07. 小規模鍛冶屋と大手チェーン

 食事や素材の買い物。

 街に出たのはいいけれど、金が足りない。


(パテソトの権利がゲットできてれば……儲けが出たらしいのに……)


 ◆


 街には、『光沢ピカピカー!』な、銀色の鎧を着た冒険者が、あっちこっちに居た。太陽を反射して眩しいもんだから、少しイラッとするのは、僕だけだろうか?


「はぁぁ………涼しいぃー。こんなに日がでてるのに」

「さすが、ポジロリさんは名工だなぁ」

 冒険者の男女が、そんな会話をしている。

 不細工な男と美人の二人組が『カップル』に見えて、何故か僕が落ち込む。


 彼らが装備した、無駄に眩しい鎧の肩口のパーツには、金ピカの鳥のような紋様が描かれていた。


 その鳥の紋様が、「このカッコいい鎧、ポジロリ家が作ったんだぜ! くるっくー! お前んとこのユイとかいう女じゃねーよ! くるっくー!」と、全力で罵倒してきているかのように、僕には見えた。


 僕の居た世界では、こういうマークって、「商標」って言うんだったよな……たしか。

 どこが作った商品なのかをはっきりさせるやつ。


 ご丁寧にも、その鳥形のマークの下には、シリアルナンバーっぽい数字まで入っていて、「限定○着限り!」みたいな貴重感を醸し出そうとしているのも、僕にはわかった。



「しかもこれ、足が疲れないよね」

「だねぇ。これなら、洞窟をいくらでも探索できそうだよ」

「次のクエストも頑張ろう? ね? たっくん?」

「おうとも」


 男冒険者の名前が、「たっくん」だというのは、僕にとって甚だどうでもいい情報だった。



 僕は、くやしかったんだ。



(それ! 疲れないように、セーンムルウの羽根を鎧の内側に仕込むってのも、ユイさんが考えたアイデアなんですよ! ポジロリ家じゃないんですよ!)


 そう叫びたいところだった。


 でも、先に「考えた」人じゃなくて、先に「出願した」人が勝ちというルールがあるなら、しょうがない……のだろうか……?


 ほんとうに?

 ユイさんが苦労しなきゃいけないの?

 納得がいかない。



 ◆



 金欠で、いつもより少なめに買った食材。

 僕は、用足しのついでに、あそこに寄ってみた。


 ユイさんの家の窓から見えた、白い壁の、大きな建物……。

 金ピカの鳥が、建物の上にドーンとある。


 商売敵の、ポジロリ家だ。


 ここんとこずっと、ユイさんのお店の、店番をしてたからわかるけど、客の入りが明らかに違う。


 うちは、お客さんがたまに、ふらっと立ち寄る……ぐらいで、異世界転移でこの世界に来たばかりの僕でも、なんとか対応出来る程度だ。


 なのにポジロリ家は、そんなに武器や防具を買いたいのだろうか……お店の壁際に沿って、鎧や羽衣を装備した冒険者の、「待機列」まで出来ていた。


 RPGゲームなんかだと、「勇者達のパーティが縦1列に並んで歩いている」って絵ヅラがあるけれど、それにしたって、4人ぐらいのもでのでしょ。ズラッと並ぶのは。


 この待機列……冒険者が、いったい何人居るんだよ……。


「限定版ゲーム発売日の朝の、電気屋前ですか?」と言いたくなる。

 コスプレしてゲームをフライングゲットしに来ている……みたいに見える。


 待機列の最後尾に並んだローブ姿の男性冒険者は、「ここが最後尾」とストレートな文言が書かれた、おそらくは『うろこ製の盾』を掲げている。


(……盾が、プラカード代わりに使われているのか……)

 面白い盾の使い方だなぁ……と観察していると、出し抜けに。


「いてっ」

 後ろから頭をこづかれた。そして。


「おい、ガキ。なにウチの店の前でキョロキョロしてんだ」

 そんな怒声。


 びっくりして、見ると、鍛冶屋の人……にしては凄く線の細い、猫背の男が、派手な意匠たっぷりの、貴族然とした服を着て立っていた。明らかに、細い体型に似合っていない、肩幅の大きな服。

 僕をにらみつけている。


「営業の邪魔だろうが」

 そう言って、突き飛ばされた。


「貧乏人が、うちの周りをうろちょろすんじゃない。金運が下がるでしょうに」

 ゴミでも見るような目で、僕を見てくる。


 僕はこの瞬間すでに。

 この猫背の男を、「敵」だと、頭の中でラベル付けした。



「おい、なんだ?」

「喧嘩か?」 

 店の前に並んだ冒険者が、雑談をやめ、こっちを冷ややかな目で見てくる。


 冒険者野次馬達の目。

 騒ぎを面白がりこそすれ、助けてくれる事はない、そんな冒険者傍観者達の目。


(異世界に来ても、こんな目にあうのか……)

 猫背の男は、待機列の冒険者、つまり「お客様」の目に気づいて、途端に笑顔を浮かべ、揉み手になった。


「あーすみませんお客様方。お見苦しい所をお見せ致しまして。へへへ。今、不逞の輩を追い払おうとしていたところです。皆様に気持ちよくお買い物をしていただけますよう、お目に不快な輩は、排除致しませんと」


 猫背の男は、待機列の冒険者達にはペコペコと頭を下げると、僕の方へと向き直り、「しっしっ」と、まるでハエでも追い払うかのように、手を何度か払った。


(……くそぉ……)


 お腹の中が、圧縮した黒い空気でいっぱいになるかのような感覚。

 それを体の外に出すまいと、僕は口をぎゅっと閉じ、その店から離れようとした。


「入店、お待たせして、大変申し訳ごさいません」

 猫背の男は、その背をいっそう丸めるようにして、待機列の冒険者達に、なにやら、アイテムを配り始めた。薬草か何かのように見えるけれど、よくは分からない。


(潰れちまえ! こんな店!)

 そう思いながら、僕は大型鍛冶屋チェーン『ポジロリ家』に背を向けた。早足。


 怒っていると、視野が狭くなるものらしい。普段だったらひっかかりもしない、地面の石に足をひっかけ、転びそうになった。


「あっ」

 体がふわっと浮き、斜めになる感覚。


 肩に、ガッ! という、力強い感覚。


「おっと、大丈夫か?」

 どこかで聞いた声。


 僕の体の、崩れたバランスが、肩にかかる力で戻り、おっとっと、と着地。


 見ると、

 太い腕と胸板。傷だらけの肌。


 僕はその人に、覚えがあった……。

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