二章 異世界最初の出会い(二回目)

 ……というわけで、俺は目の前の巨大な茶色い龍を前に何も出来ずにいる。

 くそっ! どうすりゃいいんだよ。さっきまでの記憶返してくれよ、神様!

 そんな神頼みも届かず、龍は俺目掛けて突進してくる。


 どどどどどどどどどどどどど!

 

「ちょちょちょっ! 誰か助けてえええええ!」

 俺はどうしていいかわからず、全力疾走で龍から逃げる。

 そんな俺を面白がってか、龍は俺に追いつきそうで追いつかない、なんとも絶妙な速さで追いかけてくる。


 ……ん? ……待てよ。なら俺が止まれば、アイツも止まるんじゃね? だってあの巨大な龍だぜ、歩幅を考えれば俺に追いつくなんて簡単なはずだ……。

 

 ――よし、一か八か、賭けてみますか!

 

 ざざざあああああ!

 

 俺は急ブレーキをかけて走るのを止めた。

「さあ、ドラゴンちゃん。鬼ごっこは終わりだぜ!」

 と意気込みながら振り返ると――。


 がぱあああああああ!


 龍はおっきなお口を開けて今にも俺を飲み込もうとしていた。


 ――はい、俺氏、アウトおおおおおおおおおおおおお!


 ――終わったな。

 ここで俺の人生はゴールインかよ。まだやりたいこといっぱいあったのになぁ。

 あの娘(二次元)や、あの娘(二次元)、それにあの娘(二次元)達に、まだ俺の気持ち、伝えてないのに……。

 それに、お年玉はたいて予約したブルーレイ、結局買えず仕舞いか。

 あっけなかったなー俺の人生。まあ、これが運命なんだろうな。なら受け入れるさ。俺だって男だ。腹をくくるよ。じゃあな、転生して、また逢おう……。

 

 …………なぁんてフラグ立てりゃ誰か助けてくれるべ!

 それが、お決まりってやつだろ!

 さあ、勇者様! ヒーロー様! セーラー○ーン様! 俺を、村人Aを救ってくださいましー!


 ぱくっ!


 ……あれ? 目の前が真っ暗なんだけど。さっきのフラグちゃんは?

 ……もしかして、俺……。

「食べられとるやんけええええええええええ!」


どうしよう……俺、龍に食べられてんだけど。やべえだろ、これあれだろ、徐々に唾液とかで溶けてくやつだろ! んなことになったら、それこそ放送禁止になっちまうよ。それだけは避けなければ!

 だって、俺には、野望があるんだから……。

 この世界での出来事をラノベにして出版社に持っていって、んでアニメ化して、原作者として声優のアフレコ現場に行って、可愛い声優さんと連絡先を交換して、そんでそんで…………ムフフフッ……。

 ……って、なるはずだったのにいいいいいいい!

「いやだよ! いやだよ! いやだよおおおお! 吐き出してくださいコノヤロおおおお!」

 やべえ、自分で言ってて情けなくなっ……てか涙とまんねー!

「うぉおおおおおお――!」

 そうして俺がポカポカと陽気なBGMのような音の出る、連続パンチを繰り出していると――。


 ――ドサッ!

 

 という音と供に景色が明るくなる。

 かなりの体重をかけながらパンチをしていたので、俺は光の中に飛び込むような態勢になり、最終的には、地面に倒れこんだ。

 ……はぁ……これがシャバの空気ってやつか……確かに数分前とは違う気がする。

 にしても、俺の連続パンチも、遂に龍に穴を開けられるまでになったか。いや、もしや俺に秘められし邪悪な力が目覚めたのでは……。


 ――つんつん。

 

 んんっ? 誰だよ、俺の華麗なる自己分析を邪魔するのは。

 俺は地面に伏せていた顔を上げるとそこには――。

 

 ――服、というか鎧を着た二足歩行の緑色の龍がいた。

 

 ……こ、今度は二足歩行の龍かよ……。


 どうすればいいんだ……とりあえず人に、いや人じゃなくて龍だけど、会ったら挨拶が基本だよな。うん!

「……こ、こんにちマーブル……」

「……………………」

 あれ・・・? 通じてない?

 やっぱ日本語じゃ通じないか。そりゃ、日本語の国語は日本だけだし。※公用語。

 だったら……。

「……ヘ、ヘロォー……? グッドハッピー……オーケー……?」

「……………………」

 ちくしょう、英語も通じねえじゃねぇかよ。英語ってみんな知ってんじゃないのかよ。

 確かに俺の英語力は周りよりちょっとだけ劣るけど、ここまで通じないとは。一体こいつには何語で話せばいいんだ?

 しかたない……こうなりゃ奥の手だ……最近勉強したあの言葉で……。

「ん、んんっ……Weiß Kapitulation vor meinem bösen Geist!」※訳(我が邪心の前に屈服しろ!)

「……………………」

 ……なんでだよおおおおおおおお!

 せっかく練習したドイツ語も通じないなんて!

「……おい」

 わかってたよ。ああわかってましたとも! 英語が通じないのにドイツ語が通じるわけがないなんてことは! だけどよぉ……じゃあ俺は一体どうすりゃいいんだよおおお

「おい、そこの人間」

 はいはいそうですよ、俺は所詮人間……え……?

「さっきから何を一人でぶつぶつ言ってるんだ? 二回目からはわけの分からん言葉だったし。何かの呪文か?」

「…………えっと……英語と……ドイツ語……です……」

「それも言葉なのか。知らない言語だな」

 …………に、日本語通じるじゃねえかよおおおおおおおおおおおおお!

「おいドラゴン! 何で日本語が通じるんだよ! てか、通じるんなら最初の挨拶で返してくよ! 俺めっちゃ恥ずかしい思いしたじゃねえかよ!」

「ドラゴンって俺のことか? てかお前、こんにちマーブルって何だよ。俺はなんて答えればよかったんだ?」

……なっ、……なん……だと……!?

 こんにちマーブルが通じなかったというのかっ!? たいてい俺の周りではこの挨拶でオールオッケーなのに……こんにちマーガリンの方が良かったかな?

「それにな人間。俺はドラゴンって名前じゃねえ。ナディスターっていうんだ」

「ナディスター、すげえ名前だな。俺は立花黒人(たちばなくろと)。よろしくナディスター」

「おう。俺のことはナディスでいい。よろしくなオタク」

「いや待てええええええいいいいいいいいいいいいい!」

「…………?」

「なんでいきなり俺の黒歴史掘り起こすの? ユーアーホリカエシヒューマンですか!?」

「なんかお前の名前呼びにくいから名乗りの頭文字くっつけたら、良い感じになってさ。それに……なんか似合ってるぞ」


 ノオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 俺は所見のドラゴンにまでオタク認識されてしまったよ。俺ってそんなにオタクオーラ滲み出てるのかなぁ……まあ今はそれどころではない。

「それよりナディス、ここは一体どこなんだ? 俺は日本って言う国に住んでたのだが、突然光に包まれて、このジャングルに来ちゃったんだ。だから教えてくれ。ここは一体……?」

「そうか……お前……異来人(いらいじん)か。初めて見るが、こっちのと変わんねえんだな」

「異来人……? こっちの……?」

「ここは……」

 早速スルー!?

「龍が大半を占める世界……」


 ―【ディオリオン】―

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