第11話 失いたくないから。

 魂が慌てて外に出ると、ふわりと甘い香りと、それを煽る様な突風が吹き荒れた。

 目の前には愛しい恋人。

 そして、それを守るように2人の男が武器を構えて、大型の肉喰ヒ三体を相手にしている。


「ねぇもぉ〜!!疲れたってぇ!」


「30分しか戦ってないでしょ!!眠ちゃん傷ついたら魂の顔分かるよねぇ!?」


「わかるけどぉ!!30分って長いよぉ??」


「ふ、2人とも、あたしも一応戦えるのだけれど……」


「「眠ちゃんは守られてて!!!!」」


「は?麟とハモるの解釈違い」


「はぁ?犀とハモるとかやめてよマネしないで」


「「喧嘩する????」」



 どうやら胸騒ぎは、この大型三体が現れていたことに対するものだっただけのようだ。

 犀と麟は、各々の武器を構えて戦う。


 犀は金木犀の香りを辺りに漂わせ、肉喰ヒへ幻覚を見せて反対方向を向かせる。

 その香りが三体分間に合う様に、麟が風を吹かせ更に広げる。


 悠に5メートルは有るであろう三体の肉喰ヒは、首を切らなければ止まらないというのに、位置が高すぎる。

 そんな事もお構い無しに、麟は持ち前の風で浮き上がり薙刀を構える。

 犀は肉喰ヒ一体をしゃがませて、その姿勢のまま模倣を解除し首へ目掛けて飛び上がる。


 こんな戦闘スタイルでやっていれば、討伐などスグに終わるはずだが、2人は少し疲弊している。



「眠!」


「魂!ど、どうしましょう、この肉喰ヒ、いくら斬っても再生するのよ!」


「えぇ……」


「「ああああああ魂んんんんん」」


「幹部だいじょぉぶぅ……?」


「「こいつら死ななああああい」」



 No.7とNo.9が、No.5を護る図もなかなかシュールなものがあるが、その2人がNo.1をみて泣きそうな声を出すのもまたどうしたものか。



「もう何回も首斬ってるのに死なないんて」


「薙刀跳ね返されたんだけどお……」


「んんー……消してみる……?」


「「やってやってぇ!」」


「キラキラした目で見ないで……まぶしい……」



「消す」という単語に目を輝かせ、トップの技を見ようとじっと観戦する体制に入る。


 魂は視線が気になりながらも、ゆっくりと肉喰ヒ三体へ近づいていく。


 黒いモヤが、魂の足元から3つに伸びていき肉喰ヒの足元を捉える。

 しかし、肉喰ヒに掛けていた犀の術が解けていたのか、肉喰ヒは動き出す。



「せい、うごき、止めてて」


「り!」



 犀は元気に返事をして模倣を掛ける。肉喰ヒは逆らえず、その場から動かない。


 足元を捉えたモヤは次第に肉喰ヒを包み込み、すっぽりと隠す。

 その瞬間、モヤの密度が増し、肉喰ヒを侵食していく。

 あっという間に、肉喰ヒはその場から消え去った。跡形もなく。


 ……と、思っていた。


 欠片がひとつ残っていた。その欠片から、ムクムク再生していく。



「はぁ……なにこれ、気持ち悪い……」



 魂はそう言って、再生途中の塊を全て消す。

 もう再生する様子もなく、戦闘は終了した。



「こぉん〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」


「ありがとぉぉ〜〜〜〜〜〜〜!!!!」



 犀と麟が交互に言う。



「魂、ありがとう。とても助かったわ、かっこよかったわよ」



 眠はそう言って笑う。眠にそう言われると、魂はなんだか恥ずかしくなって照れてしまう。



「……リア充が……」


「まぁ俺は彼女いるけどあそこほどいちゃつかないなぁ……」


「麟????ねぇ????喧嘩売ってる?????殺る????」


「はっはっはっは!!悔しかったら彼女作るんだな!!」


「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!!!」



 犀の悔しさゆえの咆哮を横目に、魂と眠はイチャついている。

 すると、教会から、魂の母と妹が出てきた。ボスも一緒だ。



「魂?どうしたお前らかたまって。珍しいな?」


「さっき、5mくらいの肉喰ヒが出たんです、三体」


「三体!?しかも5mだと!?」


「しかもねボス、あれね、再生するんだよ」


「ええ……?でも、再生したところで魂なら一瞬だろう?」


「んーん。最初は魂いなくて、おれと麟で戦ってたんでーす」


「え?眠は?」


「私も戦おうとしたのだけれど、麟と犀に止められてしまったの……」


「だ、だぁって……眠ちゃんがもしケガしたら……ってさ?なるじゃん?」


「そうだよ、魂に何言われるか……」


「何も言わないよ……?」


「いーや!言わなくても目で訴えかけてくるもん!!」


「そんなに……その……ガン見しないよ……?そういう仕事だしね……たぶん」


「「ほらぁ自信なァい!!!!!」」



 麟と犀はまたも声を合わせて抗議する。魂は困った顔をするが、すぐに普通の顔に戻る。

 母と妹を見て、辺りを見回して。


「かあさん、たまき、お家にはまだ帰らないで。……もし何かあるなら、ぼす、2人についててください。おれ、ちょっと明のところにいってみます」


「明の?なぜだ?」


「明はこの騒動以来初の所外しょがいへの出張戦闘です。だから、あっちの肉喰ヒはどうなのか……みてきたい」


「け、けど……魂休みだろう……?そんなに頑張るなんて魂らしくないぞ……」


「そうだよ、お兄ちゃん、今週休んでないよ……?くま、ひどいよ……?」


「あまり無理したら……お母さん心配よ……?」


「おれ……がんばりたくないけど、……家にも出たし、……。……うしないたく、ないから」



 最後の言葉は、少し声が小さかった。

 殉職が多いこの仕事1本でやってきた魂だからこそ、何か思う事があるのだろう。

 絲は無言で承諾する。


「犀、麟。あと……本部に空いてる人居ないかな。今日デスクになってる人……」


「さっき戦闘が終わってから、確か蠍さんがデスクになってたと思うけど」


「麟はそっか、中にいたから見たんだね。分かった。……2人とも、この後出撃が無かったら、一緒に麗所まで行って欲しい。蠍が来れたら蠍も。……他の場所の影響は、1人じゃ何かあっても対処しきれないから……」



 魂はそう言って、眠をみる。



「眠は出撃ないよね?なら、教会に居て。ボイスは繋いでおくから、何かあったら掛けて欲しい。送り込まれてきた肉喰ヒたちの埋葬と、なにか気になるものがあれば採取もおねがい。ここが肉喰ヒたちの墓場だから……」


「わかったわ。私はここで検問ってことね?楽しそうじゃない。……魂も無理はしないでね?」


「うん。大丈夫だよ。じゃあ、一旦本部にいこう、ふたりとも」


「「了解」」



 2人は先程とは違い真面目な顔で返事をする。


 3人は、蠍を誘うため本部へと戻って行った。

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