第14話
コウエの森。
王国の近隣に位置する森であり、駆け出しの冒険者は必ずといっても良いほど、この森にお世話になることになる。
何故なら、この森に生息する魔物と呼ばれる生き物はどれも、他の地域に比べて弱く種類も多いので、実践練習の場として最適なのだ。
そして、その奥にはダンジョンと呼ばれる魔物を生み出す洞窟がある。
そこは森とは打って変わって、毒や麻痺、催眠など質の悪い攻撃をしてくる魔物が多く、森での戦闘で調子に乗った初心者が入り込んでは瀕死に追い込まれる、所謂『初心者殺し』と呼ばれる場所であった。
「といってもアタシ達にとっては、今更な場所だよね。魔物自体はそこまで強くないから、特徴をしっかり把握して、薬を準備しておけば、まず大丈夫なんだし」
これは冒険者としては常識だ。なのでこの
そんな洞窟の前まで移動した一行は、楽しそうに薄い袋を配るガウレオを疑わしげに見ていた。
ここにいるのはガウレオ一人だ。キュオンや他の者達は屋敷に残っている。恐らくは脱落者達の看護をしているのだろう。
子ども一人に試験を任せるのはどうなんだと思ったが、わざわざ依頼者の不満を買うような真似をする者はいない。
「袋は行き渡りましたね。では、次の試験の説明をさせていただきます。袋の中に数字の書かれた札が入っています。その数字と同じ札の方と組んでもらい、夕刻迄にダンジョンの中から『風舞の花』を持ってきて下さい。それでは組んだ方から出発してください」
その言葉を聞いて一同は札を確認する。
アンジェルはまずマリーナ達に自分と同じ札の者がいないか聞いてみた。
彼女たちなら実力や性格を理解しているので、出来ればこの内の誰かと組みたかった。
「ごめんねぇ。私はタイガさんと組むみたいなのぉ」
「残念だけど、ボクも別の人と組むんでね。まぁ道中、一緒に行けばいいじゃないか」
その話し声が聞こえたのか、ガウレオが手を叩いて注目を向ける。
「そういえば、花は2輪だけで結構です。それ以上は受け取りませんから、皆さんお早めに。」
それを聞いて周りの目の色が変わる。
簡単な採集から同業者同士の競争になったのだ。試験の難易度は一気に跳ね上がった。
「そういう訳だから、あたい達はもう行くよ」
「ええ、お互い頑張りましょ」
タイガ達が出発するのを見送って、自分も相方を探そうとアンジェルが後ろを振り向くと、
武闘家のような格好に長い青髪のお下げ、常に周りを見渡していた青い瞳は自分に向けられていた。
タイガに注意するように言われてからは、なるべく意識を向けていた筈なのに、いつの間にか背後を取られていた。
自分でも気付かない内に唾を呑み込む。
手を伸ばせば届く距離、つまりは相手の間合いに入ってしまっている。いくらナイフ投げの速さに自信のあるアンジェルでも、その前に一撃を決められてしまうだろう。
そんなアンジェルの緊張を他所に、彼女は何気無い動作で手に持った札を掲げる。そこには、アンジェルの持っている札と同じ数字が書かれていた。
「リリィ。貴女と組むことになった。よろしく」
「……ええ、よろしくね」
感情を乗せない平坦な口調と観察するように向けられる目に気圧されながら、どうにか挨拶を返すのだった。
洞窟に入ってから無言で進むリリィの背中を追いかけること暫くして、アンジェルは沈黙に堪えかねて話しかける。
「ちょっと待ちなさい。これからどうするか話し合いましょう」
「……分かった」
リリィは少し考えると、進む速度を緩めてアンジェルと並ぶ。
アンジェルは話が通じることに安堵すると、そのまま続ける。
「あなた、見ない顔だけど『風舞の花』がどんなのか知ってるの? あれはここにしか咲かないはずだけど」
「知らない。でも、そのうちに誰かが持ってくる。それを奪う」
落ち着いた見た目とは裏腹な発言にため息をついてから話し始める。
「あなたがどれだけ強いか分からないけど、『風舞の花』は簡単には奪えないわよ」
『風舞の花』、このダンジョンの奥地でのみに群生しており、その花は様々な薬の材料として重宝されている。しかし、その花が曲者で、切られたり地面から引き抜かれると直ぐに枯れてしまうの、で土ごと掘り出さなければならない。そして薬の材料となる花びらは
「つまり、戦ったりして激しく動いたりすれば、ほぼ間違いなく散ってしまうの。だから奪うなんてほぼ不可能なのよ」
「分かった。他の奴らを全員倒してから花を採集して戻る。これで完璧」
言って、彼女はまた歩調を速めて離れていく。
アンジェルは新しい相方の突飛な発想に頭を抱えるのだった。
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