第4話 シン・スー・リン

 俺の名はシン・スー・リンッス。5年前に起きた、【皇帝カイザー付き第7遊撃部隊】の唯一の生き残りッス。皇帝カイザー直属の部隊が全滅したことは、皇帝カイザー・アグリッパーの基本政策である【人類生活圏拡充計画】の見直しを迫られることになったッス。


 ニンゲンが無闇やたらに魔物の住む領域を侵したことが、そもそもの原因だと言う議員たちは数多く居たッス。しかし、まさに議会で、【皇帝カイザー付き第7遊撃部隊】全滅による責任で、皇帝カイザー・アグリッパーの退位が決定されそうになった時に、さらに事件が起きたッス。


 皇帝カイザー・アグリッパーが自分の指揮下にある遊撃部隊を【近衛部隊】と名称を変更したッス。その内、第1、第2近衛部隊は、元老院たちや議員が集まる議事堂を完全に包囲したッス。そして、皇帝カイザー・アグリッパーに異議を唱える議員を捕らえ、牢獄へと押し込めたんッスよね。


 ん? 皇帝カイザーは元老院をどうしたッスか? もちろん、皆殺しにしたに決まっているッス。要は、自分の意に反するモノたちを捕縛もしくは殺害することにより、議会を完全に掌握したッス。


 もちろん、国のいち地方を任せられた領主たちは、この皇帝カイザー・アグリッパーの行いに激怒したッス。それで、公然と皇帝カイザー・アグリッパーを非難し、軍事力を持ってして、アグリッパーを排除しようとしたんッスよね。


 そりゃ、地方の領主たちのほとんどは、歴代の皇帝カイザーたちの血筋に連なるモノたちッス。時の皇帝カイザーを排除して、あわよくば、自分が次代の皇帝カイザーに就こうとしたんッスよ。しかし、地方の領主たちの企みは上手く行くことは無かったッス。


 それは何故かッスか? 第1近衛部隊の隊長に、レイ・ダッシュという男が就任したからッス。あいつはその口から奇怪な音を放ち、それを聞いたモノたちは、自ら死を選ぶッス。


 あるモノは、頭から油を被って、自ら火をつけたり。またあるモノは、仲間同士でその腰に佩いた直剣で、互いの腹をえぐり合ったんッス。第1近衛部隊を相手にすることは、どこの領主の軍隊でも無理だったんッスよ。


 えっ? なら、なんで自分たちはその第1近衛部隊と闘おうとしているのか? ッスか? そりゃ、おいらたちはしがない傭兵部隊ッスからね。ここの領主さまも、まともに皇帝カイザー・アグリッパーの第1近衛部隊に、自分ところの正規軍は出せるわけではないッス。


 それなら、金で雇った傭兵部隊に時間を稼げるだけ稼いでもらって、他の第2から第6部隊の近衛部隊の戦力を削ろうって言う腹積もりなんッスよ。


「ったく、【死神デス・ゴッド】と呼ばれる隊長なだけはあるぶひー。ぼくちん、かしらにする人物を間違えた気分だぶひー」


「まあまあ、そんなことは言ってくれるなッス。おいらが【死神デス・ゴッド】なのは確かッスけど、うちには女神も存在するッスよ?」


「女神ぶひー? あの高慢ちきな女のどこが女神なんだぶひい? 疫病神な気がしてならないんだぶひー」


 自分の部下がマテリアル・レイのことを疫病神と称することに苦笑いをしてしまうシン・スー・リンであった。しかし、5年前、【皇帝カイザー付き第7遊撃部隊】が全滅した時に、レイ・ダッシュから自分の命を守ってくれたのは、紛れもなくマテリアル・レイであった。


 当時、彼女が自分の命を守ってくれた理由を問うた時に「ん……。ただの気まぐれ。シンは、ボクに親切だったから」である。なら、レーン隊長も救ってほしいと言いたいところだったが、彼女としては、守ったつもりではあったらしい。でも、その後、レイ・ダッシュに喧嘩を売った以上、どうにもならなかったのが、彼女の弁であった。


「ん……。シン隊長。3日後には、第1近衛部隊が、領内に侵入するみたいよ。ボクはレイ・ダッシュの声を無効化できても、普通のニンゲンの対処までは知らないわ」


 シン・スー・リーンが部下を集めて、打ち合わせをしている陣幕内に、くだんの彼女がやってきて、そう、シンに告げるのである。


「はははっ。3日後ッスか。おいらの予想より5日は早いッスね。隣領地のアッザム卿は、手も足も出ずに負けたんッスか?」


 シンがそう、彼女に質問する。彼女は兜を被ったままで、首を一度、コクリと縦に振る。


「ん……。普通のニンゲンにレイ・ダッシュが率いる第1近衛部隊の進撃は止められるはずがないわ。コード:マテリアル・ゼロの申し子だもの、彼は。あの男を止められるモノは、この世には、ボクとあともうひとりだけよ」


「そのもうひとりの行方がわかりさえすれば、皇帝カイザー・アグリッパーの暴挙も止められるはずッスけどねえ。しかし、この5年、国中を探しても所在は掴むことは出来なかったッス」


「ん……。そうね。もしかしたら、既に研究所ラボのドクター・バイロンの手により、廃棄されたのかも知れないわ。でも、あのドクター・バイロンが、自分の研究の成果を自分で握り潰すとも想えないわ」


「ドクター・バイロンっすか。あの男に逃げられたのは痛手だったッスね。3人目も気になるッスけど、4つあるコアの最後のひとつを所持したまま逃げたみたいッスから」

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