エピローグ
「んっ…………」
俺は、重たい瞼を開けようと試みる。
天候が優れないのか、はたまた夜なのか、激しい光が襲ってくることはなく、何とか眼を開けることはできた。
眼を開けると、笑顔のリミアちゃんが安堵の様子で横に座っていた。どうやら看病をしてくれていたらしい。
「クロト様……目を覚まされたのですね。よかった、三日間も眠り続けていたので、このまま目を覚まされないかと……」
そうか、俺三日間も眠ってたのか。夢を見ることもなかったからよっぽど疲れてたんだな。
「すぐに主様を呼んで参ります。それと、お腹は空いていませんか? 何か消化に良いものをご用意してきますね」
そういうと、席を立ちこの家の主を呼びに行ってしまった。しばらくして、主ことナディスがリミアちゃんに連れられやってきた。
「よお、ようやくお目覚めか。どうだ、気分の方は?」
「悪くないな。こんなにぐっすり寝たのは中二の夏休み以来だな」
俺はベッドに寝たまま、答える。
「なあ、そういえばこの街、どうなったんだ? それに、俺は一体……」
二人の離しによると、俺は邪龍(じゃりゅう)を前に無双したのち、高熱で倒れ三日三晩寝込んでいたらしい。街は俺の術で氷漬けとなり氷龍(ひょうりゅう)という、名の通り氷の龍しか住めない環境となったそうだ。
それでも二人曰くあのままだったら街どころか避難した龍たちも焼き焦げていたかもしれなかったから命あるだけマシだとフォローしてくれる。
氷づいた邪龍や炎は三日経った今も溶ける様子はなく、無残にも戦いの爪痕を色濃く残すのだった。
街の龍たちは新天地求め移動を始めている。食材屋のニーユさんも昨日見舞いに来てくれたらしい。俺は眠り続けていたため挨拶はできなかったが、俺たちにお礼と別れを告げると、その足で新天地へ引っ越したそうだ。
俺たちを襲った狩龍人(かりゅうど)――ゴーシュ。奴の行方も分からず、そもそもどうして邪龍が現れたかも謎に包まれている。
とまあ、あらかたの後日談はこんな感じ。そして、俺はリミアちゃんの用意してくれた軽食を済ませ、三人で今後について話すことにした。
「とりえず、これからどうすんだ? 俺としては行く宛もない異世界人なんで、二人について行かせて頂けると嬉しいんだが」
「まあ、これも何かの縁だ。いいよ、一緒に来いよ」
「サンキュー! じゃあ改めて……ナディス、リミアちゃん、これからよろしく!」
「はい! こちらこそよろしくお願い致します、クロト様!」
「んで、これからだが、家がこんなんになっちまった以上、この街には留まるのは無理だな」
そういうとナディスは二階部分が倒壊して曇り空が顔を見せる天井を見上げる。
そういえばどうして氷漬けになったはずの家で普通にベッドに寝たり、イスに座ったりしてるの? 北極人ですか? と思っているかもしれないが、実は、俺の術はとっても都合がよく、氷づいたのは外装のみで中は意外と無事だったりしてるのだ。
ただこれも聞いた離しだが、中まで燃えてた家なんかは炎と一緒に凍っちまったらしいがな。
「すまない……俺のせいで」
「いや、お前一人の責任じゃない。たしかに99パーセントお前が悪いかもしれないが、元凶は街を荒らした邪龍だ。だから大丈夫だ」
いや、99パーセントも責任擦り付けられたら俺のせいって言ってるよね。俺間違ってないよね?
「その辺はクロトに今度どうにかしてもらうとして、ひとまずは【ミネラ・クーリシュ】を目指そうと思う」
「ミネラ……クーリシュ……?」
「この街よりさらに西にある、西の大陸最大の都です。通称、〝水の都〟です。でも主様、どうして?」
「最終目的地は、リミア……お前の故郷だ。」
――何っ……!?
「【セーリア】……ですか?」
「ああ、お前の主として今回の出来事、それと今後についてお前の両親に話さなきゃいけないからな」
「そんな、でも……」
「いいや! リミアちゃん! 確かにナディスの言うとおり今回ばかりは命の危険もあったし、報告に行くのは大切だと思いよ! お……俺も、リミアちゃんのお義父様とお義母様にご挨拶をしないといけないしな~! あはっ、あははははっ!」
「……そうですね。変態のクロト様はともかく、一度両親に顔を見せておいた方がよろしいかもしれませんね」
ぐはっ!
リミアちゃんの強烈な言葉のボディを溝に食らった気分だぜ…………。
「でも、だったらどうして直接リミアちゃんの故郷に行かねえんだ? お前なら変身すりゃ、俺とリミアちゃんの二人くらい乗せて飛べるだろうよ?」
俺が問いかけると、ナディスはばつが悪ように弱々しく答える。
「じ、……実はな……この間の戦いで受けた黒い矢のせいで……術が上手く展開出来なくなっちまって、原巨龍化(オリジナルド)できないんだ……わりいな」
「ええええええええ! ……ち、ちなみに、ミネラ・クーリシュまでどれくらいあるんだよ……」
「ミネラ・クーリシュまではここから歩いて十日ほどかと……。そこからセーリアまでとなりますとさらに七日ほど……」
まじかよ、……異世界大冒険物語の始まりかよ……。
「文句を言ってても始まらないし、とりあえず目的地はそれでいいよな、二人とも」
「はい。私は問題ありません」
「まあ、俺も居候の身だしな。それに、俺も男だ。実は大冒険にワクワクしてたり。よっしゃあ、いこうぜ、ナディス!」
「まあ焦るな。準備もあるし、なによりお前は病み上がりだ。出発は明日にしよう」
こうして、俺以外の二人は、半壊した家から無事な荷物や食料を厳選したりと荷造りに勤しみ、俺は何もすることなく眠るまで、周りが暗いため綺麗にはっきりと輝く星空を永遠と眺めていた。
――次の日。
まだ日が昇り切っていない早朝。自分のせいとはいえ、氷景色の街も合わさってかなり寒い。
俺たち三人はそんな中だが、二階が崩れ落ち一階の右半分も崩れてる元ナディスの家の玄関の前に立っていた。
短い間とはいえ、お世話になった家に別れの挨拶を済ませていた。
「…………よし、行くか」
と、家の主であったナディスが言う。
「もういいのかよ?」
「ああ。家はダメになっちまったが、俺たちが生きてりゃまたどこかに建てれるさ。俺たちの家を」
「良いこと言うじゃねえか。そうだな新しい家か……楽しみだな!」
「ああ。そん時はお客として招いてやるよ」
「んなっ……!? 何で俺客なんだよ! ここまで良い感じの関係築いたのによ!」
「それは幻想だ。どれミネラ・クーリシュに着いたら療院所を紹介しよう。」
「余計なお世話じゃい!」
「ふふふっ……さあ、主様、クロト様、参りましょう」
朝も早いのに元気なリミアちゃんが歩き出す。
「そうだな、行くぞ居候。ぼーっとつっ立てると置いてくぜ」
続いてナディスが大きな荷物を肩に担いで歩き出す。
はあっ……。なんで最後まで俺は、いじられてんだよ。あんなに頑張ったのに……(頑張りすぎて街丸ごと凍らせちゃったけど)。
ぐちぐち言っててもしょうがない。切り替えていこう。
俺はナディスの家に背を向け、先を歩く二人を追いかけるように歩き出す。
そして、左手を眼の前に構え、右手を横に思い切り突き出しながら叫ぶ――。
「いざ! 我が伝承に刻まれし、大冒険の始まりだ!!」
―続―
龍と邪眼とツッコミと!? 1 ~やってきた異世界がボケの宝庫とは……~ ブリしゃぶ @buri_syabu
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