようだ。
夜としては、たとえ興味がなくとも華の高校生活を楽しん貰いたくて言ったことなのだが。
けど、嫌なことを無理矢理強要する夜ではない。だって、強要されたところで逆効果だから。余計意固地になってしまうだけだから。
それに、何よりも夜自身が強要する、強要されることが嫌だから。
自分が嫌な事は他人にしない、小学校で習うこと当たり前のことである。まぁ、そんな当たり前が出来ない人も世の中にはごまんといるのだが。
「ねぇ、ナイト。二次元部の部活動紹介っていつなの?」
「……あと何時間後なんだろうな……」
部活動紹介について色々書かれた書類によれば、一つの部活の紹介時間は五分だったはず。
柳ヶ丘高校にはサッカー部や野球部、吹奏楽部や美術部などセオリーなものもあれば二次元部など訳わからない多種多様の部活動がある。その数、計二十三。
授業時間が五十分、休憩時間が十分、計六十分のサイクルだから、連続で紹介出来るのは十個の部活動だけ。
つまり、二次元部の紹介時間まで二時間十分後というわけだ。
「……暇だね……」
「暇だな……」
「こんなにはやく準備する必要あったの?」「……うん、ないな……」とため息を吐く夏希と夜。
「……でも、今この部屋から出る訳にはいかないんだよな……」
今、夜と夏希が待機している部屋はステージ横にある一室。つまり、この部屋から出てしまえば全生徒全教師から注目を浴びてしまうのである。
そんなことになれば夜と夏希のSAN値はガリガリ削られること請け合いである。何ならそのまま卒倒するレベルでSAN値が零になる可能性だってあるかもしれない。
そんなことになれば、二人は大恥を晒すことになってしまう。というか、それ以前に大勢の人間がいる場所へ行かなくてはいけない。
部活動紹介に関してはやらなくてはいけないという名義があるからまだ我慢出来る……かもしれない。だが、ただ暇だからという理由で我慢出来るほど夜と夏希は強くない。
故に、この部屋から移動するという選択肢は存在しないのである。
「……SaMやるか……」
「うん、そうしよ……?」
ステージ横の部屋に遊べるものがあるわけもなく、ノートパソコンに入っているゲームも瑠璃が愛してやまないギャルゲーが入っているだけ。
結局、二人にとっての暇つぶしの方法は
二人が気を取り直して屠り、漁り、達成すること二時間。遂に、夜の所属する二次元部の紹介まで残り十分となった。
流石に二時間も休まず
「もうそろそろかぁ、嫌だな……」
何を今更、とツッコまれそうなことを言う夜。だが、それも仕方がないこと。
夏希と同じく“対人恐怖症”を患っている夜としては、全校生徒の前に立つというだけでガクブル案件。
しかし、今回はそれだけでなく部活動の紹介をしなくてはいけないのだ。つまり、ガクブルどころか卒倒案件なのだ。
「だ、大丈夫だよ、ナイト」
「夏希……」
自分だって大丈夫なはずがないのに、今だって微かに震えているというのに、夏希は夜を安心させようと手をぎゅっと握って笑いかけてくれる。
「だって、僕達最強だもん」
夏希の言う通り、二人は最強だ。ただし、それはSaMの世界でのこと、ナイトとアリスのことだ。だから、実際に最強なのは夜と夏希ではない。
ゲームでは最強だったとしても、現実では最弱に等しいのだ。
けど、自分だって怖くて仕方がないのに夜を勇気づけようとしてくれる夏希の気持ちを無碍になんて出来るわけがない。
それに、盟友に、相棒に恥を晒すわけにはいかない。今まで、散々晒してきたけど、それでも怯えて足が竦んで何も出来ない自分を見せる訳にはいかないのだ!
『続いて最後の部活動紹介です。二、次元部……? の方、お願いします』
どうやら、そうこうしている内に二次元部の出番がやって来てしまったようだ。在校生でも殆ど知る人のいない部活だから、アナウンスの人から戸惑いが伺えた。
時間に遅れれば、更に注目されることになってしまう。つまり、心を落ち着けるための時間はない。
けれど、そんなの必要ない。
夜は夏希の手を握り返し。
「そう、だな……俺達二人で最強……だもんな。なつ……
「うん、僕の背中も任せていい?」
「あぁ、任された」
夏希に部活動紹介を手伝って欲しいと言ったのも、言ってしまえば夜が助けて欲しかったからだ。一人では無理でも、夏希となら大丈夫かもしれないと思ったからだ。
その証拠に、先程まで胸中にあった恐怖は完全になくなったとまでは言えないけど、和らいでいた。
やはり、夏希が自分にとっての心の拠り所なのは、中学生の頃から変わってはいないようだ。
まぁ、中学の頃から自分は変わっていないということは、まったく成長していないということになってしまうのだが。でも、今はそれでもかまわない。
二人は目を瞑り、深呼吸を一度。
「……それじゃ、行くか、アリス!」
「うん、ナイト!」
そう言って、左手にノートパソコンを持ち、右手は夏希と繋いだまま、夜は
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