俺とこいつの箱庭




口付ける箇所によって、その意味合いが異なるらしい。

 


目付きが悪い恋人は事が終わり、暫くした後シャワーを浴びると、薄いシャツと下着1枚で出て来た(かわいい)。その間暇だったので何と無しにスマートフォンを弄っていると、其れについての記事が出て来たのだ。隣へ促せば一応のろのろと来たのだが、眉を顰めて1人分空けた変な距離を取る。仕方が無いので此方から近付き、腰に手を回して逃げない様に。物凄い顰めた顔をされたけれど無視する。



「痕 何処が多かった」


「は」


「見たでしょうに」


「   首と胸  後は太腿」



視線を落とせば赤い痕。胸は分からないが、首と腿に散らばっていて、俺のものだとの主張が、我ながら激しいな。その意味とやらを検索してみると、知らず知らずなのだが、意味の通りになっていた。思うより当たってしまっていたので笑いが止まらない。首を傾げるこいつに見える様画面を向けると、眉間の皺が深くなった。笑った顔、見た事あったかね。



「うぁ ひどい」


「酷くねえよ」


「完全に束縛系だろ 止めて」


「其れくらい大事だから」


「    」


「どん引いた顔も良し」



頭を優しく撫ぜる。俺から触れれば即座に嫌な顔をするのだが、此れだけは何故か無抵抗だ。触れて来るのは希で、そうだ、その時は。検索を掛けて現れた答えを見れば、己の口端が吊り上がるのが分かった。その顔きらいと言われてしまうが、スマートフォンの画面から目を離せないでいると、不服と露わにしたこいつは、やわいビンタを仕掛けて来た。抵抗せずに受け入れて、酷くきれいな目を眺める。俺に似て従順しない、強く脆いこいつがたまらなく愛おしいのだ。



「なあ 構って欲しい時 耳にするよな キス」



その項目を見せた。文字を確認してぱちぱち瞬いた後、普段開かない位置まで瞼を上げる。その様子を見届けてからスマートフォンを置いて、耳許にそぅと口付け問うた。



「誘惑 してたの」



一気に体温が上がるのを感じた。こいつは嘘が吐けないので何も言い返す事が出来ずに、只々俺を鋭く睨むしか無い様だ。だが涙目になっているので怖くない。寧ろ興奮する。くつくつ笑って如何なのかと答えを促すが、身動ぎこの場から逃れようと無駄な抵抗をするだけで、求める言葉は頑なに出て来ない。まあ良い。軽い弱みを握ったと思い、じわじわと攻めてやろう。普段絶対口にしない、俺への気持ちを教えておくれ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る