第12話 麗しき南国

 本部の戦闘課に行き、モニターを見上げると、蠍はデスクに居た。

 蠍の机に駆け寄り、ポン、と肩を叩く。


「わっ……なんですか魂……。足音本当に立てませんよね貴方……」


「わざとじゃない……」


「まぁいいです。で?なにか御用ですか?」


「えっとね、これから、犀と麟と俺と一緒に、蠍にも麗所に行って欲しいの。だめ?」


「はぁ……なぜまた?たしか今は、明が出撃しているはずです。なにか気になることでも?」



 魂はこくりとうなづいた。



「最近のあの変な肉喰ヒたち。さっき倒したやつは再生したんだ。……明らかにおかしい。だから、おれ、所外の肉喰ヒたちの現状も見ておきたいの。それに、戦い慣れてる天所とか彼岸所ならまだしも、なかなか出撃のない麗所でしょ。……明が心配なの……」


「……優しいですね、うちの課長は。良いですよ、丁度書類も終わったところですし」



 魂は、表情こそ変わらないものの、明らかにぱあっと雰囲気が明るくなった。


 4人は、エレベーターに乗り込み「所外」を選択する。「麗所」を指定すると、エレベーターはガクンガクンと動き、縦や横に動き始めた。



「酔う…………」


「うえぇ……ねぇオレこれきらァい……」


「魂も犀も貧弱ですね、これくらい耐えてください」


「ごめん蠍…………俺も吐きそう…………」


「……私だって吐きそうですよ……!」



 4人とも、案の定エレベーターの奇怪な動きに酔っていた。

 エレベーターでの長旅もしばらくすると終わったようで、エレベーターの扉が開いた。

 外からは、むわっとした暑い空気が入り込み、酔った4人を包む。



「ああああっ……追い討ち……!」


「明はコレの後に出撃したんだ……おれたちも、耐えなくちゃ……」


「知ってますか魂……。明は所外出撃に慣れすぎてるため酔わないということを……」


「…………明ごめんねぇ…………」



 4人はフラフラエレベーターを出る。何も無い地下から、透明ガラス張りの円柱型のエレベーターに乗り換え地上へと登る。


 地上は、夕方になっているのもあり絶妙に暑かった。夕焼けが眩しい。


 明の出撃場所はここから程近くにある、麗所の観光地だ。

 だが、そこにいるとも限らない。

 魂は、明にボイスを繋げた。



「みん、聞こえる?みんー」


『あ?なんだ魂か。……って、お前ら何してんの?4人も暇なのかよ』


「暇なんじゃないよぅ……!ていうか出撃なんじゃないの?落ち着いてるけど」


『や、そーなんだがよォ……。なんつーか、いねぇのよ、肉喰ヒが』


「え?」


「居ないって、だって出たから出撃命令出たんじゃん?」


『いや、犀の言う通りなんだがな……。マジで居ねぇんだ、超探してんだよ今。つか、転送系のアイツの姿も見えねぇ』


「……誰を連れてったのですか?」


『あぁ、蠍にゃ悪ぃが、No.18のくろ連れてった。転送系ならアイツには誰も適わねぇから』


「……皁さんの姿が見えないというのは、どういった状況なんでしょうか」


『俺にもわかんねぇんだって……気付いたら居なかったんだよ。……おめェの大事な女だってなぁ分かってんだ、こっちだって必死なんだよ』


「……そうですか。いえ、失礼、取り乱しました。こちらも、肉喰ヒ共々探しますので」


『ああ、頼むわ』



 プツリと通信は切れ、その場はしんと静まり返った。



「……皁、って人確か、蠍さんのカノジョ?だっけぇ」


「彼女までは言ってませんよ、……ただの片想いですから……」


「そんな人居なくなったとか言われたら焦るよね……。固まって探しても意味ないだろうし、分かれない?」



 麟からの提案に他の3名は頷き、二手に分かれた。

 麟と魂、犀と蠍で分かれ、各々色々な場所を探索する。


 麗所にある昔から変わらぬ姿の城、海辺、森の中、観光施設、暗がりのある場所全て探し尽くす。



「……海辺、森の中には居ないねぇ……」


「そうですね……。というか、この森自体、どこに位置するなんという森なのか把握出来ないのですが……」


「ちずちず〜っと。……んん?んんんー?」


「なんですかアホそうな声出して」


「アホっていうなー!!ちがうの、でないのー!」


「モニターですか?……あれ、本当だ、出ませんね……。困ったな、これじゃあ通信できません」



 普段ならパッと現れるモニターが、何をどうしても出ない。

 暗く、深く、木の生い茂る森の中だ。通信できなくては戻る方向もよく分からない。



「仕方ありません、このまま進みましょう。どこかに抜けられると思います」


「わかったぁ。……にしても、鳥の声すら聞こえないよここ?花の香りもしないし……ジメジメしててなんかやな感じ……」


「そうですね……。如何にも肉喰ヒが好きそうな場所です」


「目的の肉喰ヒじゃなくても、湧き出てきたやつくらい居そうなもんなのに……」



 不気味なほど静かな森の中を、2人は進んでいく。風すら吹かず、木の揺らぎも何も無い。ジメジメしていて暑くて、体にカビが生えそうだ。


 歩いていると、ふと、犀が顔を上げ何かを見つけたような顔をする。



「犀?どうかしましたか……?」


「…………、なんか……いま人が居たよ……?あっちに向かってった……!」



 犀は、その指差す方向に向けて走り出した。

 ただの知らない人を見つけた時の動きではなかった。急に走り出した犀の脚はとても速く、普段からは想像もできない機敏な動きだった。



「犀!待ってください、ちょっと!」



 その声は聞こえないようだった。一心不乱に走っていく。

 何とか蠍は追いつくも、犀の目の前には岩の壁が広がっている。



「ぁれ……あれ?おれ……あれ?こんなとこ……なんで走ったんだっけオレ……?」


「犀……?」


「……ぁれ……。ねぇ蠍さん、ここの壁……なんか変じゃない?」



 犀は息を切らしながら、そう言う。

 目の前の壁は不自然にヒビが入っており、奥になにかありそうな雰囲気だ。



「岩戸……でしょうか。……蹴ったら開きますかね」


「蠍さんの蹴り技なら行けそう」


「ふふ、足を負傷したらすみません」



 蠍はそう言いながら、一方後ろに下がり、勢いをつけて岩戸に向かい蹴りを放つ。岩は、いとも簡単に崩れた。


 そこには長く続く洞窟があり、中からは生ぬるい風が吹く。



「洞窟……?……ねぇこれは……不気味だってぇ……帰りたい……」


「そうは言っても……。ここに着いたのも何かあるのかもしれませんから、行ってみましょう犀」


「うぅん……わかったよぉ……」



 2人が洞窟の奥に向かうと、水滴と、足音が響き渡る。

 犀の靴も、蠍の靴も踵に高さのある靴のため、音が余計に出る。


 犀は怖がっていたのに、案外堂々と歩いていく。



「……にしても、犀、あんなに速く走れるのですね」


「え?そんなに速かった?戦う時いつもあんな感じだよ?」


「速かったですよ。運動神経いいですよね」


「んまぁ……おれ、球技だけは嫌いだけどあとは何となく出来るかなぁ」


「学生の頃は陸上部、とかですか?」


「んーん。……オレ多分似合わないって言われるかも……」


「何に入ってたんです?」


「スケート。レースのほうね。だから滑るのは自信あるよ。足も鍛えてるわけだし……だから速いのかも?わーからんっ」


「意外ですね。なんというか……あなたが運動部に入ってた事実だけで驚きました」


「ん〜喧嘩売ってる?」



 2人がそんな雑談を長々していると、突き当たりにたどり着いた。そこは、洞窟には不釣り合いな観音開きの豪勢で大きな扉があった。

 その空間だけかなり開けている。


「……なにこれ」


「明らかに怪しいですね」


「……入る?」


「ええ、もちろん」



 蠍の潔さに犀も押され、2人はその扉を押し開けた。

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