第2話 祝!あなたは選ばれました!

「信じられない!!

 またそうやって、迂闊にも、

 どこに飛ぶかわからないリンクを押してしまったの!?」


唯一無二の親友、丸上 彩は、

チラシを見て買いに来た激安商品が開店30分で完売していて

それがさも当たり前のように対応する無愛想な店員に

家から1kmほど車を飛ばしてきたんだからガソリン代を払えと詰め寄る客

のような顔で言った。

どこにでもいる学生、加茂井 春子は、極貧生活をしているにもかかわらず、

現在進行系でお金を盗まれるトラブルに巻き込まれていた。


事の発端は、私の所有するこのスマートフォン、通称スマホに、

救いの蜘蛛の糸、ではなく、一通の迷惑メールが来たことによるらしい。


まずは、私の所有している電子マネーについて説明しよう。

電子マネーとは、ゲームのように所持金をデータとして扱い、

両替しなくても世界のどこでも使えるお金のことである。


・・・もうちょっといい解説がしたかったけど学生だから大目に見てほしい。


時代は変わった。

日ノ本の国は硬貨や紙幣による買い物の文化が廃れ、

電子マネーによる取引が一般的になっていた。


電子マネーが普及したのはいろいろと理由があるが、

やっぱり治安上の問題が大きかった。

世界が電子マネーを採用していく中、

古き良きものを大切にする日ノ本の国は、

かたくなに電子マネーの普及を拒んでいた。


『セキュリティリスクがある。』『サーバー攻撃にさらされる。』

『インチキだ。』『違法だ。』『犯罪を助長する。』


マスコミのバックアップもあり、古来からの伝統的金銭取引は、

非常に長い間守られてきた。


しかし、それが外国の犯罪者に目を付けられた。


電子マネーは、生体認証により、持ち主が特定される。

他人の電子マネーを盗んだところで、本人でないと使えない。

昔のように悪徳商人から盗んだ小判をばらまくような事件が起きても

回収されて本人の手元に戻ってくる。

犯罪者にとって都合の良くないお金というわけだ。


一方で、硬貨や紙幣は盗んだ物がそのまま使える、

犯罪者にとって都合のいい物になっていた。

コンビニで買い物をして外に出て10歩も歩かないうちに強盗に会い、

金も命も奪われるような事件が頻繁に起きた。


こうなると政府も対応せざるを得ない。


時代は変わった。

マスコミの協力もあり、日ノ本の国に電子マネーは急速に広まった。

セキュリティ的にはまだまだらしいけど、

金銭を狙う、物理的な犯罪は一気に減ったらしい。

未だに硬貨や紙幣を使うような人は、情報弱者、略して情弱として、

後ろ指を指されている。


情弱は老人に多い。

そして、老人だから強盗に遭いやすい。

犯罪者の活躍もあり、日ノ本の国で硬貨や紙幣を使う人は減っていった。


そんな安全で安心な電子マネーだが、私の全財産4821円が、

今は1821円となっている。

もちろん、何か買い物をして減ったわけではない。

だまし取られたのである。

彩によると、私はフィッシングされたらしい。魚か!


繰り返すけど、私の全財産は4821円だった。

そう、お金が欲しい状態だったのである。

そんなところに悪魔からメールが届いた。


『今なら100万人に、1万円が当たるチャンスが!』


こんなメールが届いたら開いてしまうのは当たり前だとおもう。

別に私は欲張りというわけじゃない。

少しでもお金が欲しかった。

ただそれだけなのである。


メールに記載されたリンクを押したところ、

賞金の抽選ページが表示された。

ボタンがあったので押してみると『はずれ』という文字が表示された。

がっかりしたが、ここで私に悪魔が囁いた。


『もう一回、押せ。』


そう、賢い私は、このメールのURLにつなぎ直せば、

1人で何回も押せることに気が付いてしまったのだ!

つまり、私一人で10億円を独り占めすることも、可能!?


悪いことをしているとは思っていたが、

これは制限をつけていなかった相手が悪いと言い聞かせ、

何度も押した。

全然当たらなかった。


そんな億万長者になるという夢から現実に引き戻してくれたのが、

他ならぬ彩というわけだ。


「これ絶対怪しいよ?すっごく怪しい。

 小学生でも押すかってくらい怪しい。

 これを、・・・何回押したの?」

「いちぃ・・・。か、2回、くらい・・・。かな?」


親友に嘘をつきました。

すぐにバレました。だって親友だからね。


「絶対なんか抜かれてるよ、これ!

 警察に連絡しなきゃ!」

「それだけは!」


たかがメール1通で警察沙汰になるなんて!

ちょっと騙されてリンクを30回くらい押しただけ。

・・・あれ?むしろ私が逮捕されるのでは?


「何か変わったところはない?

 身に覚えのない操作履歴があるとか。」

「操作履歴って・・・。

 あ、そうだ。」

「・・・何?」

「何かの間違いで1万円当たってないかな・・・。」

「まだそんなこと言ってるの!?ね゙ぇぇ?」


彩は、急にお腹が痛くなってトイレを探すも、どこもいっぱいで、

3階まで階段を上って普段使わないトイレまで急ぐような、

必死な顔で怒りをぶつけてきた。

なんで私が怒られているんだろう・・・。

そう思いながら、電子マネーの残金を確認。


残り1821円。


こんなに少なかったかな?

そう思いながら取引履歴を確認すると。

「あれ・・・。」

「やっぱりあった?」


身に覚えのない支払いが記録されていた。

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