明影のデッドライン

 あれはいつのことだったか、たしか小四ぐらいのときだったはずだ。

 当時仲の良かった友達二人とすぐ近所の公園にいたときだった。どちらかが話しかけてきたかは定かではないが、犬を脇に抱えた若い男の人と遊んだことがある。

 昔のことなので記憶が薄れているのだが、駐車場でフリスビーを投げたこと、「お母さんにはいっちゃダメだよ」と三人それぞれにジュースを奢ってくれたこと(僕はココアだった)、帰り際一人一人の名前を呼んで車で去っていったこと。

 今考えたらその男性は危険なようにも思えるが、僕の中では優しいお兄さんとしての印象が残っている。そして、そのわずか数時間の出来事を今でも覚えているのは自分でもちょっと不思議だ。

 あれから彼と会ったことはない。というか、こちらは顔をまったく覚えていない。そこら辺の道ですれ違っても、「あ、あのときの兄ちゃんだ!」とはならんだろう。

 こういうのを一期一会というのか。ううむ、人との邂逅は深いものだ。そしてあのとき話しかけてくれた男性はどこで何をしているのだろうか。確かめたくても確かめられないのがもどかしいんだけど、それがたやすくできる世界もつまらない。

 内容が薄いからあんまり語ることがない小話である。

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