三章 そろそろジャングルから出してあげよう

 ……神様、……サブタイトル……それでいいのかよ…………。

 と、俺は答えてもくれない神様に対しツッコミを入れるも虚しく、ただの独り言に終わった。

 

 そんな俺立花クロトと鎧を纏った緑色の龍、ナディスはジャングルを歩く。

「そういやナディス、さっきの話の続きなんだけど、〝こっちのと〟っていうことは、この世界にも人間がいるっていうことか?」

「ああ、いるぜ。ただ俺が知ってる人間は最初からこっちの世界で生まれた人間だから、お前のような異来人(いらいじん)、異世界から来た人間は珍しいんだ」

 なるほど、異世界から来た人のことを異来人と言うのか。

「てか、ナディスはなんでこのジャングルの、あんなところにいたんだ?」

「おいおい、異来人で右も左も分からないとはいえ、質問攻めですか? オタクよ~。お前どう見ても攻めっていうより受けのタイプだろ? それに、俺は命の恩人なんだからもう少しだな~――」

「あいや、またれえええええいいいいいいい!」

「!?」

「お前には二つ訂正と一つ質問があ~~る!」

「なんだよオタク、急に」

「はい、まずそこ! 君は何事もないように口にしているが、僕の名前はクロト! 立花クロト! ク・ロ・ト、クロト~。オーケー? 決してオタクなどという女子にモテない童貞臭漂う低層キャラの名前ではないのだ!」

 やべー自分で言ってて自分のやってることが低層キャラそのものだから泣けてくる。まあでも、この異世界にいる限りは問題ないだろ。やーい! ざまーみろオタク供!

 そして、……か~み~さ~ま~……なんで俺の名前デフォルトでカタカナになってるん!? 見落としかけたけど、フルネームも名前だけカタカナになってるし!! もおいっそのこと一章の自己紹介から変えてくれ……あれ、急に胸が苦しく……ってか目の前が赤くなってきてるんですけど!? なんかFPS(First Person Shooter)の死にかけの画面見たいなんですけど……神様、もしかして、怒ってる……? ごめんなさい! 神様許して下さい! オタクの分際で逆らってすみません!

「……なんで告白されてきゅんきゅんしてるメスのように心臓押さえてるんだ、オタク?」

「あ、いや、ちょっとした体ば、……教育をだな……」

 あ、目の前が鮮やかになってきた。神様ありがとうございます!

「てかナディス!! なんだそのギャルゲー的発言は!? お前ドラゴンだよな? ここ異世界だよな? なんでそんなマニアックな例えが言えるんだよ!」

「ギャルゲー……? なんだか知らんが告白されたメスがやる仕草ランキングベスト3に入ってるぞ。あと、お前最初から勘違いしてるけど、俺達はドラゴンじゃなくて、龍だから」

「そ、そうか。ツッコミたいところはあるが、とりあえず認識を改めよう。すまん」

「まあ、その辺はジョジョに慣れてくれ。んで、他の二つは?」

「ん? あー、もう一つの訂正はいいや。ツッコミ過ぎて疲れたし。質問を二つにさせてもらうよ。一つ目は、命の恩人とは? 二つ目、貴様はツッコんで欲しくてわざとカタカナにしたのか?」

「んん?二つ目のはよくわからんが、」


 ――まさかの素だと……!?


「一つ目のは言葉の通りだ。お前、土(ど)龍(りゅう)に食べられてたろ? それを俺が助けてやったんだよ。これでいいか?」

「そうだったのか……あのドラ……龍は土龍っていうのか。でも、ならなんで俺はすぐ龍の口から出られなかったんだ?」

「ああ、なんかお前が土龍に追いかけられて、んで何だっけ? 『鬼ごっこは終わりだぜ!』っていってパクッと食べられたのが面白くてさ、倒したはいいが、あえて自力で出れるくらいまで手を抜いてみた。それが何か?」


 このいじめっ子めっ!


「ただお前、俺にまで聞こえるくらい泣き叫んでて、なんか弱い者いじめしてる気がしたから、結局切っちまったけどな」

 じゃあ、俺が出られたのって、俺のミラクルマシンガンパンチのおかげでも、俺に秘められし邪悪の力のおかげでもなく、こいつのおかげだったのかよ……。

「てか、一部始終見てたなら食べられる前に助けろよ! もお恥ずかしくてお嫁にいけない!」

「まあ助かったんだからいいじゃねえか。お、そろそろ森を抜けるぞ」

 ナディスの言う通り、ジャングルが終わり、辺り一面山脈のような岩景色に変わる。

「ようやくジャングルともおさらばか。んでも、ここから先、どこに行くんだ?」

「俺は自分の家に帰るけど」

「いや、そこは、『とりあえず俺の家に来いよ』とか言ってくれないわけ?」

「お前、自分の立場わかってるのか?」


 うぐっ……それを言われると反論出来ない……。


「まあいいや。いいよ、オタク。とりあえずうちに来いよ。異来人なんて珍しいし、俺も話し聞かせろよ。お前の世界のこと」

「ホントか! サンキューナディス! ああ、全然いいぜ! 何でも聞いてくれ!」

「おう。それに、うちには人間の使用人もいるんだ。仲良くしてやってくれよな」

「使用人? 何、ナディスって貴族か何か? 偉いの?」

「何言ってんだ? 俺はただの狩龍人(かりゅうど)だよ。別に偉くも何ともねえよ」

 狩龍人……? ああ、モン〇ターハンター的なやつか。じゃあ偉くないのに使用人がいるなんて、なら……。

「もしかして金持ちなのか!?」

「うーん……他のやつがどれだけもらってるか知らねえけど、別に金に困ったことはねえな。なんせ、狩龍人は命がけの仕事だしな。報酬もそれ相応だよ」

 なるほど……だから使用人を雇えるのか。狩龍人……いいなぁ……。

「それと……うちの使用人、メスだから」

 ふーん、そうかそうか、メス、か。


 ん……? ……メス……?


「なあ、メスって女って意味だよな?」

「ああ、わり。人間はオスメスじゃなくて、男と女って言うんだったな」


 …………女……女×使用人=…………!?


「てええええええいいいいいいいいい!!」


 ――ドカッ!


「イッテ! オタクてめぇ命の恩人に向かって何跳び蹴り決めてるんだ!」

「黙れぇ! この変態ドラゴン! そのような偉大な女性のことを俺達の世界では敬意を込めて〝メイド〟と呼ぶんじゃああああ! 早く! さあ早く! 俺をそのメイドに会わせてくれ!」

 いやぁ、この世界に来て散々なことばっかだったけど、ようやく俺にもオアシスが現れるのか! 早く「ご奉仕して欲しいっ!」会いてーなー。

「いや……オタク、あいつは俺の使用人だから。お前の欲望は叶わねえよ」

「い、いや俺、欲望だなんて言って……!?」

 おいいいいいいいいいいい! 神様さっきまで大人しかったのに、ここに来て何爆弾投下してくれてるのおおお!

 これじゃあ「俺」が「どうしようもないくらい」変態で、あいつの「メイドちゃんに」対して「下心」丸「出し」で乗り込もうとし「てる」っておいこらあああああああああ! 何絶妙なタイミングで俺の言葉に「 」←つけてくれてんだよ! これじゃあ……。


「俺どうしようもないくらいメイドちゃんに下心出してる」


 これはさすがにアウトでしょ! お願い神様……クロトのライフと信用は、もお0よ…………。


「ま……まあ……お前のことは……客人として……モテナスヨ……ウン……」

「ねぇ……なんで後半片言なの……? なんでそんな蔑む目で俺を見るの……?」

「キニスルナ……オスノ龍ニニゴンハネェ……」

 あ、龍だけ漢字のままだ。そこだけは譲れないんだな。

「とにかく、さっさと町に戻ろう」

「そうだな、この章もそろそろ終わらせないとな」

「……?? まあいいや。ちょっと離れてろ」

 俺はナディスに言われた通り、距離をとる。すると――。

 ナディスの周りに光の粒子が集まり、やつを包み、そして――。


 きいいいいいいいいん!


 あまりの眩しさに閉じた眼を開くと……さっきまで二足歩行で服、というか鎧を着ていたはずのナディスは、四肢で体を支え、背中には見事な翼が現れ、雄大に広げられていた……。

「…………すげぇ……変身かよ……」

 さっきの二足歩行から十倍近くデカくなった緑龍は、再び二足になる。そして、自由になった前足で器用に俺を抱え、首と体の付け根あたりに座らせる。

「んじゃあ、行きますか。しっかり掴まってろよ」

 そう言い終わるやいなや、翼をはためかせ、緑龍は空を駆ける。

 待ってろよ俺の「メイドちゃん……(萌え)」新天t…………。

「……………………」

 

 こうして俺達はようやくジャングルを抜け、いざナディスの住む町へと向かうのであった。


 ――もちろん、腹ごしらえのために寄り道もしてね。

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