四章 メイドにクロトを会わせたくなかった

 ……神様……何か俺、神様に喧嘩売るようなこといたしましたでしょうか…………?

 もしかしてですけど……神様、メイドちゃんに会えないから、やつあt……ぎゃあああああああ! また、また目の前が真っ赤になってくうううう!

 神様ごめんなさいいい! 神様ホント素敵です! こんなクソったれな雑魚キャラに、メイドという女神へのお近づきを許してくれるんですから! ホント心の広すぎるお方だ!


 …………などと、俺が神様とイチャコラしているうちに、低い山脈を抜け、視界には都市と呼ぶには大きすぎるだろうが、立派な町、いや街が見えてきた。


「あれが俺の住んでる街、【アグルガント】だ」

 と、俺を背中に乗せて空を飛ぶ緑の龍、ナディスは話す。

「いい街だな。てか、龍の街だからもっとこう、穴蔵とか、洞窟とかかと思ってたよ」

「お前の世界の龍の概念はどうなってるんだ。それより、街の前で降りるぞ。この姿じゃ街に入れないからな」

 というと、俺が返事をするまでもなく、ジェットコースターのような急降下をして、街の近く降りていく。ジェットコースターと違うのは、安全バーがなく、常に死と隣り合わせなことかな。おかげでちょっと湿ってるし…………言えない所が…………。


 きいいいいいいいいん!


 巨大化した時と同じように光の粒子に包まれたナディスは、初めて出会った時と同じ、鎧をつけた姿に戻った。

 実際、どっちが本当の姿なのだろう……?

「何俺のこと見つめてるんだ、気持ち悪い。いくぞ~」

 ちょっ……誰が貴様なぞ見つめるかあああああああ!

「いいからナディス、俺を早くメイドちゃんに会わせてくれ!」

「そう言うなら、口より足を動かせ」

 俺たちは言い合いをしながらも、街の門を潜り、ナディスの家を目指す。


「ここが俺の家だ」

 ようやく着いたか、とナディスの指差す建物を見る。

 木を組み合わせて出来た木製の二階建ての家。近隣は一階建ての家が多いので、ナディスが金に困ってないというのは間違いなのだろう。

 てか、木製の家って何時代だっつうの。

 とはいえ、概観だけでしか見てないが、建物は凄く綺麗だ。きちんと手入れがされているからか、あるいはこのような建築に適した素材なのか、木の腐食等は一切見当たらない。 


 そんな感じで、俺が建物の品定めをしていると、ナディスは、俺に構うことなく、我が家へホームインしていく。こいつ、俺をもてなす気あるのか?

「ただいま帰ったぞ~。リミア、いるか~」

 家に入ると、玄関にあたる所で、ナディスが誰かを呼ぶ……すると――。


「はぁ~い。ただいま参ります」


 ドキッ!


 ――な、何なのだ今の可愛らしい声は!? ……これは、期待出来るぞ……!


 とたとたと駆け足で二階から誰かが降りてくる。

 そしてついに俺は、女神とご対面した。


「おかえりなさいませ、主様。……そちらの男性は?」

 と、主、ナディスと話す少女は、まごうことなく、正真正銘の――。


「メイドきたああああああああああああああ!」


 俺は、自然の理かの様にその場に膝をつき、両手を天高く上げ、ガッツポーズをし、号泣していた。

 

 後で聞いた話しだが、この一連の動作とナディスの俺の紹介のせいで、俺は本当にメイドちゃんから変態だと思われていたらしい。


「……………………」

「……………………」


 な、何とも言えないこのやらかした感……転校初日の自己紹介ミスったやつって、こんな気持ちなのかな……。


「リ、リミア……こいつはオタク。さっき森で出会った異来人(いらいじん)だ」

「そ、そうでしたか。始めましてオタクさん。私は……」

「待ってメイドちゃん! 君なら話しが通じそうだから、先に訂正させてくれ! 俺はクロト! 立花クロトっていうんだ! それと、ナディスが言ったようにこの世界とは違う日本という国から来た! ちなみに、俺の世界にもメイドがいて、お客様のことは、『ご主人様』と呼ぶのが常識なんだ(もちろん嘘)! だから、俺のことはクロトかご主人様と呼んで欲しい!」

 俺の熱弁に、少々引き気味だったメイドちゃんは平常心を取り戻し、

「では……」


 ごくりっ……。


「クロト様(にこっ)」


 はい、俺の夢、アウトおおおおおおお!


「クロト様、どうして笑顔で号泣なされているのですか?」

「気にするなリミア、こいつは変人なんだ」

 おいこらクソドラ。メイドちゃんがいなくなった後、粛清してやる……。

「は、はぁ……」

「そ、それよりメイドちゃん。君の名前は?」

「あ、申し訳ございません。……改めまして、私はリミア・ドラ・ホーリヤードと申します。主ナディス様に仕えます、ホーリヤード家の次女にございます」

 と、メイドちゃんこと、リミアちゃんは、メイド服の代名詞とも言える、黒のワンピースと、白のエプロンを少し摘み上げ、綺麗なお辞儀をでご挨拶してくれた。

「そ、そうか……リ……リミア……ちゃん……って言う……んだ……」

 落ち着け立花クロト、緊張しすぎて童貞オーラが滲み出ているぞ。

「んんっ。リミアちゃんは今、歳はいくつなのかな?」

「現在、十四歳にございます」

 あとでロリコンドラゴンにエルボー決めたる……。

 しかし、リミアちゃんホント可愛いんだよなぁ。ついつい見惚れちまう。

 だってよぉ――。

 磨き上げられた気品高きローヒール。膝下まで伸びる黒のワンピースとフリフリのついた少しピンクっぽくも見える白のエプロン。その下からは、ふくらはぎから踝までの華奢な足が現われている。身長は、150センチ前後といったところか。また、体の凹凸に関して言えば、今はまだ控えめで、歳相応といえばそうだろう、がしかし将来は十二分に期待できるだろう! 綺麗な顔立ちに血行の良い肌と唇。クリっとした眼は吸い込まれそうなくらいに透き通るような瞳をしている。触り心地が良さそうな光沢が見える少し明るめの茶色い髪は、耳より少し高い位置でツインテールにされ、鳩尾辺りまで伸ばされている。そして、頭にはメイドといえばもちろんのカチューシャ、と――。


 ――ケモ耳ぃ!?


 えええええええ! ハイスペックメイドちゃんはケモ耳までついてるのおおお!

 こんなん、萌えのビックボーナスやんけ!


「おい、変態。いつまでリミアを舐め回すような厭らしい眼で見てんだ。見ろ、リミア思いっきり引いてるぞ」

 というロリコン変態ドラゴンの声に我に戻ると、リミアちゃんは綺麗に俺から距離を取っていた。

 だが、俺は引く訳にはいかない。ある、事実を確かめるために……。

「……リミアちゃん、その耳……」

「えっ……もしかして……」


 ごくりっ……。


「……ずれてますか、耳?」

「ずれてないよおおおおお! リミアちゃんお願いだからそんなヅラみたいな反応しないで!……ってもしかして……!?」

「あっ、はい、これは耳付きカチューシャなんですよ」

 というと、リミアちゃんは俺の前でカチューシャを外す。

 かぽっ、という可愛らしい音と共にケモ耳もリミアちゃんの頭からパージされる。


 ノオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 ま、まあそうだよね。だってリミアちゃん、人間だものね。人間の頭にケモ耳ついてたら、それこそ異世界発見お宝映像だものね。

 と、自分で自分をなだめていると。

「とにかく、この変態しばらく養うことにしたから、面倒見てやってくれ」

「かしこまりました、主様」

「そうだな、とりあえず買い物がてら街を案内してやってくれ。俺はギルドに行って今日の報酬をもらってくる。そんなに遅くはならないが、家の事は任せるよリミア」

「はい。では、外出の支度をしてまいります。変た……クロト様、しばしお待ちください」

 そういって、リミアちゃんは階段を上り二階に行く。その瞬間――。


「どっりゃっせえええええええええええい!」


 ――ドガッ!


「ってえなあ、なんでドロップキックなんかしてきやがる」

「……あんな可愛いメイドがいて……しかも……しかも、てめぇのせいで俺は……へ、変態として認識されちまったじゃねぇかあああ! ……よって、貴様はこの俺が粛清し、リミアちゃんの新しいご主人様になってやる……ガルルルルッ」

「ご主人様ってのは客のことなんだろ? だったら立場変わってねぇぞ、ってかお前から出てる黒いオーラは何だ一体」

「……ガルルルルッ……変態……ドラゴン……粛清……」

「だめだ、正気を失ってやがる」

「……くたばれぇ! ロリドラあああああ!」

「どうされたのですか、お二方?」


 ガシッ!


「なんでもないよリミアちゃん! 主様に感謝と敬意を表していたんだ」

「んなやつがどうして肩を組んでくんだよ。うっとおしいな!」

「主様、そのような言葉遣いはよくないでっせぇ。それに、俺の世界では肩を組まれた方は地位の高さを表しているんですよぉ。ささ、主様、こちらに」

 と、俺は場の状況についていけず、首を傾げるリミアちゃんを置いて、ナディスと供に外へ出る。

「おい、変態。ってか黒いオーラが消えてる」

「おい、変態ロリコンドラゴン 」

「変態はお前だ。それに何度も言うが、俺はドラゴンじゃ――」

「取引だ。俺はリミアちゃんのいる前では決して貴様を襲わない、代わりにナディス、俺の条件を飲め」

「出来ればリミア関係なく大人しくしてて欲しいんだが。んで、条件とは?」

「何、些細なことさ。ちょいとリミアちゃんのピンショットと、リミアちゃんア~ンド俺のツーショットをこれでパシャリしてくれるだけでいいんだ。どうだい、安いもんだろ?」

 そうして俺は、異世界転生にもついてきたマイスマホをチラつかせる。

「ピンショット……? ツーショット……? 何だかよく分からんが、いいだろ。それでお前が大人しくなるのなら」

「(ニヤリッ)……交渉成立だ」

 

「お待たせーリミアちゃん! さあ俺と一緒にデート……あ、いや、お買い物に行こうー!」

「はい。では、主様、いってまいります」

「おう、気をつけてな。……特に隣の変態に……」


 ――ピキッ!


 ……我慢……我慢だ……俺氏……。


「だ、大丈夫ですよ。……きっと……。それより、主様もお気をつけて」

「おう、じゃあな二人とも。また後で」


 と、俺とリミアちゃんはナディスと別れ、街へ繰り出す。


 ちなみに、まだ先の話しになるが、ナディスは約束を守り俺のスマホで写真を撮ってくれたのだが、力加減バカ野郎ヨロシクな具合で画面をタップした瞬間、俺のスマホは粉々に砕け散ったのだった……。

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