15. 技能は特許にはならない
うちのリーダーのタスクさんは、『職業:勇者』で、若いながらも冒険者の中でメキメキと頭角を表していた。とにかく感覚が尖っているというか。
装備も、いかにも勇者な、青の金属鎧に片手剣、盾。
当然ながら、ミノタウロスの攻撃など華麗にかわせる人。
必殺の一撃のチャンスを待っていた。
ただ……タスクさんは運が悪かった。
牛巨人のアックスが起こす振動で、振動の天井からパラパラと、白い粉が降ってきた。
(
つい、転移前の、元居た世界の知識でそう考えてしまったけれど、すぐに、ただの白石の破片だと気づいた。
ミノタウロスが、アックスを横に薙ぎ払った。
一旦、そのアックスを巨体の脇あたりに溜め置いたから、この攻撃は事前に察知できるもの。ボクシングに例えると、テレフォンパンチ。
普通なら、しゃがむかジャンプかバックステップで、華麗にかわせるはずのそのなぎ払いに対し……。
「目が! 目が!」
このタイミングで、目にゴミが入ってしまうあたりが、タスクさんの抱えた業というべきだろう。勇者タスクの反応は遅れた。
ばぎょぉ
かろうじて盾でガードするものの、踏ん張りが足りない。そのまま力任せに飛ばされ、倒れた。タスクさんは「ぐふっ」と言って、起き上がれなかった。
「タスクさん!」
「ちょっと! 何やってんのよ!」
「あたしのタスク様が!」
僕、ミハさん、ミオウさんは、三者三様の反応。
ミノタウロスは、巨体に見合った長尺のアックスを、背中の後ろに、薪割りのように振りかぶる。
そして、前衛は、僕1人になる――。
◆
すこし時間が遡るんだけど。
僕が、タスクさん達とパーティを組んだ時のことを。
「そう。パーティを組むのね……」
と、なぜか不機嫌そうにユイさんが言った。
「おう。俺がずっと付きっきりってワケにも、正直いかんからな。無貌の装備のキモも伝わって、戦闘の目処もついた」
と言うグレウスさんに、頭をわしゃわしゃとやられた。
正直、その「キモ」というのに、まだピンと来ていない。
だって、『憧れが装備を強くする』って言われても……。困っちゃうというか。
その機構はどうなっているの? そんなこと出来るの?
鍛冶については、別人のように饒舌になるユイさんは、ある意味予想通り。
嬉々として、僕に教えてくれた。
「物理的には不可能よね? 例えば防御力は、鎧の金属の堅さとか厚さから生じているけど、鎧の金属を厚くすると、重くなって動けなくなるし」
「ええ、それが自然ですよね」
「『ミョイニウムパウダー』っていう、魔法の粉があるの。とある上級魔獣の体を、『伝説のミル』っていう道具ですりつぶして、魔法をかけながら粉にしたものなんだけど」
「……なんです? それ」
「だから、ミョイニウムパウダーだってば」
「へ……え……」
小瓶に入ったミョイニウムパウダー……なる緑色の粉を見せてもらったけれど。
どうも、金属を火にくべて、赤くドロドロになった状態で、この緑の粉を混ぜながら、ハンマーでトンカントンカンやって成形するらしい。
(魔法の粉を配合した剣、盾、鎧ってことか……)
と思いつつ、僕は聞いた。
「それ……凄い装備なんですよね」
「「そりゃぁ凄い
ユイさんとグレウスさんの声が、大部分ハモった。
「あのう……パテソトの出願は、したんですか?」
と僕が聞いたら、2人は苦笑いになった。
「出しても無駄だぜ? これではパテソトの権利はもらえない」
と断言する、グレウスさん。
「……どうして? 凄い装備なんですよね?」
僕が元居た世界でも、凄い物に特許権が与えられる、ってイメージだったけど……。
そうしたら、ユイさんが。
両手を腰にあて、「ふんー」と鼻で溜息をついて、形の良い胸を反らせて息を吸ってから、教えてくれた。
「技術はパテソトになるけど、技能はダメなんだよ」
「……あの。どう違うんですか?」
「人によって、発揮される効果が違うでしょ? 例えば、人を見下してばかりの人が無貌の装備を使っても、ただの鎧になっちゃうんだから」
「あー。……そうですね……」
「誰が使っても一定の効果が出るのが『技術』。人によって効果が変わるのが『技能』。前者の方しか、パテソトは認められないのよ」
と言ってユイさんは、目尻のしっかりした「いつもの目力」を、くしゃっと目を縮めるようにしてセーブしつつ、苦笑した。
「なる……ほど……」
(そうか……。野球に例えると、フォークボールの投げ方なんかは、『技能』だからダメ……みたいな感じかな? 投げる人によって変化球のキレは違うし……)
僕は、そんな感じで、一応は納得……した。
そんな僕の顔を覗き込んだグレウスさんは、ユイさんに向かってこう言った。
「じゃあ、ヨージを連れてくぞ?」
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