40. 横顔と進歩性
まるで大規模工場のような広さの、中世の鍛冶場で。
目を赤くしたモンスターの群れが。
武器を持って襲ってくる。
その武器には、鳥のマークが入っている。
「ポジロリ家がそれを作った」ことを示す
――こんな光景、RPGのゲームでも見たことが無かった。
「どうしてこんなにモンスターが!?」
ミオウが仰天している。
僕には、状況が推測出来た。
それはなぜか?
パァームおじいさんから、ヒントを貰っていたからだ。
「この世界には昔、人間を襲うモンスターなどおらんかった」
そう漏らしたおじいさんは、『秘密保持の呪い』で、苦悶にのたうち回った。
そういう事を平気でする相手なわけだ。ポジロリは。
そして今こうして、人間を襲うモンスターが存在するわけで。
(マーク無しの武器をモンスターに渡しているヒマが無かったんだな?)
と、気づく。
人を襲うモンスターに、武器を渡している事が世間にバレたら、大変なことになるだろうから。だから普段は、武器にその出所を表示するマークを付していないのだろう。
モンスターを『レクカク』とかいう酵素薬で操って、人を襲わせている事が知れたら、もっと大変に違いない。
「タスク! 僕とタスクで前衛。ミハに、ミオウとユイさんを預けて後衛に。敵の弱そうな所を集中的に叩いて突破。それでいいよね!?」
と、僕から言った。
一瞬硬直したタスクは。
「……お前も勇者っぽくなってきたじゃねぇか」
と言って、襲いかかっていたゴブリン達を剣で切り払った。3匹同時に倒したかに見える程の、電光石火の早技で。
「勇者はタスクだろ? 僕は違うけどね!」
と言い返しながら、僕もゴブリンを1匹だけ、打ち倒していた。
生じたスペースへ、すばやく前進!
タスクは次に襲ってきたゴブリンを難なく切り伏せてから、言った。
「アホか! 最初から強い奴なんて、居るわけねぇだろ。俺も含めて!」
(なっ! タスクも元は弱かったの? それが……ここまで!?)
その瞬間だった。
僕の体が、まるで羽のように軽く感じたのは。
「お、お! 上等! やるじゃん!」
タスクが、さらなるゴブリンを倒しながらも、驚嘆の声を発し、僕に向かって一瞬ニヤリとした。
行く手を塞ぐモンスターを排除し、強行突破する。
「きゃあ!」
後衛に斜め前から割り込んで、襲いかかろうとするゴブリンを、
ぐええ! とうめきながら回転するように倒れるゴブリン。その後ろから3人の仲間の姿が見えた。
「ありがと!」
「大丈夫! 着いてきて!」
先頭のタスクが開いた血路を通って外へと抜けると、やはりというか、様々なモンスターが更に待ち受けていたんだ。
室内には入れないだろう程の、巨大なヤツとかだ。
突き出た鼻に、シャッと尖った体毛の『オーク』。
タールみたいなドロドロに覆われた、ザリガニ? エビ? が巨大化したような『ザリビー』。
上半身が異様に隆起した『熊2.0』。
種類が増えたって、敵モンスターが増えたって、やることは同じだ。
タスクの隣で剣を振るい、道を切り開き、そしてこの包囲から脱出する。
「ヨージ! スイッチ!」
「わかった!」
僕らは戦況に応じ、左右を入れ替え、前後を入れ替え、ある時は分散し、ある時はすぐ隣に並び、戦場を荒らし回った。
雑草を刈る、刈り取り車の、1つの回転ブレードのように。
「ヨージ……」
「凄い……」
「勇者タスクに、引けを取ってない……」
後衛3人の女性の声は聞こえたけれど、振り返っている余裕は無い。
「僕のは、違うからな!」
と、タスクに返して、僕もニヤリとした。
タスクとの大きな
それは僕が、ユイさんの作ってくれた『無貌の装備』を着用していることだ。
タスクは、そんなもの無くても、これ程の戦闘力を発揮しているという事実。
そんなタスクの、この自信に満ちた表情は、最初からあったわけではない。
彼自身が、勇気を以って築き上げてきたものだと分かった。
その横顔に憧れる僕に、無貌の装備が力を貸してくれないはずが無かった。
自信を持ちつつ、憧れることも出来る。
卑屈と謙虚は別の概念なのだから。
僕らは戦った。
多勢に無勢である点は、僕が『歴戦者』グレウスと一緒の時ですら、ユイさんを守りきれなかったあの時と、一致する。
でも、相違点が、たくさんあったんだ。
タスクだけでなく、僕も敵に挑んでいること。
そして、後方からの援護があること。
現に、ピンチの時には、ミハの回復魔法が飛んでくる。背中にぶつかるあたたかい感触が体内に広がり、癒やす。乳酸の消える清涼感と共に。
ミオウの、なけなしの魔力を込めた、魔法援護射撃もあった。
「それしか出来ないから……」
みたいな事を、彼女は前に言っていたけれど、この多数のモンスターを相手にした僕らにとって、どれだけ心強い援護であることか。
そして、ユイさんが。
グレウスさんから引き継いだ、僕が守るべき対象が。
僕らの後ろに、存在する。
これほどの相違点。
そしてその相違点が、あの夜とは異なる
それが、僕らの『進歩性』だった。
――しかし。
状況はさらに変化する。
僕もタスクも、想定出来ない方向へと。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!
『死の火山』ピナシボに、立っているのさえやっとの地響きが。
そしてソレが……起こった。
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