箱庭シリーズ(2人の箱)
とりなべ
君と自分の箱庭
毎日酷く苦しかった。眠る時も、起きている時も、何時でさえも。
遠くから近くから君を見ている度にぎゅうと、締め付けられる。本当は言いたくなかった、傍で笑っていられれば良かった。でも苦しくて、吐き出してしまった言の葉を君は驚きながらも、全てを受け入れてくれたんだ。
数回瞬いて、大丈夫だよと、やわらかな笑顔で言ってくれた。硝子細工みたいにきらきらと光る目が自分を見て、頬にゆうっくりと手を伸ばした。しかし後少しで触れる距離になり、本当に良いのかと考える。震える手に気が付いたのか彼方から擦り寄せてくれて、あたたかい温度が伝わって、柔くて吸い付く様な感触に、自分の顔や耳が熱くなるのを感じた。
「嫌だった」
そこから動けないでいると、そう言われてしまい違う、何度も何度も首を横に振る。嫌な筈等無い。君へ抱く此れが、愛情だと気付いた時からずっと、こうしたかったのだから。情けなくびくついた右手をそうと滑らすと、肌より柔らかいものに触れてしまって、其れが唇だと気付くのに暫く掛かってしまった。
「ご めん っ 」
慌てて放そうとしたが直ぐに、あの目が縫い止める様にじいと、自分を見つめた。目が放せない、いや放したくない。まるで複雑な、万華鏡の様に変わる光が、ふわふわくるくると。
「 ごめんね」
見開いた壊れそうな目が、即座に何故と問い掛ける。が、自分の目許からぼろぼろと涙が流れ落ちて、止まらない。閊えた喉からようやっと出した言葉は、君を好きになってごめんなさい。擦り寄せてくれた頬をそのままに、静かに聞いて目を閉じた。
「好いてくれて ありがとう」
流れていた涙が、震えていた手が止まる。身勝手に押し付けた感情はやはり迷惑ではないかと、今の今まで不安だったから、耳にすとんと届いた言葉は自分をひどく安心させた。余っていた左手をゆるゆると持ち上げて、そのまま両手で触れれば、君は更に優しく笑ってくれる。
「ふふ 変な顔しているよ」
「 うん うん 分かっている」
「本当に 良いの」
「君が 良いの」
目を見てはっきりそう告げれば、彼方から初めて触れてくれた。そうしてそのまま、自分をゆだねてくれた君と、ずっと一緒に居たいと。
「君が好きです」
あらためて そう思った
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