第2章 クエスト

14. ある戦い

 オビノ平原から北に進んだ神殿には、『準・万能の鍵・(仮)』と呼ばれるアイテムが眠っているらしい。


 『あちこちの扉を開けられる便利な鍵』。

 といっても万能ではなく、開けれる扉は限定されている。


 ゲームなんかでも良く出てくる、便利なアイテムのように思うけれど……。


 そんな便利アイテムを守るかのように。

 神殿で、僕らの前に立ちふさがったモンスターは、「ミノタウロス」。

 こちらもゲームなんかで良く出てくる、牛の頭を持つ巨人だ。


 牛の巨人が振るうは、巨大なアックス

 ただ、背中に担いだその武器の大きさが、おかしかった。


(あんなでかいくて重そうな武器、振り回せるのか……?)

 巨人の体毛の上からでも、隆起した背筋の、大きな「こぶ」みたいなのが見えた。

 膂力りょりょくが凄まじいだろう事が、すぐに推し量れた。


ズズズウウン!!!


 神殿の床に敷き詰められた石畳を、一振りで破壊、粉砕。

 それが出来る『重さ』を、このモンスターが持つアックスの双刃は、備えているということだ。


 双刃を支える、滑り止め溝がついた太い支柱と、斧の柄。

 牛男の巨体を支点として、上段から孤を描くように、ドゴォンと地面へ叩きつけられる双刃は、作用点。


 『てこの原理』に例えると、そんな感じだった。


 モーションの大きいその攻撃は、注意さえしていれば、決して回避できないものではなかった。


 しかし――。


 ドドドオオオオオ!


 一撃毎に、神殿全体がまるで地震のように震え、天井からは小さな石の破片がパラパラと落ちてくる。床の石畳も飛び散る。


 ミノタウロスは、次の攻撃の間合いを確保するかのようにすこし後退し、アックスを構え直そうとしていた。

 

「……こりゃ、うかつに近づけないな」

 余裕のある笑いを浮かべて、パーティーリーダーの男、タスクは背中越しにそう言った。


 タスクと僕は、足を止めずに、次の展開に備える。


「どうする? タスク」

 彼の後ろから、僕は尋ねた。


「ああ。俺達前衛2人は、ヤツのヘイトを集める。後衛から、ミオウが遠距離魔法攻撃」


「わかったー」

 山高帽子をかぶった女魔道士、ミオウが、若干のんきそうな口調で言った。


「私は?」

 ωを横に伸ばしたみたいな口で、大人体型のミハが聞く。


「前衛と後衛の真ん中あたりをキープして、戦況把握。サポート役で」

 タスクの指示が飛ぶけれど。


「また様子見ぃ!? 前衛前衛! 前衛やらせて! ぬっころしたい!」

 と、ミハは物騒な事を言う始末。


「どうどう」

 まるで犬でも相手にするかのように、タスクが言うと。


「ちぇ! 私も戦わせろ」

 と、ミハがぶちぶち言っている。

 ミハは回復役ヒーラーだというのに、欲望に忠実というか。


 正直今回も、ミハのヒーラーとしての出番は無いだろう。

 なぜか? 敵の攻撃力が強すぎるからだ。

 あのアックスが直撃したとしたら、僕らが使える「低レベルの回復魔法」でなんとかなるとは思えない。


「あんなの喰らったらひとたまりも……」

 と、若干かすれた声で言う僕の、そんな常識を……。


「「「そんなことないよ」」」

 タスク、ミハ、ミオウが笑っ打ち消した。


「あんなのろい攻撃、俺が喰らうわけがないでしょ」

「タスクは強いものね」

「ほんとほんと」

 彼、彼女らのこの余裕っぷりが、そのまま、僕との間のレベル差を示していた。


 この4人パーティーの中で、僕はやはり最弱だった。

 少なくとも、基本ステータスという概念においては。


 弱兵であり臆病な僕は、(大丈夫か? 冒険者、本当にやっていけるか?)と不安になった。


 彼らと出逢った酒場で、酔って床に転がっていたおじいさんが「バカが調子に乗ると、大変なことになるそ?」

 とか言っていたけれど、みんな鼻で笑っていた。


 僕は、鼻で笑うその態度はおかしいと思った。

 でも、レベル差もあるのだし、ょうがないとも思っていた。


(今は、この3人についていく。そのうち僕だって、みんなに引きずられるようにレベルが上がって――)

 

 そんな事を考えていた。


 うちのリーダー、タスクの頭上に、ソレが振り下ろされる、その瞬間までは――。

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