あるところの文学厨が送る一日



 私の中道派精神は常に統一だ。


 だから私は自民でも民主でもなく維新の党を応援し、東軍でも西軍でもなく第三勢力黒田如水軍に心を打たれる。卑怯だ、と批判されるのは構わない。ただ、乱世を生き残るにはある程度の独立的感情を持たなければいけないと思うのだ。強者にへつらうことではない。自己の意見と判断をしっかり持つことが重要であろう。


 私は、Kくんに質問する。ちなみに、かの文豪の名作に登場する彼と同姓同名なのであるが、一切関連関係はしないことを断っておく。


「アベくんは直近の参議院選で勝利した。その時、Kは政権が安定するのは良いことだ、と喜んでいたな。ドイツのメル○ルばあちゃんを例にとって。なるほど向こうもアベちゃんよりずっと長期政権であるのだが、日本とドイツの場合を混合させてはいけないのではないだろうか。だって、自民が勝ったのは野党がボロボロだったからだろう? 思えば、アメリカだって共和党と民主党が四年やら八年で党が交互に入れ替わってる」


「確かにね」そういって、Kくんは落ち着いて答えていった。「だけど、アメリカは国民一人一人の力がとても強いんだ。地盤が盤石だから、政権が変化しても混乱が起こることはない。それと、野党といってもいろいろな派閥があるだろう? 最近はまた一同集合をしようとしてるみたいだけど、憲法改正でも意見の食い違いが見れる。野党に投票しないのはそういう理由もあるし、あとは俺たちが小学生だった頃に一年おきにころころ総理大臣が変わっていったじゃないか。その時に民主党は『やらないよ』って国民にいったことをどんどんやっていったんだよ」


「ああ、缶くん(仮名)のときね」


「そう。だから、その時の裏切られた感覚をまだ引きずってるみたいだからね。今は信頼回復をしていくしかないんだろうけどさ」


 それと、とKくんは付け加えた。「アベさんはとても外交が上手いからね。トランプともそうだし、中国やプ〇チンとも渡り合っている。その結果、大手の企業は貿易によって潤うわけだ。だから、アベさんを退陣させる理由がない。なにより、長期政権ってことは海外から『安定している』と思われるからね」


 へー、と俺は相槌を打った。なるほど、とても勉強になりました!



 我々が話し込んでいる場所は、池袋の某映画館前(つっても数が限られるので某を付けてもさほど意味はないが)。池袋! にいる人間の約八割が埼玉県民だという噂が巷で流れているのを読者の皆様方は知っているだろうか。


「んな、バカなことあるかよ!」


といってる私が、すでに埼玉県民であることを自覚はしてない。ちなみに、Kくんは現在東京済みだ。おめでとう。君は二割の希少価値である。ゴミクズの中に埋もれるダイヤモンドのようだったよ。


「否! 俺の持論では、池袋は『五割埼玉県民、三割外国人、二割がその他』だ!」


 そう私は宣言する。はっはっはっ、東京の愚民どもよ。名称をつけられず、『その他』に区切られて食う飯はうまいか? アニメでいえばただのモブキャラ。ヤンキーBの役割を授けようじゃないか。そうやって、道行く人々のこめかみをピキンと立てさせながら街を颯爽と駆け抜けていく。


 ははっ、都民へのマウントを取りながら食う白米はうまいのう!


 そして私は、ブックオフに入っていく。ジュンク堂でもなく三省堂でもなく、安上がりで済ませられるブックオフ。すいませんね。貧乏性が出てしまいましてね。


 私たちはまず参考書のコーナーで品々を選別していたのだが、途中で飽きが生じてフラフラと店の中を探索。海外文庫が陳列された本棚の前で、私は立ち止まる。


「なぁ、Kよ。君は『氷菓』というアニメを知っているか」


「ああ、聞いたことはあるね。有名だというのは知っている」


私は満足そうに頷いた。「そうだ。あの本は角川から出版された純粋無垢な一般小説だ。しかし、なんと最近『氷菓』をラノベだと勘違いする馬鹿者がいるんだよ。それが俺には許せないのだ! そこの線引きはしっかりしてくれと思うんだ!」


「まぁ、アニメをやったから見間違う人はいるわね」Kは無難な返答を寄越す。


 若気の至りかオタクに対する敵がい心か、時折ラノベの定義とは? を議論することがたびたびある。私はこれに明確な基準を持っている。それは出版文庫だ。


「角川文庫!」


「一般!」


「電撃文庫!」


「ラノベ!」


「新潮nex文庫!」


「真ん中!」


 という感じに。これほどまでに、分かりやすい基準点はないと私は自画自賛しているのだが、なかなか浸透しないのはなぜ。不思議なものだ。


 それぞれの戦利品を購入し、店を後にする。ラーメンで腹を膨らませた後、映画館に向かう。上映から二日しか経ってないから、客で多くの席を埋め尽くしていた。老若男女、幅広い人々が集結している。


「映画の予告とか見た?」私はKくんに訊いた。


「いや。でも、読み方だけは確認したね」


「ああ、"シジン荘”ね」


 私は事前に、この映画の魅力を伝授しておく。本格ミステリ、と呼べるかどうかで賛否両論が巻き起こったこと。どうやって、密室を作るかに注目してほしいこと。きっと、面白く楽しめるであること。


「あとね、キャストが良い! 神木にハマベやからな」


「ああ……神木は最近、よく聞く人だね」


「……別に、最近めちゃくちゃ出てるってわけじゃないけどね」


 むしろ、ハマベのほうがここ一年で来てる。ま、俺は『キミスイ』の頃から注目していたんだけどねーっと古参アピールするつもりはなかった。てか、アピールできるほど古参ではない。


 と、ここで私は少し言い訳を挟む。


「なかなか学校に、趣味が合う人がいなくてね。俺の周りは三次元の実写に興味ない人ばっかでさ。いたとしても、オラオラ系というか、誘うにはためらってしまう人たちだからさ。あと、作品じゃなくて俳優女優を目的に映画観るっていう人もいるし」


 ぶっちゃけ、Kくんもどちらかと言えばオタクの類に入ると思うのだが。


「俺は映画好きだよ」Kくんはいう。「邦画はあんまりだけど、洋画はテレビでよく見る。昨日は、『$%&#=Q』(←聞いたこともない単語だった)を観たねぇ」


「お、おう……」


 なんでも、作業しながら映画を鑑賞しているらしい。それで二足のわらじをしっかりと履けるのが、彼のすごいところだ。



 映画はとても面白かった。実写のインパクトはやはりすごい。あと、原作の文章ではイメージのしずらかったトリックのところを、視覚化できたことに私は満足した。


 いやいや、隣のKくんも楽しんでくれたようで、「まさか○○が出るとはね」とちゃんと驚いてくれて、私はホッとした。良かった。内心、彼がつまらなそうにしてたらどうしようかと思っていた。露骨につまらなそうな態度を取る人も世にはいるからね、嬉しい嬉しい。


 いや、それにしても、「屍人荘の殺人」は原作者・今村氏のロマンを見た気がする。だって、デビュー作でミステリー賞四冠取って、あの豪華キャストと製作陣の高クオリティ映画でしょ? 私は夢を抱かずにはいられないよ。


 エンドロールに流れてきた「今村昌弘」に、強い尊厳の意を抱いたのだった。


 私はあの瞬間、ラストシーンの比留子ひるこの冷酷さ、Perfumeの音楽、今村氏への畏敬――それらどれに思いを馳せ、感動していたのか、混ざりあっていたのか、分からなかった。知るよしもないことであろうが。


 

 それから私たちは、池袋をちょいとぶらついて、今生の別れ(今年の別れ)を誓い合い、それぞれの帰路に着いた。うん。満足な日曜だった。普段、家で怠けているけど、たまにはこんな日もいいもんだと思えた。


 さーて、冬は何をして遊ぼうか。




✳Kくん、勝手に登場させました。ごめんなさいね()

  

 

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