五章 これはデートじゃなくてお買い物
……神様、……わかっております。……僕はもう逆らわず受け入れるので、……サブタイトルを、……もっと大切に使ってください…………。
「……ト様。クロト様」
はっ!
「クロト様どうされましたか? まるでお風呂場を覗いたら、お父上の入浴を見てしまった思春期の少年のようなお顔をされていましたが」
「……待って、リミアちゃん。例えの描写が物凄くリアルすぎるよ。あと、なんとなくその描写は、俺の黒歴史を掘り返してくるんだが……」
「そ、そうでしたか。申し訳ありません」
「いや、リミアちゃんは悪くないんだ。悪いのは全部あいつらだから……」
「あいつら、というのは以前いた世界のクロト様のご友人方のことでしょうか?」
「そう、俺の中学時代の悪友だよ。学校の廊下で火炎放射リレーとかやったりしてさ~。あれは本当に死にかけた……」
「中学? 火炎放射リレイ?」
「あれ、この世界には学校はないの? あと、火炎放射リレーは忘れて」
「いえ、学校はあります。しかし十二歳までが基本的で、それ以降は学術院という試験に合格した限られた方しか通いません。なのでクロト様の言う中学校というのは一体?」
「まず、この世界で言う学校のことを俺の世界では小学校といって、その後、中学校、高校、大学と進んでいくんだ。リミアちゃんの歳だと、中学校に通うことになるね。しかも中学までは試験無しで通えるんだよ」
「そうなのですね。こちらの世界とは随分と仕組みが違うのですね」
「そうだよ、よかったら俺の世界の話しをもっと――」
「クロト様、こちらで食べ物を購入しましょう」
そうだよね、俺のクソな十六年の話しなんて聞きたくないよね。
「今日のお夕食はどうしましょう。クロト様、何か召し上がりたいものはございますか?」
といわれても、こっちの主食がよくわかんないからなあ……。
『おや、リミアちゃん、今日もお買い物かい』
「あ、こんにちは。ニーユさん。何かオススメの食材はありますか?」
と店主? の丸みを帯び、二足で立つ龍(メス)と会話するリミアちゃん。常連なのだろうな。
「そうだね~。ところでリミアちゃんそちらの男性は、もしかして彼氏かい?」
「ち、違いますよ~」
ぐはっ!
「この人は変た……クロト様と言って主様が出会った異来人(いらいじん)の方です」
リミアちゃん、変態って言わないよう必死だな。
「そうかい、異来人かい。あたしはニーユ。よろしくね、変た……クロトちゃん」
おばさん……勝手におばさんって言ってごめん。俺、変態じゃないです。
「そうだね~、〝リュウメン〟なんてどうだい?」
「わあ、いいですね。見せてもらっていいですか?」
「はいよ、ちょっと待っててね」
リュウメン……? 麺類の一種なのだろうか……?
「はいよ、リュウメンお待ち」
――ドンッ!(龍の生首)
ぎやあああああああああああああ!
「ちょちょちょ! リュウメンって、麺のことじゃないの!?」
「ん? 何言ってるんだい、面じゃないか」
メンって面のことかよ……。
「今日の龍面(りゅうめん)も活きがいいですね。これは、水(すい)龍(りゅう)ですね」
「そうさ、水魚(すいぎょ)龍(りゅう)の網にかかったらしいよ。血抜きもほとんど出来てるから直ぐに食べられるよ」
「いや待って、生首だよ!? 食べちゃえるの、これ!? てか、龍が龍を食べるとか、共食いやんけ!?」
「何言ってんだい。美味しいんだよ、龍面は。それに、あたし達の主食は、龍なんだよ」
大丈夫かよこの世界……。
「龍面、お気に召しませんですか?」
「あ、いや、初めて見たからビックリしちゃって」
「そうでしたか。でも確かに、私も龍面を初めて見た時はビックリしてしまいました」
そうだよね、普通生首なんて見たらビックリするよね。ましてや女の子だし。
「あれは私が五歳の時でした。父が山で野生の龍を捕まえてきまして――」
うんうん。
「――首を真っ二つにさせてもらいました!」
ぎやあああああああああああああ!
「あの太くて硬いのに刃を入れた時の感触が今も忘れられなくて――」
「はいリミアちゃんストオオオオオオオオップ!」
「はい……?」
「リミアちゃん、その表現アウトだから! 完全に世の男性ビックリしてるから!」
「は、はぁ……」
「と、とにかく。ニールさん、代わりのオススメはないかな?」
「あとは、その龍と一緒に水揚げされた水魚龍かね? これさ」
ふむふむ、魚と名前にあるだけあって見た目は魚のそれと変わらないな。
「リミアちゃん、俺水魚龍の料理が食べたいな。活きがいいのをニールさんと選んでてよ」
「わかりました」
さて、メインの料理も決まったし、少しこの世界の食材を見てまわろう。
ニールさんの店は様々な種類の食材が売っている。
肉(龍)や魚(龍)、それから鱗……? 龍派生の食材がメインだが、植物も売っている。
無臭だが、どことなくドリアンのようなものや、少々干からびているように見えるが、色合い的にニンジンのようなものなのだろう。
と、名前も分からずに物色していると、ん? これは――。
「じゃあ、こんなもんでいいかい。一匹はサービスだよ」
「わあっ! ありがとうございます」
お、そろそろお会計かな?
「おーい、リミアちゃん。これも買ってもらってもいいかな?」
「あ、はい。……!? ク、クロト様……そ……それは……!?」
「あ、あんた、なんてもん持ってるんだい!?」
え……?
「何って、ナスじゃないの……? これ……?」
そう、俺はどっからどう見ても(外見だけは)ナスだろうと思い、持って来たのだが――。
「(かああっ)……クロト様……それを……〝ダークマター〟をこちらに見せびらかせないでください。は……恥ずかしいです……」
「恥ずかしいって……? どういことだよ。だって、ナスでしょ、これ?」
「あんた、それはダークマターって言って、人間の男の局部に酷似してると言い伝えられている果肉種なんだよ」
「男性の局部って……まさか……」
ムッ、ムスコのことかよおおおおおおおおおおお!
「雌龍ですら買うのを躊躇う物を堂々と、それもリミアちゃんみたいな可愛い女の子に買ってだなんて……あんたほんとに変態なんだね!」
「いやおかしいやろ! だったらそんなもん普通に売るなや! 18禁コーナーで売れや!」
結局、俺は変態と誤解をされたくなかったので、ナスことダークマターを諦める。
そして水魚龍のみを購入。最後まで変態の誤解が解けはしなかったものの、気前の良いニーユさんは再びアレを勧めてきた。
――ドンッ! (水龍の生首)
ぎやあああああああああああああ!
その後も、街を案内してくれるということで、リミアちゃんと引き続き歩き回る。
歩いていてわかったのだが、リミアちゃんは、顔が広い。
行く先々でお店の龍や通りすがる龍から声を掛けられる。ってか、ホントに人いねえんだな。
『もし、そこの若夫婦さん方。』
と、今日初めてリミアちゃんが名前で呼び止められなかった。ということはこいつ……。
「違いますよ、お爺さん。この変態さんは旦那様ではございません」
ぐはっ!
つ、遂に変態から訂正されなくなったか……。
『おやおや、これは失敬』
フードを被っている為、龍なのか人なのか判断できない(まあ、おそらく年老いた龍なのだろう)謎の爺さんは、いきなりポケットから黒い宝石を取り出す。
黒く禍々しいうねりを上げるように光る石。如何にも怪しいですよ、が伝わってくる。
『この石を銅一枚と交換してはくれないかい?』
「銅一枚……ですか?」
「ん? 銅一枚っていうと?」
「この世界の最低単価です。しかし宜しいのですかお爺さん?」
「そうだぜ。俺が払うわけじゃないから何とも言えぬが。てか、その石何に使うんだ?」
『ええ、構いません。これは……私より……貴方の方が相応しいでしょう』
爺さんは俺を見ながらそう言った。
「お、俺かよ。どうするリミアちゃん。俺は金が無いから、リミアちゃんに任せるよ」
「そうですね、お爺さんもクロ……変態様にお似合いと仰られていますし、交換させて頂きましょうか」
もはやクロトの方を訂正されてしまった……。
『商談成立ですな。では石を。懐、心の臓の近くにおしまい下され』
そう言って爺さんは袋にその怪しげな石を入れて俺に渡してきた。
「ではお爺さん、お金を……」
リミアちゃんが財布からお金を出すため、俺は宝石の袋を眺め、一瞬眼を離すと――。
――そこには、爺さんの姿は無かった。
「は……ッ!?」
「あれ? 変態様、お爺さんは……?」
「いや、眼を離した隙にいなくなりやがった」
何だってんだよ。ここは細い横道も無い一本道で音も無くいなくなるなんて……。
あの爺さん一体……。
「変態様……どうしましょう……」
「どうしたのリミアちゃん?」
もー普通に変態で受け答えしちゃってるよ俺……。
「お金を渡しそびれてしまいました」
「な、なんだぁ……俺はてっきり何か盗まれたのかと思っちゃったよ」
ホント良い娘だなぁ、リミアちゃん。
だからこそ本気で変態の汚名を挽回しなきゃ! ※挽回→返上
あうぅ、と弱々しい声を出すリミアちゃん。可愛い……。
「またきっと会えるさ。だからその時、きちんとお金払お。てか、俺が石を貰ったんだから俺が払うよ」
「そう、ですね。またお会い出来ますよね。はい。あ、でも、プレゼントはプレゼントなので、受け取って下さいね」
――ズキューン!
な、何なのだ……この娘。……将来が恐ろしく見えてきた。……この先一体、どれだけの男(とオス)の屍(しかばね)が積み上がるというのだ……。
「変態様!? どうして胸を押さえて、告白されてきゅんきゅんしてる女性のような仕草をされているのですか?」
「だ、大丈夫……てか、こうするとみんなそうやって言うのかな……?」
「……?」
こっちも素なのかよ……。
「そ、それよりそろそろ帰ってご飯にしよ。お腹ペコペコペコちゃんだよ」
「ふふっ……ペコペコペコちゃんって誰ですか。そうですね、戻ってお夕食の支度をしましょう。主様も間もなく戻られるはずですし」
いや~、ようやくまともな食事にあり付けそうだな。
思い返せば、昨日まではナディスが持ってたあんまり美味しくない携帯食料ばっかだったからな~。そのくせあいつは普通に共食いしてたけど。
……ん? なんか騒がしいな。何だろ――?
――正門前。
……ざっ……ざっ…………。
『……………………』
足取りの覚束ない一頭の龍は、何の迷いもなくアグルガントの正門へと進む……。
「ん? おいそこのお前、止まれ!」
「通行手形か住民証明を見せろ!」
正門前に立つ軽装の鎧を着た門番二頭の警告。しかし――。
『ヴヴヴッ…………』
龍は止まらない……いや、声が届いていないようだ。
再び門番が警告する。武器を握る手に力を込めて。
「お、おい、止まれ! 止まらないなら――」
『ヴヴォォォオオオオオ!』
「「あああああああっ!」」
――なんか騒がしいな。何だろ……?
『…………ぁぁぁ!』
「!? リミアちゃん、何か悲鳴みたいなの――」
どおおおおおおおおおおん!
「きゃああああああ」
「な、何だ!?」
『うわあああああ!』
『じゃ……邪龍だああ!』
どかああああん!
最初の爆発を皮切りに、次々と爆音と悲鳴が街を席巻していく――。
『――…………くくくっ』
『さて、種子が芽を出すか……それとも……』
カーーーン! カーーーン!
町の中心にそびえ立つ鐘塔から二度、鐘の音が鳴り、この街に初めての警告が轟く……。
『緊急! 緊急! 住民は速やかに地下洞へ避難せよ――』
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