第4話 ボス

「やぁー!まいったまいった、新物質とはこりゃ参ったね!」


 ボスの部屋に入るなり、大袈裟なジェスチャーでいう男こそ、この組織のボスだ。

 名をはざまいと。糸を操り敵を八つ裂きにするのが得意な男だ。が、戦闘からは遠のき指揮に徹している。


「ぼす、また好きな女の子にふられたんですか?」


「やめてよ魂……。図星だからやめてよ……」


「ボスはいつになったら織姫に会えるのかしらね?」


「ああーーーー目の前に天の川広がってねぇかなあああ」


「三途の川なら今すぐみれるけど……」


「やめとけぇ?」


 出だしは茶番で始まる。いつもの事だ。


「で?なぁに」


「んと……新しい石のことで、ぼす、どー思ってるのかなぁって」


「そうだねぇ……。さっき、魂が100体倒しただろう?それで、眠ちゃんが弔ったはずだ」


「ええ、そうですね」


「上から、魂が戦っている様子を見ていた。いやぁ流石に手際が良かったよ。それに戦ってる魂は一番イキイキしてるよね。……とま、そんなことは置いておいて。あの100体、実に統率が取れていた。いやなに、魂の敵になるようなレベルではなかったけどもね。そもそも、街中のあの時間に100体も出ている方がおかしい」


「たしかに……」


 真昼間、天所の中心部で100体の肉喰ヒ。そこからまずおかしいのだ。基本は夜中に動き回る肉喰ヒが、真昼間のあの大胆な時間に、一度に100体。

 そして、1匹だけ図体の大きな肉喰ヒ。どう考えても、核はアイツだっただろう。


 魂は、黙って頭を働かせてみる。


「ぼす……。これは、俺の憶測でしかないんだけど……。もし、誰かがアイツらを操ってるとしたら……」


「んまぁ、十中八九死国の人間だね」


「だよね……。あの石の解析が追いつかなくちゃ何も言えないけど、国を守る責務がある死国の人間が肉喰ヒを操ってるとしたら、なんのため?」


「さぁ……。一般的に考えるならば、怨恨……だろうね。深い何かがあるには違いないけど」


「私も一つ気になることが有るわ。肉喰ヒの脳はもう既に、変化した時点で死んでるハズ。なのに、信号を送る石を埋め込んだところで操れるわけ無いじゃない?」


「それもそうだね……」


 3人は、部屋で唸る。

 死んでいるはずの脳に埋め込まれていた石、操られていた肉喰ヒ、ボスのような1匹……。

 謎のままのこの状況だ、何か行動を起こさなければ、何も進まないだろう。


「とにかく……」


「ん……あ、ぼすまって、明から通信だよ」


 魂は、組織No.3のたすくみんからの通信をとる。


「どうしたの、明」


『よぉ。今肉喰ヒ殺ってんだがよ、街中だってのに一気に20体出てやがる。まだ夕方だぜ?どーよNo.1さんよ』


「うん、へんだね」


『おめーが倒した100体ン中、でけぇの居たんだろ?こっちにもいんだよ、塀よりでけぇ奴が』


「……ボス、みたいな奴かな」


『だろーなァ。コイツどーすんよ』


「ぼす、どーする?」


「明、お前なら生け捕りできるだろう。持ってこい」


『らーじゃ。クッソ、ライブが台無しだぜ……』


 そう言い残して通信を終わる。

 まだ陽の光が強いうちに、2箇所で起きた集団急襲。

 なにか良くないことの前触れなのは確かだった。


 暫くして、魂と眠は教会へと戻った。

 玄関には、金髪のチャラチャラした男が立っている。

 明だ。


「よぉカップル。持ってきたぜ、生きてる死体」


「さすがだね明、わぁわぁ、暴れてるや……」


「……気持ちの悪い見た目ね、ほんと」


「んまぁな。そー言ってやんなよ、コイツだって元は人間さ」


 明はそう言って、光で出来た拘束を少し強化して本部へ持っていく。

 エレベーターの中で、魂と明が肉喰ヒの両腕を踏みつけ更に拘束する。眠には絶対に触れさせないという様に、魂は眠を端に寄せる。


『ガ、ァ……!!!!!!!!グガアアァア!!!』


「暴れんな暴れんな。おめーの脳みそ調べるだけだァ、死んだあとは……そうだな、りょうの召使いなんてなぁどうだ?アイツの側は居心地いいだろうよ、なァ死体?」


『ァァァア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!!』


「っせぇな……おい魂こいつ黙らせてくれ」


「うん。ちょっと静かにしててね」


 魂は、瘴気の棒を作り肉喰ヒの口に突っ込み、舌を消す。次いで氷の弁を肉喰ヒの喉に張る。

 肉喰ヒは声を上げることなく、じたばたと暴れるだけとなった。


 研究課に着き、肉喰ヒを引きずりながら入っていく。

 研究員たちは少し怯えるが、生け捕りの肉喰ヒなど創設以来見た者が少なかった故か、恐怖は好奇心へと変わる。


「思う存分調べて。今、戦闘課から麻酔の得意な人呼んでくるよ。明、あと……なんか強そうなそこの人、こいつの手足踏んづけてて」


「え?あ、えぇ、わ、分かりました……」


 研究員の中でも体の大きい研究員にその場を任せ、魂は戦闘課に向かう。

 エレベーターを降り、戦闘課に着くなり呼び出し用のマイクに語りかける。


「No.6、コードネーム スコーピオ。至急、ソールの元へ」


 幹部6番目の、スコーピオと呼ばれる男はデスクから立ち上がり魂の元へ駆け寄る。


「どうしました魂。なにか御用ですか?」


「おはよぉさそり。あのね、お手伝いして欲しいの」


「おてつだい……ですか。本当に貴方、演説台と普段のギャップがありすぎですね。狙ってるんですか?」


「ん?なーにぃ?」


「いいえ、なんでも。良いですよ、おてつだい……致しましょう」


「ん、じゃあ、研究課に戻ろぉ」


 魂は蠍を連れてまた研究課に戻る。

 エレベーターを降りた先には、暴れ回る寸前まで興奮した肉喰ヒが拘束されている。


「ありがとう。蠍つれてきたよ」


「よーぉさっちゃあん!元気してっかァ!?」


「だからさっちゃんはやめなさいと言っているでしょう明。ええ、見ての通り元気ですよ。……魂、コイツを眠らせれば良いのですか?」


「うん、お願い。俺じゃあ声封じるので精一杯だから」


「おやすい御用です」


 蠍は肉喰ヒに近づくと、肉喰ヒの胸に向け足を叩きつける。それと同時に、接触部分から毒を流し込んで麻痺させ眠らせた。


「さすがだね蠍。助かったよ」


「いえ、このくらい。生け捕りとはまた久々ではありませんか?」


「うん。なんかね、コイツでかいから、調べるってさ」


「なるほど……。研究課の皆さん、よろしくお願いいたします」


 蠍は丁寧に頭を下げると、そのまま辺りを見回し、魂、明、眠を見る。


「先程、事務処理課に在籍しているNo.12、未来完全予知のとむらがくから報告がありました。内容は未来予知。明日夕方4時、彼岸花丘にて120体の肉喰ヒを観測するとの事です。その際、出撃させない戦闘員がいるとの事。予知の結果と予知の補填結果、鑑みて、出撃させないのはNo.11の禿かむろれい、No.8 いず ぎんの2名。代わりに出撃させるのはNo.2の火霊ひれい もう、No.7のまとうりんの2名です」


「分かった、明日、実際に出動が出たら出てもらう。全員で何人出せばいい?」


「ええ、彼岸花丘に近い場所に配属されている、又は住んでいる以上、魂さんも行ってもいいとは思われますが……その時間、あなたは天所でしょうからね。茫、麟の他、私と霊に行かせましょう」


「わかった。じゃあ、それで出すね」


「ええ、お願いいたします。しかし、彼が入社してからというもの、殉職がかなり減りましたね」


「だね、感謝だよ」


 その会話も程々に、後ろから声が聞こえる。


「お、おい研究課長!きてくれ!」


「なんだ!」


 その場の空気が、一変、騒然とした。


「……これは……!」

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