Day3
今日で3日目だ。
まさかここまで長居することになるとは正直思っていなかった。
すぐにここにいるのも無価値だといってさっさとスイスに行く予定だったはずだったのに。だけど、予定が崩れてよかったのかもしれない。
少なくともまだ私はここにいたい。
そして寂波の店に向かったのだが…
「いらっしゃい!お待ちしてました!」
「あれ…?仮面が変わってる。」
仮面が変わったせいで一瞬誰だか分からなかった。
「あーボクは気分によって仮面を変えるんだ!民族衣装もだけど。今日はスチームパンクだぞ!かっこいいだろ~!」
確かにこういうのは浪漫があってかっこいい。
「だけど仮面によって性格が変わるわけじゃないからな!さすがにそこまで器用じゃナイッテ!それに仮面をつけるからスイッチが入るだけでいくつもスイッチがあるわけじゃないんだ。」
なるほど、それもそうだ。
「最近はコスプレとかあるけど別にボクは特定のキャラとか人になりきりたいわけじゃないからそれとはちょっと違う気がするナッテ思うんだ。」
「言いたいことは分かるけど…どうした?急に真面目に話出して…」
「あれれれ?ついスイッチがOFFっちゃってたよ!」
「無理してるんじゃないか?」
「そんなことないよ!まぁ、楽だけど大変だよね!」
「でも人間だれしも仮面をかぶってるもんだよ!化粧が当たり前になってるし、最近は相互監視社会とかいってSNSとかもあるから芸能人とかは顔隠したりするし…まぁ、それは昔からだけど今は一般人のプライバシーの権利もあってないようなもんだしね。みんな猫被って自分に嘘ついて生きていかなきゃいけないし、顔がブサイクなだけで生きていくのが困難になる顔面格差社会だし。その点仮面ッテイイヨネ!最高だよ!」
「………」
もしかしたら、彼女と私は真逆の存在だと思っていたが意外と似たような存在同士なのかもしれない。
「…そうだな。」
「あーんーと、ちょっとスイッチが故障中みたい。ここまでこんな話をしたのは銀河クンが初めてだよ。」
「なぁ、寂波。お前のこともっと教えてくれないか。」
「どうして?」
「いや、もしかしたらお前と似た者同士で分かり合えるかもしれないな~なんて…」
「しょーがないなぁ。いいよ、話してあげる。」
「えーっと何から聞こうかな…何もかも謎だらけだもんなぁ…」
「じゃあ、ボクが簡単に今更だけど自己紹介するよ。ボクは寂波 哀。こう見えても女子。18歳。高校卒業して家出してここまで来た。えーっと誕生日は4月9日。血液型はB型。好きなものは仮面と民族衣装とあとはカレー!特に辛口!嫌いなものはすっぱいもの。…大体こんな感じかな?」
「18か…ちょうど10歳違うのか。」
「え!?てことは28?」
「まぁそうなるな。若く見えたかどうかは聞かないでおく。その質問は無意味だからな。」
「それ、遠回しに聞いてるよね?まったく銀河クンも困った人だね。じゃあ、銀河クンはどんな人なの?」
「私は…」
「………」
「…えっと…その…たった数日前脱サラしてここに…」
「えっ!?どして?」
「それは……」
「これ以上は聞かないでって顔してる。もうしょうがないなぁ。キミも変に詮索はしなかったしここはお互い様ってことで。10歳年下に気を使われるのはどんな気持ち?」
「……年齢でマウントを取ろうとするのはよくないよ。それに今更気を使われても…」
「素直に恥ずかしいって言えばいいのに…」
「お前だって素直じゃないくせに…」
「……」
「……」
なんか夫婦漫才みたいになっているが、どうすればいいんだ。
「やっぱり間違ってたのかな。」
「え?」
「本音でしゃべったこと。まぁ、ボクからしゃべったんだけどさ。やっぱり大切なことは胸にしまっておくべきだったのかもなって…」
「……」
なんか今度は重い空気になって来た。あぁ、こんなの私だって経験したことなんてないんだ!くそっ!やっと価値ある何かを見つけた気がしたのにこのままじゃなかったことになってしまうかもしれない。それは…手放したくない。
「人間だれしも仮面を被ってる。本音を話すことも本性をさらけ出すのも辛いことだ。そういう社会になってしまった。私も、そうだった。表向きはいい人を装っていたからな。でも、本心では全て無意味で無価値だとしか思えなかったんだ。
でも、ここに来てお前と会って少しだけいい意味で価値観というか考え方が変わった気がするんだ。もう二度とこの思想は変わることはないと思ってた。それを覆したんだ。今こうして、お前と本音で語り合えてるのもこの仮面と民族衣装と寂波のおかげなんだ。これが素直な気持ちなんだ。だからその…」
「…なんで…そんな辛そうな顔してまで話すんだよ…」
そんなに辛そうな顔してたのか。自分じゃ良くわからない。
「銀河クンだって同情誘ってるじゃん…ずるいよ。」
「寂波、そういうお前はどんな顔してるんだ?」
「…え?」
「やっぱりそれだけは駄目なのか?私は見てみたいんだが…仮面同盟に入ってる奴がいうことじゃないよな。分かってる。分かってるけど、気になってしょうがないんだ。」
「しょうがないな…その同情、買ってあげるよ。いつもこっちが押し付けてばっかりだったしたまには…ね。ただし、半分だけ。それでいい?」
「ありがとう…」
そして彼女は左半分だけ見えるようにそっとずらした。
てっきり仮面で隠してるから不細工なのかと思ったが、すごくかわいくて美人だった。どうして隠しているのか不思議なくらいだった。
まさか、不細工だと言われ続けたせいで整形した…とか?でも素人目から見る限りそんな感じは見受けられないが…
彼女は俯いていた。いつもならこっち見てとか言うはずなのだがそんな気配は全くなかった。
「なんでこんなかわいくて美人なのに隠しちゃうの?もったいないよ。」
「…キミって無意識でそういうこと言っちゃうタイプなんだね…顔じゃなくて性格が自信ないんだよ。でも、仮面をつけたり民族衣装を身に纏うと不思議とスイッチ入っちゃうんだよね。前よりは喋れてるけど、一時的だしそれにキミだからこんなにしゃべれるんだと思う…社会復帰は無理なんだよ…」
「たったさっき社会と会社両方捨てた私にそれをいうのか…でもまぁ十分喋れてると思うよ。全然しゃべらないヤツも結構いるし。学校とは違うとこもあるし。私がやめたのはその仕事と人間関係に価値と意味を見出せなかっただけだから。」
「でもやっぱりそこまで辛い思いして社会に出る必要もないとは思うけど。でもこれはあくまで私の考え。死ぬことはやめてもいいけど、もう一度戻りたいかって言われるとなぁ…寂波は仮面ありもなしもどっちもいいと私は思う。」
「この隠れSが…」
「え?なんでそんな睨んでるの!?私なんかしたか?」
「いや…無自覚が一番達悪いよとだけ言っておくよ。」
「素直すぎるのもよくなかったかな?」
「……そんなことは…ないけど………」
「そうだ。私もあえて顔全部隠れる仮面に挑戦しようかな。この黒い狐の奴をくれ。」
「3000円になります…」
相変わらず高いのか安いのか分からん値段設定だ。
「一体どういうつもりで?」
「欲しいから買う、ただそれだけだ。」
「そう…ですか。」
「明日も来る。仮面に関しては…どっちでも構わない。好きにすればいい。」
「………」
そうして私は宿へと戻るのだった。
どこまでしゃべっていいのか、加減がいまいちつかめない。
こんなことはほとんど初めてだったからどうしようもなかったんだ。
これでも私なりに頑張ったんだ。
まぁ、頑張ればいいってもんじゃないのは重々承知の上なんだが。
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